ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

2019年 マイベスト

どうもみなさま、こんばんは。ヤフ―ブログからはてなに移って早や4ヶ月。

ようやく使い勝手にも慣れて来ました。こちらに来てから初めてのマイベスト

記事になります。そして、今年最後の記事になりそうかな。

実は、下書き状態でアップしていない読書記事があと4つくらいたまって

いるのですけど・・・^^;;それはまた来年、推敲次第、順番にアップしたいと

思います。

それにしても、一年が本当に早い。去年の今頃は、ヤフーが終わって違う媒体で

ベスト記事を上げるとは思いもしなかったな・・・時代は流れて行くんですねぇ。

こちらに移って、大部分のブロ友さんとは離れてしまいましたが、変わらずに

付き合ってくださる方も一定数いて、本当にありがたいことです。

来年もどうぞ変わらぬお付き合いを、切にお願いいたします。

 

前置きが長くなりました。ではでは、今年の締めとして、年末ベストをば。

対象は、毎度のことながら、今年一年間で読んだ本すべて。

数えましたらば、今年は今現在で読了本数は133冊。多分、明日中に読み終え

られそうな本があと一冊あるので、それも加えれば134冊になりそうですが。

去年の記事によると、去年は135冊とあるので、ほぼ変わりませんね。

まぁ、ここ数年は120~130前後で安定してますね。150冊くらいは

できれば読みたいところですけれど、なかなか難しいですね^^;

今回もノンミステリとミステリで分けますね。今年はミステリが豊作で、

考えるのが大変だった。逆に、ノンミステリはあんまり記憶に残るほどの作品が

なくて、あっさり10冊決まりました。順位はなんとなくの印象。

あくまでも個人の見解ですので、異論があってもさらっと読み流して頂けると

幸いです。

 

<2019年 ノンミステリベスト10>

1.古内一絵「マカン・マラン 二十三時の夜食カフェ」他シリーズ全4作

2.池井戸潤ノーサイド・ゲーム」

3.若林正恭「表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬」

4.吉田修一「続横道世之介

5.鈴木るりか「さよなら田中さん」

6.瀬尾まいこ「傑作はまだ」

7.三浦しをん「のっけから失礼します」

8.山本弘「世界が終わる前に BISビブリオバトル部」

9.恩田陸「祝祭と予感」

10.一木けい「1ミリの後悔もない、はずがない」

  次点 芦田愛菜「まなの本棚」平山夢明「あむんぜん」

 

今年はあんまりノンミステリで印象に残ってる作品がなくて、どれも

横並びって感じです。ただ、1位のマカンマランシリーズだけは、今年

出会えて一番良かった作品だと断言出来ますね。シリーズが完結してしまって、

とても寂しい。でも、続編が出そうな雰囲気もあるから、期待していたいです。

2位の池井戸さんは、やっぱり今年のラグビーブームの火付け役となった

ドラマの原作なので。まさか、読んでた時は、あそこまでW杯が盛り上がる

なんて露とも思わず。ドラマも大好きで、米津さんの主題歌もYou Tube

何度も何度も繰り返して聴いてました。

3位の若林さんは意外かもしれませんが、エッセイでこれほど感動させられる

とは思わず、とにかく驚かされた作品。そして、これ読んでた時は若林さんが

結婚されるとは露とも思っておりませんでしたwおめでとうございます。

4位の吉田さんは、久しぶりに世之介に会えて、とても嬉しかったので。

期待に違わぬ良作で、もっともっといろんな世之介の姿を読んでみたくなり

ました。

5位の鈴木さんは、中学生とは思えぬ筆致としっかりした作品構成に毎回

唸らされます。これがデビュー作だそうですが、文章力はすでに大人顔負け。

田中さん親子のキャラが大好きになりました。続編も良かった。

6位の瀬尾さんは、去年読んだ本屋大賞作品とはまた違った家族の物語で、

心がほっこりする良作。瀬尾さんの作品はいつ読んでも心温まります。

7位のしをんさんのエッセイは、とにかく面白い。久しぶりに初期の頃の

爆笑エッセイに近い内容で、大いに笑わせてもらいました。もっとこういう

エッセイを出して欲しい!

