ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

髙田郁「八朔の雪 みをつくし料理帖」「花散らしの雨 みをつくし料理帖」(ハルキ文庫)

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積ん読棚本シリーズ。『銀二貫』がめちゃくちゃ良かったので、当時勢い込んで

買っていた二冊。巷で大絶賛されていたので読むのを楽しみにしていたのですが、

ついついそのままになってしまっていました。

いやぁ、なんでもっと早く読まなかったのかなぁ。ぐずぐずしているうちに

シリーズは全十冊が出てしまっていた模様。ま、完結しているから次いつでるのか

やきもきすることなく、一気に読めるって点ではいいのかも。手元にはこの二冊しか

ないので、これからは図書館で借りて行く予定ですが(再開したので、ぼちぼち予約

して行こうかと思っております)。

噂に違わず、めっちゃ良かったです。『銀二貫』の時もそうだったけど、一話の

中にぐっと来る要素が満載。もう、何度涙腺崩壊しかけたことか。基本あんまり

本や映画等で泣かない私ですが、人情系には弱いんだよなぁ。主人公の澪を始め、

一緒に暮らす母親代わりの芳、奉公先の店主種市、医師の源斉、ご近所さんの

おりょうさん家族、そして、澪の幼馴染で吉原の遊女、野江(朝日太夫)と

澪が心を寄せる浪人風の常連客小松原・・・それぞれのキャラクターがみんな

生きていて、澪とのエピソードはどれもが心温まる。何より、辛く悲しい経験を

持つ天涯孤独の身の上でありながら、いつでも周りの人への感謝の気持ちを忘れず、

料理に対する情熱を持ち、失敗してもへこたれず次へ進もうとする、前向きな澪の

たくましさが、とてもいい。そんな澪だからこそ、周りにも優しい人が集まる

のでしょうね。

また、澪が作る素朴な日本料理がどれもめちゃくちゃ美味しそうなんですよね。

今では当たり前にある料理でも、江戸時代当時の人々にとっては初めての味ばかり。

澪が考え出した新作料理をお客さんが恐る恐る食べては、仰天する、というお決まり

の展開が何とも小気味よかった。今、当たり前に食べている数々の日本料理は、

こんな風にして生まれて来たのかもしれないな、と思わされました。

一巻の『八朔~』では、終盤、つる家が炎上してしまい、種市が廃人のようになって

しまうくだりが辛くて辛くて。それでも、朝日太夫の援助によって新しい道が開けて

ほっとしました。澪の料理を食べた種市が正気を取り戻すシーンには、心打たれたな。

二巻の『花散らし~』では、澪と幼馴染の野江(=朝日太夫)との魂のやり取りが

心に強く残りました。二人は、決して会うことが叶わなくても、心で繋がっている

というのがとても良くわかりました。指で作った狐マークの『涙は来ん、来ん』

のシーンは涙腺決壊寸前に。本当に、お互いに思い合う親友同士なんですね。

そして、終盤のおりょうさんの病の顛末には、本当にはらはらさせられました。

この時代は、ちょっとした病気でも命を落としてしまうことが多いから。あんなに

元気だったおりょうさんが死の床を彷徨う姿は読んでいて辛かった。太一が

快方に向かったからこそ、おりょうさんの病が最後まで気がかりでした。大事な

人をたくさん亡くして来た澪が、また大事な人を失ってしまうのは本当に勘弁

してあげてほしいと願ってました。祈りが通じて良かったです。源斉先生と

おりょうさんの生きる気力の強さに感謝です。

最後は澪の恋。小松原への想いに気づき始めた澪が可愛らしい。今後、この恋が

どうなって行くのかも読みどころの一つでしょうか。うーん、早く次が読みたい!

