ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

大倉崇裕「犬は知っている」(双葉社)

大倉さんの最新作。警察病院で患者の苦痛や恐怖を和らげるために常駐するファシリ

ティドッグのピーボ。普段は小児科病棟で子供たちを癒やしているが、実はピーボ

には裏の任務があった。それは、特別病棟に入院している瀕死の受刑者たちの

元へ行き、彼らが関わった事件に関する重要な情報を引き出すこと。普段は頑なに

口を閉ざしている彼らも、なぜかピーボを前にすると心を癒やされ、口を開いて

しまうのだ。ピーボとバディを組むのは、ある理由で窓際職に追いやられた笠門

巡査部長。笠門は、ピーボが受刑者たちから引き出した情報を元に、事件の捜査

を開始する――。

警察犬とはまた違った職務に就いている、ファシリティドッグのピーボが活躍する

警察小説。ゴールデンレトリバーのピーボは、そこにいるだけで、その場にいる

人々の心を癒やし、頑なな心を溶かしてしまう。なぜか、凶悪な受刑者たちも、

ピーボを前にすると心を許し、口が軽くなってしまう。なんとも不思議な魅力を

持つ犬です。ほんとに、ピーボの賢さには何度も驚かされました。ピーボの

ハンドラー、笠門巡査部長とのコンビもいいですね。笠門は、ピーボがいないと

てんで使い物にならないへっぽこ警官って感じの設定ではあるのですが、なんだ

かんだで最終的にはピーボがもたらしてくれた情報を元に事件を解決してしまう

のだから、実は結構切れ者なんじゃないかと思うな。お互いに信頼関係が結ばれて

いるのがわかって、微笑ましかった。

凶悪な受刑者たちと対峙しなきゃならない時は、かなりピーボにとってもストレス

がかかりそうなのが少し気がかりでしたが。それでも、毅然と職務を遂行しようと

するピーボが健気で頼もしかったです。

ミステリ的にはさほど瞠目するようなところはなかったのですが、とにかく癒やし

のわんこ、ピーボが可愛いので、それだけで十分楽しめました。

作中で警視庁の総務部動植物管理係のこともちらっと触れられているので、もしか

したら薄ちゃんも登場するかな?とちょこっと期待したのだけれど、残念ながら

出て来なかったですね。大倉さんの警察ものは、大抵繋がっているから、今後

どっかで登場するかもしれませんけどね。

今回出て来た、資料編纂室の五十嵐いずみ巡査もなかなか良いキャラでした。

笠門巡査部長とのやり取りは結構好きでしたね。

最初、犬の名前、ピーポだと思って読んでたら、ピーボでした。まぁ、そもそも

その由来も、始めはピーポだったけど、小児科のこどもたちが呼びにくそうに

していたから、ピーボになったそうな。子供だと、ピーボの方が呼びやすいん

ですかねぇ。ピーポの方が読みやすい感じもするけれど、どうなんだろ。

ま、ピーポだと、完全にピーポくんを彷彿とさせちゃいますけどね。

私もピーボに癒やしてほしい~って思いました(笑)。

 

凪良ゆう「星を編む」(講談社)

2023年本屋大賞受賞作『汝、星のごとく』の続編。人気ありすぎて、回って

来るのに時間かかりましたねぇ。ようやっと読めました。今年の本屋大賞にも

ノミネートされているので、結果が出る前に読めて良かった~(発表は明日かな?

ギリギリだった^^;;)。

続編と紹介しましたが、三作が収録されていて、純粋な続編はラストの一作だけで、

他二作はスピンオフ的な作品です。

 

以下、若干、内容に触れたネタバレ的な感想が入っております。

未読の方はご注意ください。

 

 

 

 

 