8位の山本さんは、久しぶりに読んだシリーズ三作目。個人的に待ち望んで

いたミステリ中心のビブリオバトルが読めて、大満足の一冊でした。

9位の恩田さんは、あの大傑作『蜜蜂と遠雷』のスピンオフが読めたって

だけで、テンションMAXでした。さらりと読めるけど、あの本編につながる、

重要な作品ばかりが集められていて、読めて良かったです。

10位の一木さんは、評判通り、派手な物語ではないですが、新人ながらに

文章力や表現力が素晴らしかった。今後の活躍が期待出来そうな逸材だと

思います。

 

続いてミステリ編。

<2019年 ミステリベスト10>

1.相沢沙呼「medium 霊媒探偵城塚翡翠

2.青柳碧人「むかしむかしあるところに、死体がありました」

3.宮部みゆき「昨日がなければ明日もない」

4.米澤穂信「本と鍵の季節」

5.京極夏彦「今昔百鬼拾遺 鬼」他シリーズ全3作

6.葉真中顕「W県警の悲劇」

7.道尾秀介「いけない」

8.早坂吝「誰も僕を裁けない」

9.三津田信三「魔偶の如き齎すもの」

10.今村昌弘「魔眼の匣の殺人」

  次点 横山秀夫ノースライト東野圭吾「希望の糸」

     青崎有吾「早朝始発の殺風景」若竹七海「不穏な眠り」

     水生大海「最後のページをめくるまで」

     似鳥鶏「目を見て話せない」他多数。

 