図書館が再開したら予約しなくては。

基本的には時代ものが苦手な私ですが、これはめっちゃハマりました。やっぱり、

高田さんの作品は良いなぁ。時間かかっても、絶対全巻制覇するぞー。

 

三浦しをん「むかしのはなし」(幻冬舎文庫)

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はるか昔に買った積ん読書庫の一冊。ヤフーブログ時代にやり取りさせて頂いて

いたブログのお仲間さんがとても好きだと言っていたので、買ってあった作品。

その方、途中からコメント欄を閉じてしまわれたので、全然交流がなくなって

しまっていたのですけれど(当然ヤフブロがなくなった後どうされているのかは

不明)、どうされているかなぁ。

自分でも買ったことすら忘れていたのですが、読む本を探して本棚を物色して

いたら見つけたので、この機に読んでみることに。

しかし、思っていた内容とは全く違っていましたねぇ。日本昔話を現代風にアレンジ

したら?をコンセプトにした7作の短編集。各作品の冒頭に下敷きにした昔話の

さわりが載っていますが、これはほぼ元ネタとは違うものと思った方がいいですね。

ちなみに元ネタ作品は以下。

『ラブレス』→『かぐや姫

『ロケットの思い出』→『花咲か爺』

『ディスタンス』→『天女の羽衣』

『入江は緑』→『浦島太郎』

『たどりつくまで』→『鉢かづき

『花』→『猿婿入り』

『懐かしき川べりの物語せよ』→『桃太郎』

 

最初の三つぐらいを読んでいる時は、全くばらばらの作品だと思ってたんですが、

四作目の『入江は緑』を読んで、微妙なリンクに気づき始めました。なかなか

トリッキーなリンクの付け方だなぁと思いました。普通に短編としても読むことが

できるけれど、一冊読むとそれぞれの話が一つの方向性に向かっているのがわかる。

根底にあるのは、あと数ヶ月で地球に隕石が衝突し、人類が滅亡する予定だが、

選ばれた1000万人だけはロケットに乗って火星や木星に逃げることができる、

というもの。衝突の前に死んでしまう運命の人間もいれば、幸運にもロケットに

乗るチケットを入手した人間もいる。でも、大部分はそのまま地球に残って隕石

衝突と共に地球滅亡の巻き添えになる。それぞれの作品は、地球が滅亡した後で

それぞれの話がどんな風に『昔話』として語られるのか、という体裁を取っている。

それぞれの話はそれほど強く印象に残るようなものはないのだけど、壮大な

テーマが隠された連作短編集として読むと、なかなか面白い。各作品の微妙な

リンクを探すのも楽しいですし。一作目に出て来たヤクザの情婦の子供がラスト

の作品で高校生となって登場したり、二作目の、川から流されて来た子犬(ロケット)

を流した犯人がラストの作品に出て来た主人公の高校生であることが判明したり。

私が気づいていないリンクもちょこちょこありそう。相関図作りたいくらい(笑)。

読んでいて楽しいお話はほとんどありません。どちらかというと、救いのない

オチの作品の方が多い。なんせ、もうすぐ地球が滅亡しちゃうって設定なのです

から。結局、実際隕石が衝突したのかどうかはわからないけれど、ロケットに

乗って地球から脱出した人によって、これらの話が『むかしのはなし』として

誰かに伝わって行くのは間違いないのかもしれません。

荒唐無稽な設定なので、ちょっと物語に入って行けないところもあったけど、

試みとしては面白い作品だな、と思いました。

 

 

垣谷美雨「うちの子が結婚しないので」(新潮文庫)

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コロナ禍で図書館休館中の為、古本屋で購入した垣谷さんの本第二弾。こちらも

