ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

三上延「ビブリア古書堂の事件手帖Ⅱ ~扉子と空白の時~」(メディアワークス文庫)

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ビブリアシリーズセカンドシーズン(こういう書き方が正しいのかわかりませんが)、

二作目です。一作目から結構間が空きましたね。Ⅰの時みたいにコンスタントに

次々出すのかな、と思っていたので。コロナの関係とかもあるのかなぁ。

今回は、待ってました!の横溝正史がテーマ。もーう、横溝ファンとしては、

ワクワクしましたね~。正史の幻の作品『雪割草』を巡るお家騒動に巻き込まれた

栞子さんと大輔の体験を綴る、三部作形式。大輔の書いた体験記を扉子が読んで

追体験するという形になっています。それを読む扉子は、一作目より成長して、

高校生になってます。一作目の小学生の時はなんだか掴みどころがなくて、

あんまり好感持てる感じの子じゃなかったのだけど、少しだけ出て来る高校生の

扉子は、熱狂的な読書好きという点は変わっていないものの、普通に好感持てる

女子高生になっててほっとしました。

その聡明さは栞子さん譲りのようで、今後のお話では扉子の推理帳になって行き

そうな感じがします(今回は過去の栞子さんと大輔の事件を描いているので、

その前日譚みたいな位置づけと云えるかも)。

本書は、三部作になっていますが、すべてが横溝正史関連のお話。まぁ、一作目

から繋がっていて、三作目で一作目の伏線がすべて回収されるという形でも

あるのですが。正史の幻の作品『雪割草』についてのニュースは、以前目にした

記憶はあったのですが、こういう曰くのある作品だとは知りませんでした。

新たに書籍化される前は、本当にファンの間でタイトルだけが知られている幻の

作品だったのでしょうね。今は普通に読めるみたいなので、そのうち読んで

みたいなぁ。私は正史の本格推理ものしかほとんど読んだことがないので、正史の

家庭小説っていうのが全く想像出来ないのだけれど。三話目で明らかになる、

『雪割草』の原稿を盗んだ人物の言動には嫌悪しか覚えませんでした。栞子さんが

犯人を指摘した後のふてぶてしい態度にもムカムカしましたし。あくまでもしらを

切り通そうとする往生際の悪さにも辟易しました。こんな性悪な人間に横溝

ファンを公言してほしくないです。いつも思うけど、このシリーズに出て来る犯罪

って、必ず古書を巡る悪意が根底にあるんですよね。古書や本好きには、悪人しか

いないのか、とがっかりしてしまう。私は、基本的に本が好きな人は良い人だ、

と思いたいところがあるので、古書好きに関する作者の扱いにはちょっと物申し

たい気持ちになるところもあるんですよね。もちろん、基本的には大好きな

シリーズなんですけどね。

個人的には、二作目の『獄門島のお話が好きだな。扉子が『獄門島』をテーマに

読書感想文を書くことになるお話。扉子が、古書店で取り置きしてもらっていた

『獄門島』が紛失してしまう。盗んだのは誰なのか?という内容。小学三年生が

読書感想文に『獄門島』を選ぶっていうのもすごいと思いましたが。でも、それを

良く思わない担任が、もっと読書感想に相応しい他の本に変えてもらえないかと

大輔に頼みに来るのだけど、余計なお世話だ、と腹立たしく思いました。そりゃ、

殺人事件を扱うミステリーを小学生が読むのはよろしくないと思われるのも仕方が

ないとは思うけど・・・。でも、私も小学生のころ、テレビで普通に金田一

シリーズの映像化作品観てワクワクしてたし。そういう小学生だっていっぱいいると

思うんだけど。それで悪影響受けたとか全然なかったし。頭の固い教師だなぁと

ムカムカしました。

扉子の『獄門島』紛失の真相は意外なものでした。でも、珍しく、その裏には悪意

が全く入っておらず、むしろ純粋な愛情や好奇心から起きた出来事だったので、

読後は爽やかでした。こういうのを求めていたのよ~って感じ。扉子にとっても、

その後に繋がる嬉しい出会いがありましたしね。

先に述べたように、この一連の出来事をきっかけに、扉子の推理力が開花して行く

展開になっていくのだと思われます。次はいよいよ、扉子本人の物語になるのかな。

栞子さんと大輔のイチャイチャシーンが読めないのは、それはそれで寂しいので、

そこは変わらず入れてもらいたいものですが。

一つ苦言を呈するならば、作中、あちこちに誤植が見られるところ。メディアワークス

の校正担当は何やってるんでしょうか。一箇所くらいならまぁ許容範囲だけど、

ちょっと見過ごせないくらい、多すぎる。それも、ありえないくらいの酷い誤植とか

書き間違いが。こういうのがあるからラノベは・・・って言われちゃうんじゃないか。

校閲(校正)ガールに怒られるぞ。

まぁ、それは置いといて、作品としては、とても楽しめました。正史の作品めっちゃ

読みたくなりました。読み逃してる金田一ものもたくさんあるし。

金田一最後の事件を読む勇気が出ず、ずっと実家の本棚に眠らせたままの『病院坂の

首縊りの家』も、そろそろ読むべきかなぁ。

 

