ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

鯨統一郎「テレビドラマよ永遠に 女子大生桜川東子の推理」(光文社)

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このシリーズ、どこまで読んだか忘れちゃってて、とりあえず新刊だったから

借りてみたんですけど、読み始めてすごいことになってて驚きました。何冊

抜けているのかなぁ・・・少なくとも、一つ前の作品は読んでから読むべき

作品でした。語り手の工藤がまさか○○されていたとは。しかも、このシリーズ

が工藤が○○○で書いていた作中作という設定になっていたとは。なんか、

いろいろびっくりしすぎて、冒頭で頭がパニックになりました・・・^^;

ただ、内容は相変わらずのヤクドシトリオシリーズのまんま。懐かしいドラマの

話がメインで、殺人事件の推理の方はつけたしのような感じ。圧倒的に、ページ数

では前者の方が多いですから。マスターが会話に加わると、一気に場が白ける

辺りも、変わってない。っていうか、むしろマスターの馬鹿さ加減に拍車が

かかっているような・・・。あまりにも的外れな受け答えするから、度々イラっと

させられました^^;ヤクドシトリオの年齢設定は、微妙に私とはズレているので、

あまりに古い話だとついていけないこともあるのだけど、80年代辺りのドラマ

の話は懐かしくて面白かったです。ドラマ全盛期の時代でしたからね~。

リアルタイムで時間が流れている設定らしく、2019年のドラマも出て来ました。

二作の中編が収録されています。一作目の、飛行機の中で、搭乗した筈の殺人犯が

飛行中に消えた謎の真相には驚かされました。実現可能かはともかく、こういう

方法があるとは。盲点をつかれた思いがしました。

二作目の、失踪した資産家の娘が生きて目撃された謎も、ミステリのからくりは

割とオーソドックスな真相ですけど、なるほど、と思えました。ただまぁ、

どちらもミステリ部分より、バーに集まる人々のアホな会話(東子さんを除く)

の方がメインみたいなお話でしたけど。鯨ワールド全開。懐かしネタ満載で、

私は楽しめましたけど、多分くだらなすぎて、本投げたくなる人も多いだろうな

・・・^^;;

広い心で読める人だけ読むべきシリーズだと思いますね。

ミステリ好きには口が裂けても薦められないなぁ^^;;

 

永嶋恵美「泥棒猫リターンズ 泥棒猫ヒナコの事件簿」(徳間文庫)

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なんか、タイトルに覚えがあったので、てっきり読んでいるシリーズかと思って