一話目の『春に翔ぶ』は、北原先生の過去のお話。彼がなぜ、血の繋がらない

結ちゃんという子供を育てることになったのか、その理由が明らかになります。

いやもう、北原先生、良い人過ぎんか!?暁海に対してもそうだったけど、昔

から真面目でお人好しなところは変わってなかったんですねぇ。彼の菜々に対する

教師としては少し逸脱し過ぎな言動には、何度もヒヤヒヤさせられました。どこで

誰に見られているかわからないですからね・・・時代設定がいつなのかいまいち

はっきりしないけど、少し前の時代だとしても、ね。教師と生徒ですからね・・・。

菜々の妊娠を知らされた敦くんの態度には腹が立って仕方なかったです。まぁ、

彼の立場を考えると、仕方がないのかもしれませんが・・・。結構ありがちな展開

ではありますけど、やっぱりそこに少しくらいは誠実さがあってほしかったです。

彼女のそばに、北原先生がいたことが、せめてもの救いでしたね。先生にとっては、

背負わなくてもいいものを背負ってしまった訳ですが。でも、その後の結ちゃんとの

関係なんかを考えると、あの選択はきっと人として間違ってなかったんでしょうね。

本編の時にはわからなかった、北原先生の人となりや苦悩が知れて良かったです。

二話目の『星を編む』は、櫂の小説に携わった柊光社の編集者・植木と、薫風館の

編集者・二階堂、二人の物語。二人とも編集長に昇進しています。櫂が亡くなった

翌年のお話。それぞれに、櫂の小説を出す為にたくさんの障害と戦って、傷ついて、

それでも、彼の才能を疑わずに邁進した同士。二人には、『共闘』という言葉が

似合うと思う。男女の枠を超えて、同じ勝利を掴む為に協力し合って、励まし合って、

『櫂の本を売る』という目的の為に戦う同志。少しだけ、男女の感情が垣間見えた

瞬間もあったけど、結局深い仲にはならずに、その感情には目を瞑ってやり過ごした

ところが、大人だなぁと思いました。ま、お互いに家庭もあるし、踏み込んじゃ

いけないのは間違いないですしね。そこで足を踏み外さないところが、二人の

いいところなんじゃないかな、と思いましたね。安易に不倫に走るような人間に、

櫂の本を作って欲しくはないですもの。って、二階堂さんはかつて不倫したひと

なんだったっけ(しーん)。二階堂さんの旦那さんの言動は、なんだか怖かった。

ちょっとサイコパスっぽい雰囲気ありますよね、この人。誠実そうに見えて、

全然誠実じゃないことやってるし。まぁ、子供を作ることに関する二階堂さんの

旦那さんへの応答もひどかったですが。こんな表面だけ取り繕ったような歪な関係は、

やっぱりいつか破綻する運命だったとしか思えなかったですね。どっちもどっちだと

思いました。

三話目の『波を渡る』は、『汝、星のごとく』の後日譚。暁海と北原先生のその後の

生活が、年を追って描かれます。相互に助け合う為に結婚したふたりの関係が、

その後どう変化していくのか。少しづつ時が進むごとに、その想いも形も変わって

行く。その様子が丁寧に描かれていて、良かったですね。何度か離婚話も勃発

するけど、それも乗り越えて。二人の関係は、複雑に思えて、実はすごーく単純

にも思えました。ただ、本人たちが認めてなかった(気づいてなかった?)だけで、

もうずっと、胸の底にあるのは愛だったんじゃないかなって思う。もちろん、

最初はそうじゃなかっただろうけど。暁海は櫂のこともありましたからね。でも、

激しかった櫂への愛とは全く別の形で、暁海は北原先生のことを愛し始めていたのでは

ないかな。北原先生の方は、もしかしたら、最初の方からその感情があったのかも。

晩年の二人の関係は、もう、完全に理想の夫婦って感じでしたね。始まりは歪な

関係だったかもしれないけれど、長い年月を経て、いろいろな経験をして、ゆっくりと

穏やかでお互いを思い合える関係になっていったんだと思う。

二人であちこちに旅行に行って、楽しそうにしている姿が微笑ましかったです。

ほんと、一緒にご飯を食べて、おいしいねって言い合える人がいるのって幸せな

ことだと思う。もう、それだけで、十分なんだよね。周囲の人のわだかまり

解けていて、穏やかな凪のような老後を過ごしている二人が、とても幸せそうで、

私も嬉しかったです。二人とも、いろいろあったものね。最後くらい、静かに

穏やかに暮らしたっていいんじゃないかな。

 