 

井上真偽「ムシカ 鎮虫譜」(実業之日本社)

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久々に井上さんの作品が図書館入荷してくれました。なかなか読みたくても

図書館入れてくれないのよね。これは単行本の新刊だったら入りやすかったのかも。

無人島に降り立った5人の音楽大学生たちが、様々な虫に襲いかかられて行く

サバイバル小説。その途中で曰くありげな因習を持つ島民たちに出会い、凶暴化

した虫たちを、彼らが音楽で鎮めていることを知る。虫と音楽に支配された

孤島の知られざる秘密とは――。

私、基本的に虫ダメなんですよ。だから、戦々恐々としながら読んだのだけど、

これは面白かった。いや、確かに、虫の大群が次から次へと登場人物たちに

襲いかかって来たりして、あらゆる虫のオンパレードなんで、もう、何度か

気が遠くなりかけたりはしたんですけどね。うん。インディ・ジョーンズのあの

洞窟の中で虫に囲まれるシーンも、何度観ても吐きそうになりますもん。まさに、

あのシーンが畳み掛けるように何度も出て来るような作品ではあります。虫が

苦手な人は気をつけた方がいいとは思いますが・・・でも、インディ・ジョーンズ

にワクワクする人なら、この作品の面白さも理解してもらえるんじゃないかなぁ。

ああいう、冒険小説っぽいところもあるし、RPGのゲームやってるような気分にも

なれますし。もちろん、洞窟探検も出て来ます(わくわく←洞窟フェチ)。

凶暴化した虫の大群を、音楽で大人しくさせる、という設定なんかは、いかにも

ゲームとかアニメの世界っぽい。リアリティはあんまりないけど、設定としては

面白いな、と思いました。

最初は、5人の音大生たちが孤島内で殺し合うクローズドミステリなのかと思って

読んでいたのだけど、全く違ってました。殺人自体は出て来ますが、え、こんな

ところで殺人が起きてたの?ってぐらいの扱い。このお話最大の謎は、この島に

言い伝えられているおとぎ話や、島民たちが虫を鎮める儀式で使っている手足笛

という楽器の曰くなど、この島の因習自体にあります。ラストで、その謎がきれいに

解き明かされて、スッキリしました。そういうことだったのかー!と目から鱗

落ちました。もっと陰惨な何かが潜んでいるのかと思っていたのですが、真相は

思いの外、温かいものだったところも良かったです。島の巫女集団の得体の

知れなさにはぞ―っとしましたけど。巫女たちにとっても、謎が明らかになって、

いろんなわだかまりが解けたのは良かったんじゃないのかな。音楽雑誌の取材に

来たメンバーたちには嫌悪しか覚えなかったし、5人の音大生たちのキャラにも

あまり好感持てなかったけど、マネージャーのせいでこの島に漂流する

羽目になってしまった高校生ピアニストの奏のキャラだけは気に入りました。

この子は、他の作品にも出て来る子だったりするのかな?年齢に似合わず老練した

雰囲気や、名探偵さながらの推理力など、主役を張るに相応しいキャラクターに

思えるのだけど。この子主体の物語も読んでみたいなぁ。

ラスト、憂いを抱えた5人の音大生たちが、この虫の島で過酷な体験をしたことで、

それぞれに少しづつ一皮むけて成長したことが伺えて良かったです。始めは、

この島に行きたいと言い出した美亜のことを、何か裏があるんじゃないかと

勘ぐったりもしていたのですけどね。純粋に、自分の音楽を何とかしたくて神頼み

したかっただけだったんでしょうね。まぁ、その思いつきに巻き込まれて、

とんでもない目に遭った他の四人はいろいろ気の毒ではありましたけど^^;

終わりよければすべてよし、というわけで。

それにしても、虫、虫、虫、の描写は読むのがホントにキツかった。それが物語の

キモとは云え。読んでて感心したのは、昆虫じゃなくても、漢字で書くと虫へんが

つく生き物っていっぱいいるんだなぁということ。海の生物しかり。爬虫類しかり。

この世は、かくもムシに溢れている、ということね。

 

西澤保彦「夢魔の牢獄」(講談社)

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西澤さん最新作。主人公田附悠成は、夢の中で、過去の他人に憑依できる特殊能力を