借りたんですけど、未読だったみたいです・・・またも三作目から読むという

愚行を犯してしまった・・・。あちゃー。しかも、一作目から8年も経っている

設定らしい上、一話目の主人公はその時に小学生だった女の子が大人になって

登場する回という。読み始めてすぐに気がついたんだけど、まぁ、いいやと

読んでしまいました。

泥棒猫ヒナコというのは、男性と別れたがっている女性の依頼を受けて、その

男を横からかっさらう=泥棒猫をする仕事をしていることからついたあだ名。

なんか、いろいろツッコミ所もある設定だけれど、実際問題、こういう状況で

困っている女性は多いような気がする。別れさせ屋なんて職業もあるくらいだし。

別れさせ屋と違うのは、あくまでもヒナコさん(と相棒の楓さん)の場合は、

自分(たち)がその男性と接近して、恋愛感情を抱かせ、彼女から奪い取る、

というところ。別れさせ屋はいろんな手口で最終的に別れさせるのだろうから、

そこがちょっと違うところ(らしい)。

前二作を読んでいない為、なぜヒナコさんたちがこんな仕事をやっているのか、

その辺りはよくわからないのだけれど。見た目は可愛らしい女性なのだから、

こんな仕事してたら、いろいろ危ない目にも遭いそうだよなぁ。でも、困っている

女性を助ける為、綿密に計画を立てて依頼を遂行するところは、なんだか

かっこよかったです。

ただ、依頼は、自分自身の付き合っている人ではなく、他人が付き合っている

人を別れさせるパターンもあって、正直、そんなの余計なお世話じゃないか、と

思う話もありました。自分のエゴから、上手く行っている(であろう)恋人同士を

別れさせるなんて。結果として、その話は別れさせて良かったという結末に

なりましたけど。まぁ、いつの時代も、女性は恋愛が絡むと傲慢になるもの

なのだろうけれど。

しかし、一件の依頼につき報酬は一律10万円(別途諸経費がかかる場合も

あるらしいけれど)。それで、何日間もかかって(短ければ数日でしょうが、

厄介な案件の場合20日くらいの時もある)、これで会社として成り立って

いるのでしょうか。社員二人なので報酬は折半でしょうし。二人それぞれに

仕事を抱えていることも多いのかなぁ。大々的にオフィスの宣伝してる訳

でもないし、不動産仲介業の梨沙が窓口になって客を仲介してるみたいだけど

・・・梨沙とオフィスCATの関係もよくわからないしなぁ。これは、前二作を

きちんと読まねば。

彼氏がストーカー化して別れたい、とかそういうパターンは多そうですよね。

でも、ストーカー男やDV男を相手にするのはちょっと危険そうだけど。

どうしてこんな仕事をヒナコさんが始めたのか、そこの理由が気になります。

予約しなくちゃ。

鯨統一郎「文豪たちの怪しい宴」(創元推理文庫)

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バー<スリーバレー>シリーズというのでしょうか。衝撃の歴史新説ミステリ

邪馬台国はどこですか?のシリーズと云った方がわかりやすいかな。

このシリーズは大好きで、いつもトンデモ着眼点からトンデモ歴史新説を

繰り出して来る手腕に感心させられます。ただ、やっぱり一作ごとにクオリティ

は下がっているような気がしなくもないのですが(一作目が良すぎたとも

云えるけれど)。

今回のテーマは文学。誰もが知っている文人の有名作に、またしてもトンデモ

解釈を加えてしまう宮田さん。対抗するのは日本文学会の重鎮である曽根原

教授。夏目漱石『こころ』に関するシンポジウムの帰り、一杯飲みたい

気分になった曽根原は、<スリーバレー>というバーに立ち寄る。そこで

美人のバーテンダーが供する美味しいお酒を飲みつつ、今日の討論会の議題

となった夏目漱石の『こころ』について彼女と意見を交わし合っていると、

とある男がやってきた。宮田と名乗るその男は、『こころ』についてとんでも

ない説を唱え始めた――(『第一話 夏目漱石~こころもよう~』)。

一話目の『こころ』に関して、宮田が唱え始めたのは、『こころ』は百合小説

だというもの。私自身、『こころ』を読んだのは確か高校生くらいの頃で、

ほとんど内容を覚えていないので、この説がどれほど信憑性があるのか判断

出来ないのですが、宮田の説明を読むと、なるほど、と思わされてしまいました。

その時点で宮田の勝利なのかな~^^;文学界の重鎮ですら絶句させてしまった

のだから(呆れて、という面もあるかもしれませんが・・・)。最後に宮田が

告げた、中心人物の一人である、『静』に関するある事実を知って、納得させ

られてしまった。確かに、登場人物の中でこの人物だけ○○が出て来る・・・!