暁海でも北原先生でもない主人公を据えた二話目のタイトルが表題作になっている

ことに違和感を覚えてしまうけど、『汝~』についている『星』がこちら

にもついているから、それを受けてこれにしたのかなぁ。内容的には、一話目と

三話目のどちらかが表題作になるべきって気もするんだけどもね。

『汝~』と対になるような装丁も素敵でした。『汝~』の内容が補完されるような

作品なので、二作併せて、読んで頂きたい傑作だと思いました。

 

 

 

ほしおさなえ「言葉の園のお菓子番 復活祭の卵」(だいわ文庫)

シリーズ第四弾。亡き祖母が通っていた連句会『ひとつばたご』に、祖母の代わりに

月に一度お菓子番として通う傍ら、ブックカフェで働き始めた一葉。歌人の久子

さんと小説家の柚子さんによるトークイベントが好評を博し、今度は短歌の書き方

指南のイベントを開くことになった。しかも、そのイベントの企画を一葉が任される

ことに。責任ある仕事に尻込みする一葉だったが、前へ進む為にも引き受けることに。

そんな中、一葉は、『ひとつばたご』主催者の航人さんの過去にまつわる情報を

柚子さんから打ち明けられて――。

今回は、いつものように『ひとつばたご』で参加者たちが連句を作る様子も描き

つつ、一葉が手掛ける短歌のイベントの様子も追って行く形。連句も短歌も、

どちらにしても才能がないと作れないし、ひらめきと言葉選びの大事さを感じ

ました。ひらめきも語彙力もない私には到底無理だーーーと思いました^^;

特に連句は、何人かで句を出し合って創って(巻いて)行くものだから、いろんな

人の感性が重なって、思わぬ着地点になったりして、とても面白いです。誰の句を

採用するかによっても、全然方向性が違うものになって行ったり。奥が深いなぁと

思いますね。誰の句を採用するか決める『捌き』担当の人の感性も大事かな、と

思いました。

出来上がった連句を通して読むと、句の連なりというよりは、物語性のある詩を

読んでいるような印象を受けたりもします。ひとりひとり全然違った雰囲気の句

だったりするのに、通して読むとしっかり繋がりを感じられるというのも興味深い。

人と人とが縁によって繋がって行くように、連句も言葉によって人と人とを繋げて

くれるもののように感じられて、素敵な文学ツールだなぁと思いますね。

今回、一葉たちの『ひとつばたご』が参加した、連句の大会というのも面白そう

でした。でも、制限時間内があると焦っちゃいそうだと思いましたけどね^^;

今回、明らかになった『ひとつばたご』主催の航人さんの過去。彼の離婚には

こういう理由があったのですね・・・。少しの行き違いで、ああいう結末を

迎えてしまったことが悲しかったです。まぁ、少しづつ、歯車が合わなくなって

行ってたんでしょうけども。でも、完全に奥さんに非があるような・・・。お互い

に思ってることを何でも言い合える関係だったら、きっとああいう風にはなって

なかったんでしょうね。なんだか、やりきれないな、と思いました。でも、今回

再会してお互いの近況がわかったことで、少しわだかまりが解けたなら良かった

かな。

一葉も、ブックカフェでの仕事に慣れて、少しづつ責任ある仕事も任されるように

なって、成長しているな、と感じます。一葉が創る句も素敵なものが多いです。

才能あるんじゃないかなー。やっぱり、実体験から創られる句は説得力があって

いいですね。こういう才能が私にもほしい・・・(創作能力の才能ゼロ人間)。

毎度ながら、出て来るお菓子も美味しそうでした。

 

 

藤崎翔「三十年後の俺」(光文社文庫)

元お笑い芸人の藤崎さんの文庫新刊。新刊なのは間違いないけれど、単行本が

文庫化されたもののようで、単行本時はこちらも作中の「『比例区は「悪魔」と

書くのだ、人間ども』」の方がタイトルだったらしい。長ったらしいタイトルだし

内容がわかりにくいから、最後の方に収録されてるこっち(「三十年後の俺」)