いやー、悩みました。今回は候補が20作くらいあって、どれを落とすかが

まずかなりの難関。未だに迷ってるところもありますし。その中での順位

づけなので、これまた難しかった。

ただ、1位の相沢さんは、読んだ時点でこれが一位だろうな、と自分の中で

ほぼ決まってました。け、決して、このミスや本ミスに迎合した訳じゃありま

せんよ!だって、騙されたって意味では圧倒的にこの作品に軍配が上がるんだもの。

このミスや本ミスで1位になったのにはちょっとビックリしましたけど、納得

です。是非、先入観なしに読んで頂きたい一作です。

2位の青柳さんは、昔話にここまでのひねくれた解釈を加えて、黒オチをつけて

しまった手腕にただただ脱帽。どのお話も完成度が高かったと思います。

3位の宮部さんは、安定の杉村シリーズ。やっぱり、黒さと読み応えという意味

では、さすがとしか言い様がないですね。探偵としての杉村も、大分板について

来た感じ。早く続きが読みたいシリーズです。

4位の米澤さんは、新シリーズの青春ミステリ。男子高校生コンビのキャラが

良かったし、ミステリとしての完成度も高かった。お気に入りのシリーズに

なりそうです。来年はついに小市民シリーズの新作が読めるようです。楽しみすぎ。

5位の京極さんは、久しぶりの百鬼夜行シリーズ。まぁ、本編ではないですけど、

あっちゃんと美由紀ちゃんの女性コンビがいい味出してました。欲を言えば

京極堂や榎さんも出してほしかったけれど。

6位の葉真中さんは、ほぼどんでん返しばかりを集めた警察ミステリ。気が

滅入るような黒オチばかりだったけれど、ミステリとしての完成度は高かった。

7位の道尾さんは、これまたひねりの聞いた短編ばかりの短編集。最後の1

ページの絵でオチがわかるという面白い趣向も効いていましたね。はるか前に

同じことをやっていたソブケンが悔しがってそうですけどw

8位の早坂さんは、いろいろえげつない描写も入っていますが、あり得ない

状況での犯人の大胆な犯行に目が点に。ミステリ的な仕掛けにもばっちり

騙され、いろんな意味で人にはお薦めしにくいけれども(^^;)、個人的には

感心した一作。

9位の三津田さんは、安定の刀城シリーズ。中編集ですが、どれも完成度が

高く、古典的なミステリの手法を踏襲した、この手の作品はやっぱり読んでいて

ワクワクしますね。

10位の今村さんは、一昨年のミステリランキングを席巻したあの作品の続編

ということでハードルが上がっているものを、しっかり本格テイストを

残して読ませる作品にしたところに感心させられました。飛び道具的な一作目

とは違って、割合正統派な本格ミステリを書いてきた印象。こういう系統なら

今後も続けて行けそうなので、期待しています。

 

 

と、こんな感じのランキングになりました。ミステリは、いまだにランク外の

作品の方が良かったような気がしたりして、迷いがありますが。とりあえず、

ミステリランキングは、ミステリとしての面白さ重視で選んでいます。キャラ

やストーリー重視で選べば、また違ったランキングになるかも。

みなさま、読まれた作品ありましたでしょうか。いろいろ異論もおありかと

思いますが、温かい目で見て頂けることを願っております。

 

ではでは、今年一年、駄文だらけの拙ブログにお付き合い下さいまして、

どうもありがとうございました。

また来年も、どうぞよろしくお願いいたします。

お身体に気をつけて、良いお年をお迎え下さいませ。

 

 

 

秋川滝美「ひとり旅日和」(角川書店)

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『居酒屋ぼったくり』シリーズの秋川さんの新作。タイトル通り、主人公が

ひとり旅の面白さに目覚めて、次々とひとり旅をして行くロードノベル。

主人公の梶倉日和は、人見知りで要領が悪いせいで、せっかく入った会社でも

上司に怒られてばかり。落ち込む日和に、ある日目をかけてくれている社長から、

ストレス解消にひとり旅に出てはどうかと提案される。戸惑う日和だったが、

会社の先輩で旅行好きの麗佳に後押しされ、とりあえず日帰り旅行に行って

みることに。まずは熱海へ。行ってみるとひとり旅は思いの外楽しく、日和の

ストレスを解消してくれた。そこから、旅の面白さに目覚めた日和は、次々と

旅に出るように。一つ旅に出る度に自分に自信をつけて行く日和は、仕事でも

少しづつ失敗が減って行くように――。

私も旅行は大好きで、毎年どこかへ出かけていますが、実は一人旅って一度も

したことがありません。旅は道連れってタイプなんで。うちの姉は独身時代は

よく一人旅に出かけてましたけどね。海外とかも平気で一人で行っちゃう。

私は結構ビビリなんで、一人はちょっと勇気が出ないんですよね~^^;

基本、なんでも一人で出来るタイプなんですけども(買い物とか食事とか、

美術館なんかも独身時代はよく一人で行ってました)。でも、本書の中で、

日和が一人でいろんな場所を巡っているのを読んで、一人で旅するのも楽しそう

だなーと思いました。行く場所なんかも全部自分で決められるし、起きる時間

とか食べる物も自分の好きに出来る。ツアーでもないから、回る時間とかも

自分の体力や体調に合わせてのんびり設定出来るし。自由でいいなぁと思いました。

日和も最初は一人で入る飲食店とかでおどおどしがちだったけれど、旅慣れて

行くにつれて一人呑みまで出来るようになって、すごいな~って感じでした。

まぁ、私はお酒が飲めないので、一人呑みはどれだけ経験積んでも無理ですけど^^;