持つ。自分の意志で誰に憑依するかは選べないものの、その力を使って、22年前に

起きた未解決の殺人事件の謎を解き明かして行く――という、ちょっと変わった

SFミステリ。ミステリ的には、西澤さんらしく伏線の妙が冴えていて、なかなか

よく出来ていると思います。非常に絡み合った複雑な人間関係にはかなり頭が混乱

しましたが。最終的に明らかにされる、殺人事件の犯人も思わぬ伏兵が出て来た、

という感じで、意外性ありましたし(少なくとも、私は全く予想していなかった

^^;)。夢を見る度に過去の誰かに憑依して、その時起きていた出来事が少し

づつ小出しに明らかにされていく構成もお見事ですし。

ただまぁ、作者は西澤さんですよ。当然、お約束のごとにくマイノリティの性癖

を持つ人がわんさか出て来るワケですよ。そりゃもう、これでもかってくらい、

次から次へと。っていうか、出て来る登場人物、ほとんどがアブノーマルな性癖

持ってるって言っても過言じゃないくらいです。普通だったのって、主人公くらい

じゃないかしら??普通・・・だったと、思うけど・・・(それすら自信なくなって

きた)。

こんな狭い人間関係の中に、よくもまぁ、これだけアブノーマルな人たちが集まった

な、とその偶然に怖気が走りました。似た者同士は集うものだと言いたいのか。

今回は女性同士に限らず、男性同士も近親相姦もアリ。正直、やたらに頻出する

エロ描写を差し引けば、もっとすっきりしたお話になったんじゃないのかな・・・

と言いたくなりました。まぁ、そこは西澤さんだしね。これがなくなったら、

西澤ワールドじゃなくなっちゃうとは思うけどさぁ。もう、途中で何でもアリに

なってきて、辟易してしまった。ミステリーとしては出来がいいだけに、どうしても

いつもエロが邪魔してる気がしてしょうがない。でもご本人はそこが書きたいん

だろうなぁ。今考えると、タックシリーズとか神麻嗣子シリーズの方が異常に

思えてくる。あれは若かったからなのかな。タックの方は、ビアン描写はありました

けど、エロ描写自体はほとんどなかったもんね。ああ、あの頃の西澤作品が懐かし

い・・・。タックシリーズの続きが読みたいなぁ(涙)。あ、でも、今新作が

出たら、やっぱりエロ描写がいっぱい出て来ちゃうんだろうか(汗)。タックと

タカチのそういうシーンは出て来ないだろうけどもさ(出さないでー)。

 

 

 

 

燃え殻「すべて忘れてしまうから」(扶桑社)

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『王様のブランチ』で紹介されていて、気になったので借りてみました。作者の

燃え殻さんって、私は初めて名前を聞いた方だったのだけど、以前に出した

『ボクたちはみんな大人になれなかった』という小説がかなり話題になったらしい。

そちらは未読なので、どんな内容なのか全くわからないのですが。

本書は小説ではなくエッセイ集+イラスト+写真で構成されています。220

ページくらいしかないので、あっという間に読めちゃいました。

でも、ひとつひとつの文章がとても心に刺さりました。ご自身、過去にはかなり

辛い経験もされているようですが、今現在はテレビ業界で活躍されている方だそう。

その合間に小説やらエッセイやらを出しているみたいです。

印象的なエピソードはたくさん出て来るのだけど、個人的にすごく好きだったのは、

スーパーを営んでいたお祖父さんとのエピソード。お客さんに、どんなに理不尽に

怒鳴られても、頭を下げ続けたお祖父さんが、高校生の燃え殻さんに言った言葉が

とても胸に響きました。稲穂みたいな人だな、と。こういう人が近くにいれば、

人間は間違いを犯さないんじゃないかな、と思えました。

あと、『死にたいんじゃない、タヒチに行きたいんだ』って言葉も好きだな。実際

タヒチはとても美しい場所です。死ぬって言葉より、タヒチって言葉の方が

ずっと響きがいい。『死にたい』って思ってる人に対して、こういう返しができる

燃え殻さんは素敵だな、と思いました。

燃え殻さんは、人生の中でやりきれない出来事もたくさん経験している。今現在

だって、辛い仕事を抱えながら毎日をやり過ごしてる。それでも、そんな辛い中で

経験した、何気ないエピソードにくすりとさせられたり、ドキッとさせられたり、

心を射抜かれたりしました。基本、優しい方なんだろうな。昔のいじめられた話

には胸が痛くなりましたが。そういう辛い経験があるからこそ、他人に優しく

できるのかもしれないし。どんなに辛いことがあっても、生きていればいいことも

ある。心に刺さったままの棘を抜くこともなく、ただ受け入れて今を生きる。

燃え殻さんはそうして辛い人生を生きて来たんだろうな、と思えました。

私も経験したことをすぐに忘れてしまう人間なので、こうやって文章に残す

ことは自分が生きて来た証のようなもので、とても大事なことだな、と思いました。

何てことはない日常もたくさん描かれていて、そういうエピソードはすぐに

忘れちゃいそうだけど(女性との不毛なやり取りとか)、優しく静かに訴えかける

何かが潜む文章はとても好みでした。小説の方も機会があったら読んでみよう。

 