の方をタイトルに変えたのかな。確かに、こっちの方がすっきりしていて良い

ような気がするな。

短編とショートショートが交互に六作づつ収録されていて、全部で十二編。

なかなかバラエティに富んだ作品ばかりで、楽しめました。かなりぶっ飛んだ

設定のものも多くて、さすが元お笑い芸人だなぁって思いましたね。これだけの

ネタがよく思いつくものだ。今の時代に合った題材を意外な視点で取り上げて

いたりして、盲点を突かれたって作品も多かった。

 

では、各作品の感想を。

『日本今ばなし 金の斧 銀の斧』

あの有名な昔話の『金の斧 銀の斧』を現代に持ってきたらどうなるか。神様の

話を誰も信じてくれないせいで、神様なのに散々な目に遭っちゃうところが、

哀れになりつつ可笑しかった。

 

 『ショートショート 貴様』

『貴様』という言葉が、昔と今とでは違った使い方をしているところから発展

させた作品。さすがに、こんな言葉遣いが敬語になる未来にはなってほしくない

です・・・。

 

『一気にドーン』

アンチエイジングで名を馳せる、美のカリスマ・香奈子。55歳の年齢をまったく

感じさせない美しさで巨万の富を得た。しかし、ある日突然一気に老けがやって

来て――。

いや、怖いわ。一晩で一気に老けるとか。そのせいでさんざんな目に遭ってしまう。

誰も自分があの美容のカリスマだと信じてくれない。ああいう状況になると、

巨万の富も何の役にも立たなくなるんですね。人間不信になりそうだ^^;

 

 ショートショート マッチングサイト』

なんでもマッチングサイトに頼って生きて来た僕。それで順風満帆の人生だと

思ったが、結婚して父親になった時の『父親像マッチングサイト』の結果が原因で、

人生が崩れて行く――。

マッチングサイトの大渋滞(笑)。自分の人生は自分で切り開くのが一番なんで

しょうね。

 

『伝説のピッチャー』

甲子園の伝説のピッチャーと言われて、鳴り物入りでプロ入りをした俺だったが、

その後はさっぱり活躍できず、年々年俸を減らされている。挙句の果てに、ギャンブル

に手を出し、巨額の借金を抱え、ヤクザに脅される羽目に。ある日、ヤクザから

今度の試合で八百長をしろと命じられるのだが――。

賭博なんかに手を出すからこんなことになる訳で。最後、起死回生の変化球が生まれた

のに、皮肉な結末に。でも、最後にあんな球が投げられて、野球選手としては本望

だったのでは。

 

 『ショートショート シンデレラ・アップデート』

あの名作童話の『シンデレラ』をここまでぶっ飛んだ作品にしちゃうとは^^;

でも、確かに、王子が靴のサイズだけでシンデレラを捜し当てたのは間違い

ないですよね。顔覚えてなかったって部分は盲点だったかも。こっちの、革命

起こしちゃうシンデレラ、かっこよくて好きかも(笑)。

 

『心霊昨今』

空襲で死んだ俺は、七十五年経つ今も、恨みを持って成仏できずに現世にいる。

現代の人間たちは、死者への恐れと敬意が欠けている。俺は、なんとしても、

こいつらに幽霊への恐怖を植え付けてやりたいのだ――。

主人公が、なんとかかんとか現代人に恐怖を与えようと四苦八苦するところが

健気でもあり、滑稽でもありました。確かに、心霊番組とか今はほとんどなくなり

ましたもんねぇ。なんだかんだで人が良い主人公には好感持てましたね。生まれ

変わった来世では幸せになってほしいですね。

 

 ショートショート 未来の芸能界』

ちょっとした不祥事で謝罪会見を行わなければいけなくなった今を皮肉った作品。

コンプライアンスが叫ばれる今のご時世を考えると、未来の芸能界は本当にこんな

風になっているかも・・・。

 

比例区は「悪魔」と書くのだ、人間ども』

悪魔の恰好で選挙に立候補した、イロモノ候補のサタン橋爪。しかし、YouTube

を使った生配信が若者たちの心を掴み、なぜか当選してしまう。そして、橋爪

率いる『悪魔党』は、少しづつ支持率を上げて行き、ついに橋爪が内閣総理大臣

になる日がやって来る。そして、世界が橋爪の『悪魔運動』に感化されて行き――。

こういう、斬新で国民のことを考えてくれる政治家が現実にもいてくれたら・・・

とついつい読んでいて考えてしまった。このビジュアルはどうなの、とは思う

けども。ただ、最後に明かされる橋爪たちの正体には面食らわされましたが。

シュールすぎる^^;