100円也。ただ、この間の『老後の資金がありません』のように、ドッグイヤー

はついてなくてほっとしました(当たり前なんだけど、何せ100円だからさw)。

その代わり、若干水濡れっぽいよれがあるような・・・(どっちもどっち)。

タイトルが面白そうだったのでまぁいいやとこっちも買ってみました。他人の

婚活話とか大好きなんで(笑)。

婚活といっても、今回のテーマは親婚活。30を目前に控えた娘の婚活に

乗り出す夫婦のお話。28歳の娘が未婚でも今の世の中はそれほど変な目で

見ないとは思いますけど、主人公の千賀子が、あまりにも男の気配がない娘が

このまま結婚せずに老後を迎えた時のことを考えて、なんとか結婚させたいと

思うのは、しごく自然なことなんだろうなと思いましたね。自分の娘が老後

一人で頼る人もいなくて孤独だと考えたら、やっぱり親としては心配しますよね。

華やかな容姿とか、一人でも生きていけるような職業に就いているとかでも

ない限りは。多分、私の親も同じだったと思いますね。私なんか、千賀子の娘

友美よりも遥かに婚期も遅かったから、そりゃー心配かけたと思うと申し訳ない

気持ちにもなりますけども。

私だけじゃなくて、今は全体的に晩婚化しているから、千賀子夫婦のような

立場の人はとても多いんじゃないかな。娘や息子を持つ親なら、かなり親近感

を覚える内容じゃないでしょうか。

で、始めは抵抗していた友美も、両親揃って老後や仕事のことを諭されて、

結婚に対して前向きになり、千賀子の親婚活から始めることを了承。まぁ、

大抵はここで子供側の抵抗にあって終了ってパターンだと思うんですが、友美は

割と素直に親の言うことを聞く子なんですよね。私だったら多分親に婚活して

もらうなんて絶対拒否するだろうけど^^;あと、普通なら父親はこういう話に

ノータッチって場合が多いと思うけど、どちらかというと千賀子の夫の方が

積極的に婚活に乗り出す。そこは面白いところだな、と思いましたね。

ただ、始めは千賀子がひとりで親婚活の場へ。友美の容姿は正直ぱっとするもの

ではなく、学歴や年収も高いとは言い難い。ただ、唯一の強みはまだ二十代だと

いう点(28歳)。婚活の場では二十代は人気があるとはいえ、やっぱり最初は

なかなか上手く行かず、玉砕して帰る羽目に。高学歴や高収入の親からは見下された

目をされたり、共働き希望なのに嫁になる人には家事を全部負担して欲しいと

言われたり。自分たち本位の親ばかりで、イライラしました。友美は友美で婚活

パーティに挑むけれども、そちらも美人のサクラらしき女性にすべてを持って

行かれたりして玉砕するばかり。ただ、家族一致団結して婚活に挑むうちに、

婚活を通じて家族がひとつになって行くところは良かったですね。地道に婚活を

続けて行くうちに、友美は何人かの男性と連作先を交換し、食事に行くまでになる。

ただ、結婚するにはいい人なんだけど、生理的に受け付けないから先に行けない

と悩む友美の気持ちはとても共感出来ました。両親があれだけ頑張ってくれてる

から、自分も妥協しなきゃいけないのかと焦る気持ちも。結婚って、一生一緒に

いることが前提でする訳ですからね(まぁ、そうじゃない人もいますけども)。

最後はちょっとあっさり上手く行き過ぎな気もしましたが、家族揃ってあれだけ

頑張ったのだから、ああいう結末で良かったです。まぁ、千賀子たちのようには

上手く行かずに、ずるずる何年も続けざるを得ない人もたくさんいるのでしょう

けど。多分、どんな結末にせよ、自分の子供が幸せになれるならば親は満足する

んじゃないかな。結婚したからといって、幸せになれるとも限らないですし。

結婚はあくまでもスタートで、そこから幸せになれるかどうかは本人次第です

もんね。

垣谷さんは、まだまだ気になる題材の本がたくさんあるので、今後もいろいろ

読んでいけたらいいなーと思ってます。早く図書館再開しないかなぁ。

 

垣谷美雨「老後の資金がありません」(中公文庫)

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ブログ友達のわぐまさんのところで度々見かけていた作家さん。最近巷でも