美人バーテンダーのミサキが唱えた「『こころ』はミステリ小説である」説も

面白かったですけどね。いろんな読み方が出来るものだなぁと思いました。

第二話は、太宰治走れメロスを取り上げています。この作品がある人物の

○だった、とは・・・。これはちょっと強引すぎるかなぁ。これを唱えられたら、

どんな小説もこうやって解釈できちゃうような。ジブリ作品でも結構こういう

説を唱える作品多いですしねぇ。まぁ、確かに、整合性があまりない小説って

感じはありますけどね。

第三話は、宮沢賢治銀河鉄道の夜。これは未読なので、なんとも感想が

言い難いですが。いろんな作品で取り上げられている有名作なので(この間の

杏ちゃんのドラマでも出て来たし)、一度読んでおきたいなぁとは思っているの

ですが。賢治と父親の確執のことは知りませんでした。でも、宮田さんの説は

ちょっとこじつけっぽい感じもしたなぁ。どちらかというと、実際に出ている

説みたいですが、曽根原氏の○○の世界って説の方がなるほど、と思いましたね。

第四話は芥川龍之介『藪の中』。よく文学作品に出て来る『真相は藪の中』は

この作品から来た言葉だったのですね(前に聞いたことがあった気もしますが)。

こちらも未読なので、宮田や曽根原たちの文学論議の信憑性なんかはよくわから

なかったのですが、かなり興味深い論議でした。確かに、ストーリーを読むと、

ミステリー小説と云っても差し支えない内容ですね。犯人がわからないリドル

ストーリーのようなので、様々な議論が交わされて来た作品なのでしょうね。

読む人それぞれの解釈が生まれそうな作品。こちらも、原典を読んでみたく

なりました。

どの作品も信憑性はともかく、原典に当たって自分なりに読み取ってみたく

なり、とても興味深かったです。解釈次第で、いろんな受け取り方が出来る

というのは、その作品の深みにも繋がりますね。文豪の作品は、やっぱり

深く考えられて書かれたものなんだなぁと思わされました。

ところで、本来の<スリーバレー>のバーテン松永はどうしてしまったんだろう。

一話目でミサキは『本日はお休み』と言っていたけど、その後三作、ずっと

お休みのまま。たまたま曽根原が行く日だけ休みなのか、理由があるのか・・・

気になります。

あと、文章でひとつ気になったのは、『言う』というのを『ゆう』と表記する

ところ。地の文でも会話文でもやたらと『ゆう』『ゆった』みたいなひらがな

表記が出て来るのがすごく気になりました。作家が一番やっちゃいけない表記

のような気がするんですが・・・。なんか、子供の文を読まされてる気持ちに

なりました。以前はそんな書き方してなかったと思うんだけどなぁ・・・。

高田崇史「QED 憂曇華の時」(講談社ノベルス)

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QEDシリーズ最新作。なんか、いつの間にかさらっと再開してましたね、

このシリーズ。ラテン語かなんかの副題がある、なしは一体どういう

くくりでつけているんだろうか。今回は何もついてないから普通に正編

って感じなのかな。まぁ、どれを読んでも、基本的には同じ姿勢のシリーズ

だから特に違いはない気がするけど(おい)。

今回のタタルさんと奈々ちゃんは、始め徒歩鵜を観る為に石和に旅行に行って

いたのだけれど、途中で小松崎に呼び出されて、急遽長野の安曇野に行く

ことに。神楽の舞い手の青年が、『S』の血文字を残して殺され、その

数日後、二人目の犠牲者が。被害者は死ぬ直前に『黒鬼』という言葉を

残して息絶えた。事件の背後には連綿と受け継がれて来た安曇氏の悲しい

歴史があった――。

相変わらず膨大な量の薀蓄に圧倒されます。正直、薀蓄部分は歴史オンチ

の私には眠くなる要素でしかないのだけれど^^;でも、このシリーズが

好きな人は、そっちの方が楽しみで読んでる人の方が多いみたいですね。

みんなあんな小難しい歴史の薀蓄、理解出来ているのかなぁ。すごいなぁ。

最初に出て来た徒歩鵜の薀蓄の辺りは面白かったですけど。船を使わず

徒歩で行う鵜飼いというのは初めて知りました。山梨は何度も行った

ことがあるし、石和温泉も何年か前に行ったばかりなのだけれど。

長野の安曇野は、この間読んだ夏川草介氏の新刊の舞台になっていて、

行ってみたいなーと思っていたばかりで、タイムリーでした。しかし、

こんなにいろんな歴史的背景のある場所だったとは。最終的には神功皇后

辿り着き、女性天皇の話にまで発展する。今の皇室問題に重要な一石を投じるような

タタルさんの論考は、いろいろと物議をかもしそうな感じもしました。神功皇后

に関して、これだけ歴史がねじ曲がって伝えられているという事実には、

空恐ろしいものを感じずにはいられませんでした。何か大きな陰謀が

働いて来たのかしらん・・・。

肝心の連続殺人事件の方は、相変わらずツッコミどころが満載。犯人も

全く意外性ないですし。どこまでも、このシリーズはミステリ部分は

つけたしでしかないんだなぁ・・・。

でも、薀蓄で暴走するタタルさんを、ちょこちょこ心の中でツッコむ

奈々ちゃんが可愛かったです。将来ゴールインするのは決まっているので、

一体どの地点で二人がそうなるのか、その場面が描かれる日は来るので

しょうか。いや、絶対書いてもらわないと困る。だって、それが読みたい

から読んでるようなものだし!(おい)