これを単行本のタイトルに据えたのは、なかなか冒険だったんじゃないかなぁ。

インパクトはこちらの方があったかもですけどね。

 

 ショートショート 宇宙人用官能小説』

十八歳以上のメセランボ星人の為の官能小説。という訳で、地球人の私には

さっぱり意味がわからないのでした・・・ははは。

 

『三十年後の俺』

部活から帰宅して庭に自転車を停めようとしていた俺は、背後から声をかけられた。

知らないおじさんだった。しかし、どこかで見たような顔・・・すると、おじさんは、

『俺は、三十年後のお前だ』と言った。タイムスリップしてここにやって来たと

言うのだが――。

ラスト、思わぬ感動の展開に。途中からおじさんの正体にはピンときちゃう人が

多いんじゃないかな。それでも、その後の展開には胸を打たれました。ありきたり

といえば、ありきたりな内容かもしれないですが、私は好きな作品でした。

 

 ショートショート AI作』

恐ろしいのは、これが決して未来の話ではないところ。今でも十分あり得そうな

話だと思う。最後、ゴミ箱に捨てられた小説の作者は・・・。

 

 

 

友井羊「スープ屋しずくの謎解き朝ごはん 巡る季節のミネストローネ」(宝島社文庫)

シリーズ第8弾。もう8巻なんですね~。そして、8冊目にして、ついに主人公

の理恵さんが、スープ屋しずくの店主・麻野さんに告白しました。長かった

ですねぇ・・・。しかし、冒頭・プロローグの時点で告白した理恵さんでしたが、

『少し時間がほしい』と言われてしまい、お預け状態でその後、通常の物語が

始まります。麻野さんも罪なことするなぁと思いましたが、やはり亡き妻の静句

さんのことも、露ちゃんのこともあるしなぁ、仕方ないかもね、と納得していた

訳なのでしたが・・・。でも、ここまで作品読んで来て、麻野さんは確実に理恵

さんに惹かれていると思ってたので、ちょっと腑に落ちない気持ちはありました

・・・が。

やー、こういうことでしたかー。ぜんっぜん気づいてなかったです。この仕掛けに。

まぁ、確かに、オリーブの苗木の成長に関しては、ちょっと変だなぁとは思って

たんですけどね。

一話ごとに季節が変わり、それによって出て来るミネストローネの種類も変わって

行くという演出に、すっかり騙されてました。しかし、ミネストローネだけでも、

こんなにいろんな種類が作れるとは驚きです。普通に、トマト味のミネストローネ

しか食べたことないし、作ったこともなかったので。山菜を使った和風のもの、

夏にぴったりな冷製のもの、秋野菜を使った黄色いもの、冬野菜を使った緑色の

もの・・・と、四季に合わせて、どの季節でもミネストローネが楽しめるように

考えられているところが、麻野さんの素晴らしいところだな、と思いました。

まぁ、トマト使わなくても、野菜を入れて煮込めばミネストローネって言えるって

ことなのかな?黄色の時は黄色いトマトを使ったと言ってましたけれどね。

どれも美味しそうでした。

しかし、理恵さんのように、朝ごはんであれだけ頻繁に外食するのは、私には到底

無理だなぁ。値段設定どうなってるかわからないけど、多分千円前後はしますよね。

パン食べ放題とかもついてる訳だし。その分、ランチで節約してるとかなのかな。

まぁ、会社員でそれなりに収入あるから出来るんでしょうけどね。

ラストの一話は、かなり不穏なお話。静句さんの過去の出来事が描かれます。

静句さんが、懇意にしていた女子中学生に乱暴を働いたのはなぜなのか。その

真相には驚かされました。こんなモノを当時の女子中学生が持っていたとは・・・

恐ろしすぎる。昔の昆虫標本キットって、本当にこんなものが使われていたので

しょうか・・・そうだとすると、怖すぎる。昆虫標本って子供の頃に流行った覚え

があるけどね。まぁ、その頃はもう違うものになってたんでしょうけどもね。

理恵さんの、静句さんに対する強い想いに胸を打たれました。本来なら永遠に

適わないライバルの筈なんでしょうけどね。それだけ、静句さんという女性が

素晴らしい人だったということでもあるし、そのことを素直に認められる理恵さんも

とても素敵な女性だな、と思えました。

さて、本書のラストを受けて、そろそろ物語もクライマックスに近いのかな。

本書が最終巻とも書かれていないから、さすがにこれで終わりではないと思う

けど・・・。この先の二人のことも読んでみたいから、ぜひ続きをお願いしたい

ところです。

 