一人旅を経験していると、なんでも一人でやらなきゃいけないから、度胸も

つきますよね。人見知りの日和が、男性と普通に会話出来たり、一緒にご飯

食べに行けたりするんですから。会社で上司に怒られて(理不尽な怒られ方

ではあったけど)、自信喪失している日和とは別人のように生き生きしていて、

旅に出て経験を積むことの素晴らしさを感じる作品でした。

また、日和が訪れた土地ごとに、美味しそうな郷土料理が出て来るのも、秋川

さんならでは。その土地でしか食べられない美味しい料理は、旅の醍醐味の

ひとつですもんね。家族に買うおみやげを選ぶところも、家族への愛が感じ

られて良かったですね。

そして、行った旅行を報告出来る先輩の麗佳の存在も大きいと思います。

良い体験をしたら、それを語る人がいればより旅も楽しくなるというもの。

私の場合は、ブログがその役割を担ってくれているのですけれど。これ、ブログの

ネタになるな~と思いながら旅してますから(笑)。

日和が旅した熱海、千葉の佐原、仙台、金沢、福岡、どこもその土地ならではの

良さを感じられる場所でした。この中で私が行ったことないのは、佐原と

仙台。どちらも行ってみたい!佐原ってこのお話読むまでは全然知らなかったの

ですが、埼玉の川越のような小江戸と呼ばれる水郷の街なのですね。風情ありそう。

仙台は、やっぱり牛タン食べに行ってみたい~。フィギュアスケートの羽生選手

の生まれた場所でもあるから、スケート関連の場所なんかも訪れてみたいしね。

一話目で、熱海で日和と温泉卵を一緒に食べた青年は、この時点で名前すらわから

ないまま別れてしまったものの、なんとなくその後もまた出て来そうだなーと

思ってたんですが、予想通りでしたね。麗佳とのつながりにはびっくりしましたけど。

引っ込み思案な日和が、最後あれだけ積極的に彼との繋がりを持とうとするのだから、

その成長っぷりには驚かされるばかりでした。続きがあるならば、この二人の

今後の関係の変化にも注目して行きたいです。

 

 

有川ひろ「倒れるときは前のめり ふたたび」(角川書店)

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有川さんの最新エッセイ。知らない間に、改名されてたんですね、有川さん。