作品が出るたびに話題になっているので、図書館では人気が高くてなかなか

借りられずにいたのですが、先日行った古本屋の100円棚で目出度くゲット。

比較的きれいな本だったのでなぜに100円?と不思議だったのですが、読み

始めて納得。読み進めて行くと、度々ページが折られている箇所が。これが

ドッグイヤーってやつか。雑誌ならいざ知らず、小説でも栞代わりにページを

折るなんて、ほんとにやる人がいるんだなぁ。私には到底考えられないけどね。

折られたページをいちいち直しながら読むのはちょっとストレスだった。

ま、100円だからいいけどさ。

さて本書。タイトル通り、老後の資金がなくなりそうでどうしようと悩む主婦

のお話。主人公は、夫があと三年で定年を迎える53歳のフルタイムパート主婦、

篤子。共働きで老後の資金もそれなりに蓄えたと思っていた矢先、娘の派手婚の

結婚費用と舅の葬式が重なり、一気に貯金が目減りしてしまう。その上、運の

悪いことに、夫婦揃って職を失う事態に陥ってしまう。お金がないのに姑に月9万

の仕送りもしなければならず、家計は一気に火の車に。篤子はこのピンチをどう

切り抜けて行くのか――。

いやー、身につまされるお話でしたねぇ。私には子供がいないから、娘の

結婚費用こそかからないものの、それ以外の老後資金に関しては、いつ自分の

身に降り掛かってくるかわからない問題ばかり。葬式関係なんかはほんと、

本人に最低限は残しておいて欲しいですよね・・・。身の丈に合わない介護施設

費用なんかも勘弁してほしい。私の場合は、本人たちの意向もわからないので、

どうなるかは全く今のところは想像もつかないのですけれど。

それにしても、娘にしても義父母にしても、お金を篤子夫婦に頼りすぎ。結婚式

の費用を、今どき親に全部出してもらう人がいるっていうのにも驚いた。しかも

娘本人は地味婚を望んでいるのに、旦那側の意向で600万円の式とは。完全折半

で300万だとしても。娘が、それを平気で親に負担させてるところにイラッと

しました(父親が安請け合いしたのがいけないとはいえ、察することはできる筈)。

姑への援助にしても、月9万はありえないでしょう。援助してもらわなきゃ老人施設

に資金を払えなくなった時点で、もっと安い場所を探すとか自宅に戻るとか、

何かしらの対策を練るべきでしたね。まぁ、主導権を持っているのは近くにいる

義妹夫婦なんだから、篤子がどうにかできる問題じゃなかったのかもしれませんが・・・。なんか、いろいろツッコミところが満載だったような。でも、実際自分が

その場に立ってみると、思っていた通りには対処出来ないものなんだろうなぁ。

お金が絡んで来ると余計に。

自分ももう少し年取ったら、確実に老後資金のことを考えなきゃいけない時期が

来る訳で。ほんと、今からちゃんと計画して蓄えておかないといけないんだろう

なぁと痛感させられました。いつどこで法外な出費があるかわかりませんからねぇ。

近い将来、家の修繕費用は絶対かかるし。葬式系だって、いつ突然やってくるか

わかりませんからね。幸い、今の所は自分のところも相方のところも両親揃って

元気ですけど・・・。

篤子の長男・勇人だけが作中のほぼ唯一の常識人で、いい子で良かった。姑も、

豪華な施設暮らしで悠々自適に暮らしているお花畑人間なのかと思っていたのですが、

意外とちゃんと物事を見極められる人だったのは救いだったかも。篤子の家で

引き取ってからの言動には驚かされっぱなしでした。ただまぁ、年金詐欺の片棒

担いだのはどうかと思いましたが・・・。犯罪だよ・・・。でも、それで受け取った

お金を篤子たちにすんなり渡す辺り、ちゃんと自分の立場を弁えてはいるんだなと

意外な気持ちになりました。

それにしても、篤子の友人サツキには呆れました。ひと月も前から行方不明の

義母を警察に届けることもせずに年金をもらい続けるとは・・・。いくらお金が

必要だからって、そういう不正はダメでしょう・・・。その不正の片棒を篤子の

義母に頼むという図々しさにも唖然。受ける方も受ける方だけどさ。最終的に

サツキから受け取ったお金はそのまま彼女に返されることになったので、まだ

溜飲が下がりましたけどね。

相方が定年間近になってこういう状況になったらと思うと・・・。いろんな意味で、

リアルだし身近に迫る将来が怖くなるお話でした。

垣谷さんの作品は実はこれ買った時もう一冊買っていて、すでに読み終えています

(後日記事上げますが)。

こちらはこちらで、結婚前の自分にはかなり身に覚えのあるお話。この方の

選ぶ題材はいつも、身近にある問題を取り上げていてリアルなのよね。

 