 

 

下村敦史「そして誰かがいなくなる」(中央公論新社)

下村さん最新作。乱歩賞でデビューされた下村さんですが、意外にも初の本格

ミステリーだそう。確かに、雪で閉ざされた洋館に集められた男女が殺人事件に

巻き込まれるという、設定からしてこってこてのクローズドサークルミステリー。

本格を何より愛するワタクシとしては、設定だけでもう、よだれが出ちゃうくらい

好みでワクワクしながら読んでいたのでした。ぐふふ。出てくる登場人物には、

一切好感持てる人物がいなかったですけどね。これもまぁ、本格ミステリ

セオリーに則ってる感じなのかな、と(だいたい、人間が書けてないとか言われ

ちゃうやつ)。

作家生活20周年になる、人気作家・御津島磨朱季が、細部にまで拘って建てた

新築の館のお披露目会が開催されることになった。招待されたのは、新進気鋭の

作家や編集者、文芸評論家たち。会は和やかに進行したが、仕事があるといって

早々に家主の御津島が退出してしまった。残された招待客たちが、各々自由に

過ごしていると、突然、どこかから御津島の断末魔のような叫び声が聞こえた。

各自で御津島の姿を探すが、どこにも見つからない。一体、作家はどこへ消えて

しまったのか。御津島は、初対面の挨拶の際に招待客たちの前で、晩餐の席で、

ある作家のベストセラー小説が盗作であることを公表すると予告していた。

それぞれが不安な時間を過ごす中で、第二第三の事件が起きてゆく――。

二転三転する真相には翻弄されました。御津島消失の真相は、それなりによく

出来たロジックで証明されて行くのですが、普通の本格ミステリの範囲を

超えるほどの驚きはありませんでした。正直、拍子抜けの真相だったと言わざるを

得なかった。ただ、最後の最後で更なる作者の大仕掛けが判明します。特に、この館

自体の真相には驚かされたなぁ・・・。作中に、実際の館の室内の写真が何枚か

挿入されているんですよ。良くこんなぴったりの内装の館見つけて来たなー、

もしかしたら、実在する館ありきでこの作品が書かれたのかな、とか思ったりも

してたんですが。まさかの事実が明らかに。これにはびっくりした。作者の隠し玉

ってこれか!と思いましたね。

確かにね、御津島磨朱季って、読みにくいし変なペンネームつけたよなぁと思って

たんですよね。本当の読みは『おつしま』だけど、読みやすいように『みつしま』

にしてる、とか妙に細かい設定もあったし。最後に明かされる事実によって、

そういった細々した伏線が全部、腑に落ちました。

その最後に明かされる事実に関して、いろいろ感想書きたいことはあるんですけどね。

全部、ネタバレになっちゃうので、敢えて書かないようにします。しかし、一生に

一回しか絶対に使えないネタですよね、これ。全ミステリー作家が、一生に一度は実際

やってみたいんじゃない?いやー、この御津島御殿、実際観てみたいなぁ。隠し

部屋の仕掛けとか、めっちゃオーソドックスだったけど、ワクワクしちゃいました。

こういう館で、ミステリーイベントとかやったら楽しそうだなぁ。

本格ミステリがお好きな方には楽しめる一作じゃないかな・・・たぶん。

 

森見登美彦「シャーロック・ホームズの凱旋」(中央公論新社)

久々のモリミーの新刊。楽しみにしていたのだけど・・・な、長かった・・・^^;;

タイトルから推察できるように、世界に名だたる名探偵・シャーロック・ホームズ

を題材に取り上げた意欲作。ただし、舞台はヴィクトリア朝の京都。洛中洛外で

活躍するホームズの姿が・・・見られません^^;なぜなら、冒頭からホームズは

スランプに陥っていて、探偵活動を全くしないからです。モリミーが探偵小説!?