浩さんからひろさんと、名前がひらがな表記になったそうです。改名の理由と

経緯も本書に説明されています。ひらがな表記だと男性作家と間違えられる

ことは少なくなりそうですね(それが改名の理由ではありませが)。かくいう私も、

一番最初は男性作家だと思ってましたもん(ありかわひろしさんだと思っていた)。

新聞紙上で掲載されたものが中心なので、前作同様、エッセイにしてはちょっと

堅苦しい感じの内容のものが多い。しかも、いくつかのメディアで同時期に掲載

されたものを全部収録している為、今回も重複した内容のエッセイがいくつも。

同じ内容の文章を、多少の表記が変わっているとはいえ、何度も読まされるのは、

正直ちょっと辟易します。掲載されたそのままで収録したかったのでしょうが、

そこは単行本だけを読む人の為に、少し編集してもらいたかったなぁ。それか、

どれかひとつにしぼって載せるか。前作のエッセイでも同じことを思ったの

ですけど。

有川さんって、とても真面目でまっすぐな人なんだろうな、というのはどの

エッセイ読んでいてもわかります。曲がったことが嫌いというか。だから、世の中

のいろんなことに物申したいのだと思う。いろいろ腹を立てていることがあって、

それをかなりエッセイにぶつけてる感じがする。ただ、個人的には、エッセイって、

小説ではわからない、作家の素の顔が垣間見られるところが好きで読んでいる

ところがあるので、あまり個人的な主義主張とか読みたいと思わないんですよね。

日常の何気ない出来事とか体験談みたいなものの方が読んでいて楽しいというか。

だから、有川さんのエッセイは、少し堅苦しすぎて、読んでいてしんどいことが

多い。文章もあまり崩さないし。(三浦)しをんさんとは対照的だよなぁと思う。

こういうエッセイの方が好きって人もたくさんいるだろうし、アマゾンの評価は

みんな☆5つ評価だったので、好みの問題だと思いますけどね。

有川ファンから大ブーイング受けそうなこと書いてるなぁ。まずい・・・。でも、

私が一番引っかかったのは、神戸のクリスマスツリーに関する表記。私は震災経験者

じゃないし、関西にも住んでいないから、この企画自体の是非に関しては、

正直よくわからないんです。有川さんが、ここまで激怒している理由も、いまいち

理解しきれていないというか。当事者だったら、同じように激怒して有川さんを

擁護する立場になるのかもしれないです。震災の被害者の鎮魂の為に、神戸に

巨大なクリスマスツリーを設置する、という企画。この企画に世間から疑問の声が

出て、有川さんもその声に賛同した、っていう内容なんですけど。とにかく、

その内容がとても攻撃的で、主催者に対する言葉もかなり強い口調で非難している

ので、ちょっと驚きました。阪神淡路の震災を体験している有川さんだからこそ、

強い思いがあるのもわかるのですけども。主催者側に直接意見を伝えたというのも

びっくりしました。多分、有川さんはとても正しいことをおっしゃっているのだと

思う。でも、なんだかその一連の文章を読んでいて、どうしても有川さんの『上から

目線』な考え方に引っかかりを覚えてしまって。どの文章だか忘れてしまったの

だけれど、相手に対して『許さない』という言葉を使っていたのが印象的で。

『許せない』ならわかるのだけれど、『許さない』って、上の立場じゃなきゃ

使わない言葉だと思うんですよね・・・。確かに有川さんは今や飛ぶ鳥も落とす

勢いの人気作家ですし、私ごとき庶民からしてみれば遥か上にいる方なのは

間違いないとは思うのですけれども。ただ、何か、そういう考え方が鼻について

しまって、正しいことを主張しているのであろう有川さんの方に嫌悪感を覚えて

しまった。被災者の立場から考えれば、きっと私の方がおかしいのだと思うけれど。

何となく、有川さんの文章って反発心を覚えてしまうときがあるんですよね。

合わないのかなぁ。

読んでいて楽しかったのは、本の紹介の部分かな。一番嬉しかったのは、私が

萌え系ミステリのベスト3に入ると思っている、三雲岳斗氏の『少女ノイズ』

紹介されていたこと。まぁ、ミステリ部分はどうでもいい、という暴論には

頷き難いものもあるのだけど^^;でも、あのお話の読み方自体は、私も有川

さんとほぼ一緒で、恋愛パート第一で読んだので。大いに共感出来るものが

ありました。あとは、新井素子さんに対する思いにも共感出来たし、那州雪絵さん

(少女マンガ家)の作品が紹介されていたのも嬉しかったな。取り上げられていた

作品は読んでないけど、私もここはグリーン・ウッドは大好きで、

何度も何度も読み返した漫画でした。すかちゃんが好きだったんだよなー。

足が速くってね。典雅なんだか平凡なんだかわからない名前(笑)の光流先輩の

キャラも大好きだった。懐かしい・・・。

あとは、有川さんのコロボックル愛が随所で感じられるエッセイでした。有川

バージョンしか読んでいない自分が申し訳なく思うほど。原典はきっと

素晴らしいのでしょうね。

二本収録されている短編も良かったです。一作目の『彼女の本棚』は、前作

『倒れるときは前のめり』に収録された作品と対になっている作品だそうで、

すっかり忘れていたので、読み返したくなりました。

二作目の『サマーフェスタ』県庁おもてなし課のサイドストーリーだそう。

『県庁~』の主人公の青年の若き日の恋の話、ですかね。切なかったけど、

若かりし頃の恋ってこういうものだよなーって思いました。

七月隆文「ケーキ王子の名推理4」(新潮文庫nex)

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シリーズ第四弾。早いっ。高校生にして一流のパティシエを目指すクールな少年と、