池井戸潤「不祥事」(講談社文庫)

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これまた、長年本棚に眠っていた積ん読本。ドラマ『花咲舞がだまってない』

の原作。この表紙とタイトルじゃ、誰もあのドラマの原作だとは思わないだろうな。

ただ、ドラマ化に合わせてなのか、その後でかなのか、マンガちっくな表紙の

新装版が出ているもよう。しかも、それ以降のシリーズは、ドラマと同タイトルで

続編が出ているのだから、もう完全にドラマの方に寄ってますね。まぁ、ヒット

したから当たり前か。もちろん、私もハマって観ていました。本書が未読のまま

だったので、その後シリーズの新刊が出ても読むことが出来ずにいたので、

今回読むことが出来て良かったです。図書館始まったら続き予約しよっと。

ドラマから入ったクチなので、どうしても配役イメージは杏ちゃんと上川さん

になっちゃってました。相馬さんは、ドラマよりも情けない感じ。もともと

融資の方でバリバリに働いていた人とは思えない・・・当時の副店長とやり合って

出世競争から外れてしまったことで、性格も卑屈になってしまったのかしら。

まぁ、その分舞の気が強いから、これはこれでバランスが取れていて良いコンビ

なのかも。相馬さんは上司の筈だけど、むしろ舞の方がイニシアチブを取って

行動している感じ。銀行に蔓延る悪い奴らを舞がやり込めるところは、やっぱり

ドラマ同様、スカッとしました。舞は原作でもすごい仕事が出来て、美人っていう

設定でした。普通ならめちゃくちゃモテそうなのに、こういうタイプは銀行

みたいな男性中心の職場だと、かえって生意気だと煙たがられるものなんですね。

書かれたのが大分前だからなのか、銀行内部の人間関係は旧態依然の男社会の体質

そのまんまって感じがして、ちょっと時代遅れな感じがしましたね。今の銀行が

どんな感じなのはわかりませんが。コンプライアンスが叫ばれる昨今でも

こんなだとは思いたくないですけどね・・・。

まぁ、そういう古いタイプの男たちを舞がばっさばっさと斬りまくるところが

読みどころのひとつでもあり、この物語の痛快なところなんですけどね。

原作の方で相馬さんが呼ぶ舞のあだ名『狂咲』は、さすがにドラマではNGに

なったんでしょうね。視聴者から苦情が来そうですもんねぇ。『狂』が禁句用語

なのかもしれませんけど。

記事を上げるにあたってネット検索していたら、これの前にもう一作前身となる

作品があるんですね。しまった。そっちから読むべきだったか。ただ、主人公が

違う人間らしいけど。舞が出て来るのは確実みたいですが、相馬さんは出て来る

のかな。シリーズの続編の前にそっちを読んでおかなくては。

小川糸「食堂かたつむり」(ポプラ文庫)

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自宅積ん読本棚からまた一冊。実は何年も前に義姉から借りてそのままにして