ちなみに、二人でちょこちょこ旅行に行ってますけど、ホテルはともかく、

旅館の時って部屋は一緒なんでしょうか。今回の時点ではまだ付き合う以前

みたいだから、どうなんでしょう。旅館に泊まって部屋が別々って、あんまり

ないですよね、多分。恋人以前の男女が旅館に泊まるって、奈々ちゃん的には

ドキドキだと思うんですけど、そういう場面が出て来なかったのはちと残念。

あと、奈々ちゃんが最後まで気にしていた、タタルさんの言葉に出て来た

『彼女たち』は結局誰のことだったのか。歴史の謎よりずっとそっちの

謎の方が気になるよ!

 

 

有川ひろ「イマジン?」(幻冬舎)

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有川さん最新刊。映像業界を舞台にしたお仕事小説。27歳の良井良助は、

高校卒業後に入学した福岡の映像専門学校を出た後、東京の小さな映像制作

会社の内定を取った。しかし、いざ東京に引っ越して出社すると、そこは

空き店舗になっていた。同じビルに入っていた会計事務所の女性に話を

聞くと、同じ業界の人にも迷惑をかけまくる、悪質な計画倒産だったという。

一度は就職した形となり、職歴が残ってしまう為、良助は望んでいた映像業界の

就職の面接でことごとく落とされてしまう羽目に。

様々なアルバイトで糊口をしのぐ毎日だったが、同じフリーター仲間だった

年上の佐々が映像業界に就職したことで口を聞いてもらい、ドラマ制作の

現場で下っ端バイトとして雇ってもらえることに。初めて踏み入れた映像の

世界は、知らないことだらけで戸惑うことばかり。しかし、現場の熱意を

肌で感じた良助は、知れば知るほど、どんどん映像の世界にのめり込んで行く――。

 