スイーツ大好きな女子高生が活躍する、甘いスイーツ青春小説。

前作でコンクールに優勝した未羽と颯人は、副賞であるパリ研修で、フランスの

パリにやって来た。パリを代表するパティスリー巡りに、未羽のテンションは

上がりっぱなし。しかし、最後に訪れたショコラの名店で、二人は若き天才シェフの

ルイ・デシャンと出会う。実力はあるが不遜な態度のデシャンに会い、颯人は

不機嫌に。そして、研修最終日、セーヌ川ディナークルーズで出された

デシャンのスイーツに衝撃を受けた颯人は、帰国後スランプに陥ってしまう。

一方、文化祭のクラスの出し物でエクレアを作ることになった未羽は、青山の

力も借りて美味しいものを作ろうと奮闘するが――。

いやー、今回は甘々でしたねぇ~~~。もう、ラストは胸キュンしすぎて、

読んでて心の中でキャーキャー言ってました(笑)。もうちょっと、つかず

離れずの関係が続くのかなーと思ってたんですが、もう四巻ですもんねぇ。

ライバル登場で、颯人も気が気でなかったんでしょう(苦笑)。お化け屋敷

で、ゾンビに扮しながらああいう行動に出ちゃうところが微笑ましかった。

漣君の未羽ちゃんに対する言動は、本心から出ているものなんですかねぇ。

なんか、颯人に対するあてつけだけのような気がしないでもないけど、それだけ

の為にわざわざ関西から東京まで未羽の文化祭に来るとも思えないから、

やっぱり本気だったのかも?

パリは大好きな街なので、パリ編で出て来る観光名所とかはすごく懐かしかった。

途中出て来る仏語とかも。フランス行きたくなっちゃいました。でも、フランスは

今治安が悪そうだからなぁ・・・。特にパリは。私が行った時とは比べ物にならない

くらい、危険度が増していそう。テロなんかもありましたし、移民もたくさん

押し寄せているようですし。のんびりメトロ何駅分も石畳を歩きまわった頃が

懐かしい。

セーヌ川ディナークルーズとか、二人が羨ましすぎました。スイーツ巡りで

未羽のテンションがMAXになってるのが可笑しかった。しかし、あんなに一日で

フランスのスイーツ食べたら、まじで血糖値上がり過ぎて倒れると思うな。

あっちのスイーツの甘さは半端ないから^^;そして、太りそう・・・。未羽の

年齢ならどんだけ食べても消化しちゃうんでしょうか。それはそれで羨ましい。

まぁ、とにかく、二人がハッピーになって良かったです。次巻からの二人の

関係の変化も楽しみです。

 

斎藤千輪「ビストロ三軒亭の奇跡の宴」(角川文庫)

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やっちまいました。図書館の新刊情報でタイトル見て面白そうだと思って予約

したら、シリーズの三作目でした^^;読み始めてすぐに気づいたので

どうしようかと思いましたが、まぁいいか、とそのまま読んでしまいました。

そのため、ビストロ内の人間関係とか、登場人物の過去とか、いまいち把握しきれ

ないまま読んでしまいました。初めにイラスト付きの人物紹介があるからまだ

わかりやすかったですけどね。

絶品料理を創るクールなシェフ、伊勢がかっこいい。イメージは、若い頃の

江口洋介みたいな感じ?主人公である隆一の、新米ギャルソンとしての真面目で

努力家なキャラも好きでしたし。こんなイケメン揃いで料理も絶品のビストロが

あったら、そりゃ通いたくなるよなぁ。料理も、リクエストに合わせてその場で

考えて作ってくれるとか。お値段とかどうなってるんだろう、とその辺りは

気になるところですが^^;予算も予め伝えた上で作ってるんでしょうけども。

どのお料理も美味しそうだったなぁ。クレープシュゼット大好きなんで、

めっちゃ食べたくなりました。久しく食べてないなぁ・・・。りんごの皮で

ファイアーする演出、生で見てみたいー。

ソムリエの室田さんの病気のことは最後まで心配しましたが、良い結果になって

ほっとしました。

前二作を読んでいないので、伊勢さんと元カノさんの過去がとても気になりました。

一作目からちゃんと読まなければ。

 

成田名璃子「今日は心のおそうじ日和 素直じゃない小説家と自信がない私」(メディアワークス文庫)