しまっていた作品(ごめんなさい・・・)。今年のお正月に会った時、最近

義姉が読んですごく面白かったと言っていた作品が同じ小川さんの『ライオンの

おやつ』だったのを思い出して、読んでみたくなりました(『ライオン~』は

本屋大賞候補になったこともあって、予約数がすごくて当分借りられそうにない)。

本書は映画化もされたんですよね。読んでる時は誰が主人公を演じたのかとか

知らなかったので、なんとなく深津絵里さんをイメージして読んでました(多分

CMのキッチンカーの女店主のイメージが強いせいでしょう)。実際は柴咲コウ

さんが演じてらっしゃったらしい。まぁ、原作も二十代の設定ですし、深津

さんでは年齢も合わないのだけれど。

もっとほのぼのした作品を想像していたのだけど、意外と内容はシビアで、

食肉を捌くエグい描写なんかもありました。

そもそも、主人公はのっけから付き合っていた恋人に裏切られて、所持金も

持ち物も、ほぼすべてが持ち去られてしまうという絶望のシーンから始まるし。

でも、その時点で、私はなぜ主人公がもっと裏切った恋人に対して憤慨しないのか

謎だったんですけど。ただ、自分の元から去っただけじゃなくて、何から何まで

持ち去られたのだから、もっと怒るか、警察に届けるかした方がいいと思ったの

ですけどね。一緒にお店を出すことを夢見てこつこつと貯めて来た貯金も、

大事にしていたキッチン道具もすべて持って行かれてしまったのに。挙句の果てに、

ショックで声までも失われたというのに!私だったら、怒りと絶望でわれを忘れ

るに違いない。でも、その後も、元恋人を思い出すシーンが出て来ても、怒りは

なく、ただ悲しみの感情しか出て来ないし。こういう人もいるのかなぁと思いは

したものの、ちょっと自分には共感出来なかった。結局、その元恋人がその後

どうしてるかも一切出て来ないので、彼がどんな思いで、主人公倫子の元を

去って行ったのかはわからないまま。そこはちょっと消化不良だった。

所持金もなく帰る家もなくなった倫子が、実家に帰って食堂を始めて以降は

素直に楽しく読めました。母親との関係はかなり不思議でしたが。母親自身も

かなりぶっとんだ性格ですし。娘が失恋でボロボロになって帰って来た割に、

あまり親身になってあげないし。なんか、ドライな親子関係だなぁと思って

いたのですが・・・終盤に明かされた、母親の本心には胸を打たれました。

本当は、ずっと倫子に帰って来て欲しかったんだろうな。あんな状態での帰郷

だったけど、倫子にとっても母親にとっても、一番いいタイミングだったんですね。

そういう意味では、裏切った恋人に感謝するべきなのかも(癪に障るけどさ)。

倫子の料理はどれもかなり斬新で、味のイメージが全然わかなかったです。

ザクロのカレーって、一体どんな味なんだろう。酸味があるのかなぁ。

ジュテームスープは、毎回とても美味しそうでした。いろんな季節の野菜をぶち

込めばいいって意味では、誰にでも作れそうな感じもしますけど。でも、やっぱり

倫子が作るからこそ、魔法のスープになるんだろうな。

フルーツサンドを作ってあげた男の客がしたことは、絶対に許しがたかったけど。

パン屋の風上にも置けないやつだと思いました。こんなケースがあるから、

飲食店経営は難しい。大部分は良いお客さんだろうけど、こういう、お店に対して

悪意を持った客も必ずいるからね。

倫子のお料理は他にないアイデアがあって、どれも美味しそうでした。いろんな

修行をして、いろんな料理を食べたからこそ、こういう閃きがあるんだろうな。

食堂でいろんなお客さんに倫子の料理を振る舞うくだりは面白く読んでいたの

ですけど、もう一つ引っかかったのは、母親の飼育している豚のエルメスのくだり。

倫子が実家で暮らすのと引き換えにエルメスのお世話を担うことになって、

甲斐甲斐しくお世話する姿に微笑ましい気持ちになっていたからこそ、あの

展開にはショックが大きかった。確かに、そもそもこの豚の役割を考えると、

当然の展開とも云えるのかもしれない。それでも、エルメスが倫子に懐いて

行く様子が伺えていただけに、まさかの展開についていけなかった。母親も、