とびっくりしたところもあったのですが、作中でホームズはほとんど推理をして

いないので(スランプ中であるため)、あまり違和感なくお書きになれたのかなぁ

と思ったりしました(実際のところはよくわかりませんが)。終盤で少し、読者

に対する仕掛け的な要素は出て来ますが。ただ、どちらかというと、『熱帯』で

見られたような、メタ的な要素が強くて、ファンタジー小説と言った方が近いかな、

と思いました。

 

以下、ネタバレ気味の感想になっております。未読の方はご注意ください。

 

 

 

 

 

私個人、実はホームズの小説を読んだことがありません。某NHKのドラマを

ちょこっと観たことがあるくらいで。だから、ホームズの登場人物とか作品とか、

全然知らないんですよ。ホームズとワトソンがわかるくらい。あ、モリアーティ教授

の名前は知ってますけど、どういうキャラクターとかは知らないですし。だから、

作中でどれくらい、本家のキャラクターとか設定が反映されているのか、とかは

全然わからなかったです。知ってた方が、当然楽しめるんだろうなぁとは思いまし

たね。ワトソンの妻メアリさんとか、ホームズとワトソンが住んでいる下宿屋の

主人・ハドソン夫人とかは、本家にも登場するのかな?

正直言うと、あのホームズたちが京都にいるって設定自体が、違和感がありすぎて

なんだか世界観に入っていけなかったんですよね・・・。ホームズ=ロンドンの

ベーカー街っていうイメージが強すぎて。舞台が京都以外はほぼ本家の設定が

生かされてる感じなので、なんで京都にする必要があるんだろう?と思って

しまって。そこに必然性が感じられなくて。ただ、そう思って読み進めて行ったら、

途中で驚きの場面展開が待ち受けていて、ああ、だから京都だったのか、と一時は

納得出来たんです・・・が。その後、更に場面が展開して、終盤でまたわからない

状態に戻って来てしまい、結局そのまま終わってしまいました。結局、パラレル

ワールドの世界ってことで納得するしかないのかなぁ。ロンドンの方を幻想という

結末にしてしまったのが、個人的には納得出来なかった。こちら(京都)の世界が

幻想的な扱いだったら、すとん、といろんなことが腑に落ちたと思うのに。

あと、ホームズがずっとスランプ状態のせいで、情けない姿しかほとんど出て

来ないのが、ちょっと受け入れ難かったな。アイリーン・アドラー嬢との争いで、

スランプのくせに依頼をたくさん受けまくった挙げ句、結局ひとつも解決出来ず、

最後には敵であるアイリーンに全部解決させるし。勝算があって依頼をたくさん

受けたのかと期待したのに。何ソレ、とずっこけましたよ・・・。

終盤のホームズとワトソンの友情の部分はぐっと来たところもあったけど。

マスグレーヴ邸の<東の東の間>の謎も、めちゃくちゃ引っ張った割に、結局

なんだかよくわからないままだったし。異世界空間と繋がってたってこと?だから

そこに入った人間は年を取らずに何年も眠った状態でいられる?なぜ、そこに

入れるのは一人なのか。誰かを身代わりにしないとそこから出られないのはなぜ

なのか。もう、何もかもがよくわからなかった・・・。

ホームズのような探偵推理ものと、モリミーのような幻想的な作風の作品とを合体

させる意味がよくわからなかったです。

アマゾンの他の方の感想は概ね絶賛でしたが・・・。残念ながら、私には合わなかった

と言わざるを得ません。読んでも読んでも終わらなくて、少し読んだら眠気が襲って

来てしまって、ほんと苦戦しました・・・。京都が舞台なのに、出て来る登場人物

の名前がカタカナだから、誰が誰だかなかなか覚えらんないし(アホなだけ)。

せめてミステリ的な面白さとか、謎が明らかになる気持ち良さとかがあったら

違ってたかもしれないですけど・・・。

うーむ。久しぶりのモリミーで期待してたんですけどね。私としては、ちょっと

残念な読書になってしまいました。