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『金曜日の本屋さん』シリーズが気に入った成田さんの最新作(多分)。夫の

浮気で突然離婚を突きつけられた涼子は、茫然自失のまま一人娘を連れて実家に

出戻る羽目に。両親は表面上は温かく迎えてくれているが、同居している兄嫁に

気兼ねしているのは丸わかりで、肩身の狭い思いを余儀なくされていた。子供

二人を育てながらバリバリのキャリアウーマンとして働く兄嫁自身も、出戻り

で働きもしない涼子を疎ましく感じているようで、涼子は実家の家事を手伝い

ながらも、この同居の行く末を案じていた。そんな中、父親から住み込みの

家政婦の仕事をやらないかと持ちかけられる。父の古い知り合いが、家事の

得意な女性を探しているのだという。専業主婦として家事全般を得意としていた

涼子は、戸惑いながらも雇い主との面接に臨むことに。しかし、雇い主は

とんでもなく気難しい小説家だった。紆余曲折を経て、住み込みではなく

通いで家政婦として雇われることになった涼子だったが、偏屈な小説家の言動

に振り回され、前途多難の日々を過ごすことに――。

専業主婦で家事しかしてこなかった女性が、得意の家事を生かして家政婦として

有名な小説家の家に雇われることになり、いろんな試練を乗り越えて行くお話。

初めはお互いにぎくしゃくしていて、上手く噛み合わない二人でしたが、涼子の

家事能力のおかげで、少しづつ偏屈な小説家の心がほぐれて行き、心を通わせて

行く過程が爽やかでした。

妻を亡くして自暴自棄になり、ゴミ屋敷化した小説家の自宅を、涼子が持ち前の

掃除能力できれいにしていくところもスカッとしました。私自身も掃除はあんまり

得意じゃないけど、やっぱり汚いものをきれいにした後って、すごくすっきり

するし気持ちいい。掃除は家をきれいにするだけじゃなく、心もきれいにしてくれる

ものだという涼子の考え方は、至極真っ当なことだと思う。

最近は共働き家庭が主流になって専業主婦は叩かれる風潮があるけれど、

やっぱり家事ってちゃんとやるとかなり労力を使うものだし、それをバカにする

人間の意見には全く賛同出来ません。専業主婦なのに家事もしないでぐーたらして、

旦那が稼ぐお金を浪費するような人間には腹立ちを覚えますけども。掃除も料理も、

きちんと効率よくやる為にはかなり頭を使う。私は基本的にズボラな人間なので、

そこの辺りがなかなか上手くやれないのが痛いところなのですが・・・。だから、

涼子の家事能力がすごく羨ましいし、憧れます。私が嫁(あるいは家政婦)に

ほしいくらいだ(笑)。

涼子の別れた旦那は、そこのところを全く理解しておらず、専業主婦の涼子

をバカにしているのが許せなかった。今まで快適に暮らせていたのは誰のおかげ

だったのか、考えたこともなかったのでしょうね。夫婦って、やっぱりお互いに

感謝の気持ちを忘れてはいけないと思うのですが。いろんな言動を鑑みるに、

人間性に大いに問題があると思いました。こんな男と結婚した涼子に見る目が

なかったとも言えるかもしれませんが。結果として、離婚して良かったのでは

ないかな。こんな父親から生まれて、娘の美空ちゃんがあんなにいい子に育った

のは、ひとえに涼子の子育てが良かったからじゃないでしょうか。まぁ、娘には

優しい父親だったのかもしれませんが。とにかく、感動的なまでに美空ちゃんが

いい子で、実家でも腫れ物扱いの涼子に、この子の存在がいて本当に良かった、と

思えました。偏屈な小説家とも打ち解けられる、驚異的な対人能力も持ち合わせて

ますしね。

小説家の山丘周三郎のキャラクターも良かったですね。モデルはやっぱり山本周五郎

ですかねぇ。気難しい山丘が、猫のコヨーテにだけは惜しみない愛情を注いで、

可愛がっているところも微笑ましかったです。

年の離れた涼子と山丘が今後恋愛関係になるのかは気になるところ。今のところ、

そういう感情は芽生えてなさそうな感じもしますけど。そうなって行くといいな、

と思う。お互いに心の隙間を埋める存在になれそうな気がするんで。

続きが出るかはわからないけど、そういう未来の話が読めたらいいな。

 