なんでそんな要求するかなぁ。倫子に託せばいいだけじゃないの?って思って

しまった。作者が伝えたかったことは、十分わかるんです。そもそも、こういう

ことなんだってことは。頭では理解できるけど、自分だったら絶対ムリだな、と

思いました。そして、一番悲しかったのは、そうやってお世話してきた倫子が、

後日エルメスのことを考えた時、悲しみはないと言い切っていたことです。

多分、そう言い切れるのは、倫子が根っからの料理人だからなんでしょうけどね。

概ねは楽しめたのだけど、一部ひっかかる部分もあって、手放しに褒められる

作品とも言いかねるって感じだったかな。他の作品がどんな感じなのかは

ちょっと気になります。『ライオン~』も、ほとぼりが冷めた頃に読めたら

いいな。

 

 

 

 

 

真梨幸子「殺人鬼フジコの衝動」(徳間文庫)

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図書館休館中の為、自宅本棚から選んだ次の本はコレ。随分前に姉に借りたまま

積ん読状態だったので、これを機に読むことにしました。真梨さんの作品は

前に一作か二作読んだきりでしばらくぶり。ほとんどの作品がイヤミスより

と聞いているので、なかなか手が出なかったんですよね^^;

本書は確か映像化もされて話題になりましたよね。姉もその時に買ったんじゃ

ないかな。ちなみに、画像は限定版になってますが、読んだのは普通バージョン

です。限定版は書き下ろしページが入っているらしいので、そっちで読みた

かったなーと思ったのですけどね。

さて、本書。予想通り、イヤミス要素満載でした。どこを取っても不快になること

請け合い(笑)。いろいろと作者が施した仕掛けがある為、あまり内容を

細かく書けないのが残念なのですが。かなり考えられた構成になっていると

思います。実は、ちゃんと把握するのに、最後の数ページは何度か読み返して

しまった。なるほど、そういうことか、と溜飲が下がりました。

フジコの幼少時の家庭環境は悲惨で、こういう人格が作り上げられてしまったのも

仕方がないのかな、とも云えるけれど、それにしてもフジコのサイコパスキャラは

読んでいて不快極まりなかった。ちょっと気に食わないことがあると、すぐに

殺人衝動が起きるってのにも怖気が走りましたし。こんな人間に関わったら

すべてが悲劇の方向に進むしかないっていう。15歳から付き合うことになる

裕也のキャラもひどかったけどね。同じバイトで知り合った杏奈が出て来た

瞬間、嫌な予感しかしなかったです。もちろん、その通りになりました。しかし、

なんでこの犯罪がバレないんだ?とツッコミたくはなりました。いくらアレが

見つからないといったって。処理の描写を読むのがキツかったなぁ。フジコの

狂気が恐ろしかった。

フジコが妊娠・出産した後の子育てシーンも嫌悪感いっぱい。やっぱり、親が

異常だと、子供もまともには育たないという典型例じゃないですか。押入れに

自分の子供を押し込んで知らんふりするとか、もう私には理解不能でしかない。

子供の虐待の描写を読むのはどんな作品でもしんどい。生まれた子供に罪は

ないのに。いくらフジコに構うなと言われたからって、自分の血を分けた子供

なのに、無関心を貫く裕也にも憎悪しか覚えなかった。二人とも悪魔だ。

終盤、いろいろと腑に落ちないことが残ったまま、突然あとがきのページに

なるので、かなり面食らっていたのですが、そこからがこの作品の真骨頂。

フジコ一家の惨殺事件の犯人は全く予想外の人物でした。まさかの反転に驚かされ

ました。そして、本当に最後のつけたしのような1ページに更にどーん、と

落とされました。最後の最後まで容赦ないなぁ。真梨さんはやっぱりイヤミス

女王だな、と思わされました。

ミステリ的には面白かったけど、やっぱりどこを取ってもイヤミスでしかなく、

読んでる間は不快な気持ちでいっぱいでした。この手の作品を続けて読むのは

ちょっと御免被りたい。こういうエログロ満載のド直球のイヤミスは、たまに

読むくらいがちょうどいいのかも。