ご自身の映像化作品がとても多いので、その制作現場で見たこと、感じたことを

そのまま文章に綴られたのがよくわかります。良助が体験するドラマや映画の

ほとんどが、有川作品が元ネタになっていますから(『空飛ぶ広報室』『植物

図鑑』『図書館戦争』等)。その分、とてもリアルではあるんですが、正直に

云えば、元ネタがご自身の作品であるが故に、原作者としての矜持がちらほら

垣間見えて鼻についてしまい、純粋に楽しめなかった部分もありました。

ご自身が映像化に携わったからこそ云えることがたくさんあるのだろうし、

主張したいこともいろいろおありなのはわかるのですが・・・。

自作のものばかりじゃなくて、オリジナル作品中心に題材にした方が小説

としての説得力みたいなのはあったような気がするんだけどな。いや、もちろん、

時代劇のやつはオリジナルだとは思いますけども。なんか、半分ノンフィクション

というか、自分の映像化作品の制作秘話をそのまま読まされてる感じがしちゃって。

それなら、エッセイとかでもいいわけで。一作くらいならファンとしてニヤリと

出来て嬉しいって感じになると思うんですが。作中で問題になる部分が、有川

さんがエッセイとかで主張していることと一緒なんですよね。作品にまでそういうの

持ち込まなくても、ってつい思っちゃって、純粋に作品が楽しめなくなってしまって。

読書メーターの感想はほとんどが好意的。私のようにひねくれた感想書いてる

人なんてひとりも見なかったので、完全に少数派だとは思うんですが・・・。

特に、『みちくさ日記』の原作者がSNSで主張した『観る権利、観ない権利』

のコメント。これ、完全に有川さんの私信みたいな感じですよね。エッセイで

おっしゃってることと一緒だし。批判する人は観るなって主張、よくわかるん

ですよ。でも、原作ファンからしたら、やっぱり映像化の配役ってすごい大事で、

イメージ合わない!って批判したくなっちゃうのは仕方がないことだと思う。

だったら観るなっていうのは、私は違うと思うんです。原作ファンだからこそ、

観ようが観まいが、言いたいことが出て来るんだもの。京極さんがおっしゃってる

ように、小説とか漫画とか、作者の手を離れて出版されたら、後は読者のもの

だと思う。映画もドラマも同じ。どう読み取るか、どう感じるかは、読者や視聴者

に任されている。だから、自分が感じたことをどう発信しようがその人の自由で

あるべきだし、作者が文句を言うべきことじゃないと思うんだけど。その批判の

コメントを見る、見ないだってその人の自由。一生懸命作ってる人がいて、

貶されたら傷つく人がいるから自重しろ、嫌なら観るなって言われても。

もちろん、私だって根拠のない、攻撃的な批判はダメだと思います。他人を

傷つけるようなコメントはするべきじゃないと思います。でも、思ったことを

素直に言葉にするのは悪いことじゃないと思うんだけどな。賛否両論あるから

生の声になるんじゃないのかな・・・耳障りのいい言葉だけを信じて、制作する

側はいいものを作れるんだろうか。

映像化するって決まった瞬間に、賛否両論出るのは当たり前のことなんだもの。

全部賛辞ばかりの作品なんて、この世にあるとは思えないし。どうも、有川

さんの主張は私には受け入れがたいものが多いんですよね・・・。私の受け取り方が

間違っているのかな・・・。

ただ、憧れの映像業界でがむしゃらに走り続ける、主人公の良助のひたむきな

頑張りには、とても好感が持てました。慣れないことにも真面目な姿勢で

取り組むし、怒られてもきちんと反省して次に生かすし。怒られても失敗しても、

めげない姿勢は好ましい。意外と根性ある子だな、と思いました。ちょっと

お調子者なところは否めませんけれど。こういうタイプは、誰からも好かれ

ますよね。業界向きではあるのかな、と思いました。

ラブ要素が控えめだったのがちょっと残念。さすがに、良助が喜屋武さんと

どうにかなるとは思わなかったけど、意外な人物と上手く行きましたねぇ。

それを言ったら、喜屋武さんが恋する相手が一番意外でしたけどね^^;

基本的にはひたむきで爽やかなお仕事小説なので、誰にでも読みやすく、

楽しめる作品だと思います。私は一部、上記に述べた理由で楽しみきれない

部分もありましたけれどね(ひねくれ者め!)。

 

秋川滝美「居酒屋ぼったくり おかわり!」(アルファポリス)

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ぼったくりシリーズ番外編。本編が終わってしまって、残念だなぁと思って

いたので、またその後が読めて嬉しいです。番外編と云っても、本編のその後

を描いているので、普通にシリーズの続編と銘打ってもおかしくはないと思う。

脇役キャラに焦点が当てられていたりもするけど、基本的には美音さんと

ぼったくりが主役みたいなものだし。この副題の『おかわり!』も、シリーズ化

されていくと嬉しいんだけどな。

相変わらず下町人情溢れる温かい世界で、いい人しか出て来ないという、ある意味

ファンタジーのような作品ではあるけど、これがこのシリーズの拘りなんだろうし、

フィクションなのだからこれはこれでいいのではないかな、と。ご都合主義な

ところも、この世界観なら受け入れられるかなと思うしね。

それにしても、結婚後の美音さんと要さんのラブラブが全開過ぎて、ちょっと

びっくり。特に、要さんの美音さんへの愛情の強さには、度々当てられてしまった。

美音さんに甘すぎる!!もう、好きが溢れて止まらない、みたいな?(笑)