万城目学「べらぼうくん」(文藝春秋)

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万城目さんの最新エッセイ。京大受験で失敗して浪人してから、作家になるまで

を時系列で綴った青春エッセイ。

作家として華々しくデビューしてから順調に作家街道を歩む著者が、これほど

作家になるまでに紆余曲折してきたとは驚きました。なんか、著作やエッセイ

やインタビュー記事なんかを読む人柄は、飄々とした感じで、順調に我が道を

突き進んで来たような印象だったので。作風も、文学賞に投稿していた頃は、

全然違う純文学っぽいものを書かれていたのだとか。最初からあんな奇天烈な

作品書いてたわけじゃなかったんですねぇ。でも、方向転換してほんとに

良かったんじゃないかな。多分、同じような時期にモリミーが出て来たことも

大きかったのかも(作中にはまったく触れられてはいないけれど)。

やっぱり、自分が書いていて楽しいものを書くのが大事なのだということは

よくわかりました。そりゃ、そうだよねぇ。自分が読んで楽しくない作品を、

他人が読んで楽しいと思えるはずがないもの。

自分を『べらぼうくん』と名付けて、べらぼうくんの行動を追って行く形が

万城目さんらしいなーと思いました。べらぼうとは、『あまりにひどい』

『馬鹿げている』『筋が通らない』といった意味に加えて、単純に『阿呆だ』

という意味もあるのだとか。確かに、デビューするまでの万城目さんの言動、

かなりべらぼうなところが多いです^^;いやー、ここまで書いちゃって

大丈夫!?ってことも含まれてます。普通の人は絶対やっちゃダメ!って

思いました。特に、大学名簿のくだりは、ヤバいのでは・・・。いつも、一体

誰がああいうことするんだろう、と首を傾げていたのだけれど、まさか

本当にやってる人がこんなところにいたとは・・・(絶句)。

会社を辞めてからデビューするまでの生活にも唖然。管理人業という仕事が

あったのが不幸中の幸いみたいなものですけど・・・。この経験が元で、

『バベル九朔』が出来たのだろうなー。

面白かったのが、大学にむかつく顔をしたいけ好かないやつがいたと思ったら、

ロザンの宇治原だったというくだり。大学時代から不機嫌そうな顔してたんだー

と思ったら可笑しかった(笑)。特に親しく会話をしたことはなかったみたい

ですが。後の活躍にびっくりされたでしょうね(宇治原氏は、万城目さんのことを

知っているのかな?)。

大学在学中は、毎年夏になると一ヶ月海外を放浪して歩いていたというのも、

学生ならではのエピソードですね。典型的なモラトリアム時代って感じですねぇ。

とにかく、思った以上に万城目さんのデビュー前はダメダメ人生でびっくり

でした。基本的には真面目なんでしょうが、自堕落なところもたくさんあるし、

せっかく勤めた会社をあっさり辞めて無職になっても、全く焦ることなく生活

できちゃう図太いところもあるし。よくそれで現在の奥様は愛想つかさなかった

なぁ。ある意味、一番すごい人だと思う。その時支えてくれたからこそ、現在

の作家としての成功があるのでしょうからね。頭が上がらないでしょうね^^;

運がいいとは言えない人生を過ごして来たという万城目さんが、作家デビューに

関してだけは奇跡的な運の良さで賞が獲れたということは、なんだかんだで

運のいい人だってことなんじゃないのかな。いろんな偶然が重なって今の

作家万城目学がある、ということがよくわかりました。

ところで、最近新作が出てませんよねぇ。次はちゃんとした小説の新作を

期待したいところです。