お互いに仕事を抱えていて帰りが遅いから、夫婦の時間が少ないのがちょっと

可哀想。要さんの仕事が忙し過ぎて、家事をほとんど美音さんがやっていても、

文句言わずに要さんの身体の心配をする。出来た奥さんだなーと思いました。

新婚でこの生活だったら、私なら耐えられないだろうなぁ。愚痴のひとつや

ふたつ、言いたくなって当然だと思うけどな。案の定、抱えていたものがあった

訳だけれど。お互いに、ちゃんと言いたいことを言い合える関係になれて

良かったな、と思いました。

あと、馨ちゃんと哲君も思いの外早いゴールインでしたね。でも、一人暮らし

になった馨ちゃんにとっては、いいタイミングだったのじゃないかな。美音

さんもこれで安心でしょうね。

そして、今回も美味しそうなお料理が満載でした。美音さんのような料理の腕と

知識が私も欲しいなぁ。最近は料理の幅を広げようと思って、スーパーで

使ったことのない食材を買うのがプチマイブームだったりします。昨日は人生で

始めてウドを買って調理しました。思った以上に下処理が面倒だったけど(皮と

芯を別に切って、酢水にさらして・・・みたいな)、割と美味しく頂けました

(ちなみに、芯の部分は酢味噌和え、皮の部分は人参と合わせてきんぴらに

しましたw)。新しい料理に挑戦するのはちょっと冒険だけど、新しい発見が

あって楽しい。今度は何に挑戦しようかな~。

更なるおかわり!があるといいな。もっともっと、美音さんのぼったくり料理が

味わいたいです。

 

森絵都「できない相談」(筑摩書房)

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久々の森絵都さん。もともとは好きな作家さんですが、最近はなんとなく

スルーしちゃう作品が多かった。これはなんとなく新刊情報のところ読んで、

読みやすそうな感じがしたので借りてみました。

うん。確かにめっちゃ読みやすかった。なんせ、一話が5ページほどの

掌編ばかりを38編も集めたショートショート集。いろんな人々の、日常の

譲れない拘りを描いたものばかりが集まっています。

わかるわかる、と思える作品もあれば、理解出来ない~と叫びたくなるものも

あり、バラエティに富んでいます。ただ、それほど強烈に心に残るものは

なかったなぁ。さらっと読めて、さらっと忘れて行く感じ(苦笑)。

一発目の夫婦のお互いの拘りと、それを相手に言えないもどかしさみたいな

感じはすごく共感出来ましたけどね。言いたいけど、まぁ、我慢できる範囲

だし、変に波風立てたくないし・・・みたいなのって夫婦とか家族なら誰でも

あると思うなー。6話目のヘルマン・ヘッセの小説の感想文のやつは、人に

よって感じるものが全然違ってて、面白かった。最後の生徒の、感想文を

『強制的に』書かされる生徒の立場に立って皮肉った感想は、先生が読んだら

一本取られた!と思うところでしょうね。こういうことが書ける子は、普通に

感想書いても上手く書けそうですけどね。

17話目のパソコンのアップデートのやつもあるあるでしたね。うちのPCも

何度か同じ目に遭わされてます・・・。勝手にアップデートすんなよ!って

その度に叫びたくなりますもの。何度も何度も再起動するのを絶望的な気分で

眺めるあのなんとも言えない時間・・・ああ、思い出したくない。とはいえ、現在

うちのPCもテンくんなんですけどね(苦笑)。

ラストのトイレの電球の話も夫婦のあるある。これに関しては、うちでは電球

とか変えるのは相方が全部やってくれてるんで、こういう諍いは皆無なんですが、

トイレットペーパーに関しては大いに共感できました。自分が使い切ったら

ホルダーに補充しておくのは当然のエチケットだと思うんですけど、それを

度々忘れられるんですよね。すぐ後ろの棚に替えが置いてあるのにさ。その度

ちょっとイラっとさせられるんですよねぇ。え、心狭いですか?ま、他の家事は

料理以外はほとんどやってくれるから小さなイラッとなんですけどね(苦笑)。

中にはあんまりピンと来ない作品もちょこちょこありましたけど、女性視点や、

夫婦のあるあるみたいなものを描いたものは共感できる作品が多かったですね。

些細な日常を切り取るのが本当にお上手な作家さんだな、と思いました。