貴志祐介「我々は、みな孤独である」(角川春樹事務所)

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貴志さん最新長編。ううむ。貴志さんどうしちゃいました?って感じの作品だった。

何かいろいろと中途半端感が・・・。ミステリーとしても、SFとしても。どっちにも

振り切れてない。話があっちこっちに飛んで、一体何が主体で書きたかったのか、

最後まで読んでもよくわからなかった。いろんな要素を詰め込み過ぎ。そもそもの

発端だった、企業の会長の依頼を中心に話が進んでいたら、こうはなってないと

思うのだけど。途中から、その依頼の件そっちのけで、いろんな人物が夢に見る

前世の話にシフトして行ってしまったから、物語の収拾がつかなくなってしまった

ように思う。結局、会長の依頼も有耶無耶なまま勝手に調査終了みたいな感じで

終わってるし。報告も助手に任せて本人逃亡だし。おいおい。これじゃ、お金

もらえるレベルじゃないよ。こんなんで、よく探偵業やってられるな、と呆れ

ました。

前世の夢の部分では、不必要に暴力的なシーンが出て来るし、拷問やらゲテモノ食べる

シーンとかもあるし、結構読むのキツかったです。現実ではヤクザやメキシコの

犯罪組織による残酷な暴力シーンにも引いたし。貴志さんらしい描写といえばそう

なんですけどね。そういうシーンが物語に必要ならばまだいいんだけど、無駄に

長くて、大して意味もないっていう・・・。私、今、なんでこれを読まされて

るんだ?と疑問に感じるシーンがいくつもあったり。

あと、メキシコの犯罪組織のボス、エステバン・ドゥアルテと通訳の会話に主人公の

茶畑が爆笑するシーンがあるのだけど、私にはさっぱりその面白さがわからなかった

です。通訳の訳し方が面白いってことなんだけど・・・音声にしないと、その面白さ

が伝わって来ないのかもしれませんが。通訳がしゃべる度に茶畑が爆笑するんだ

けど、私は全然笑えないので、すごい置いてきぼり感がありました(苦笑)。

終盤、それまで出て来た前世の夢に関する一つの答えみたいなものが提示されるの

だけど、何じゃそりゃ、とずっこけました。もうめちゃくちゃ。

ラストは突然震災で亡くなった茶畑の妻が登場して、感動話めいた流れになって

無理矢理終わらせた感満載だし。思いっきり風呂敷広げて、全く畳まないまま

終了って。一体ほんとに貴志さんは何が書きたかったのだろう・・・。

読み終えて、何も残らなかった。

読みやすいから何とか読み終えたけど。よく挫折しなかったなー、自分、と思い

ました。予約本ラッシュ前(今ラッシュ中)だったから良かったけど、読む本が

山積みだったら、間違いなく途中で挫折してたかも^^;

自分だけがこんなにダメだったのかと戦々恐々としていたのだけど、アマゾン評価

みたら、みなさん軒並みけちょんけちょんにしていたので、自分だけじゃなかった、

とちょっとほっとした次第。もちろん、評価している方もいらっしゃるので、好き嫌い

分かれる作品なのかもしれませんね。

とりあえず、読み終えた自分を褒めたいと思います(by黒べ)。

 

似鳥鶏「生まれつきの花 警視庁花人犯罪対策班」(河出書房新社)

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似鳥さん最新刊。ラノベみたいな表紙にちょっと引きつつ読み始めました(苦笑)。

生まれつきすべての能力が優秀な『花人』という人種がいる世界のお話。花人は

常人には聞こえない『超話(超音波会話)』で会話することが出来、体臭は百合の

香りがする。すべてにおいて優秀な為、社会的成功者になる人が多い。将来の

成功が約束されている為、犯罪に走る人もいない。しかし、そんな中、花人が

容疑者に含まれる殺人事件が起きる。これは本当に花人による日本初の殺人事件

なってしまうのか――警視庁捜査一課の火口と花人の水科巡査は、事件の捜査

を開始するのだが――。

うーむ。かなり特殊な警察ものでした。正直、この作品のキモとなっている『花人』

という設定が好きになれなかった。生まれつきすべてにおいて優秀だから犯罪を

犯さないってのが、まずあまり説得力がない。容姿端麗で頭脳明晰でも犯罪犯すやつ

はいくらでもいると思うんですが。東大生だって京大生だって犯罪犯すやついっぱい

いるじゃないですか。成功者だって、成功したからこそ、お金に関わる犯罪犯したり

するし。犯罪犯す理由がないから花人による犯罪者はいないって言われても。何か

納得いかないよなぁと思いながら読んでました。

花人ならではの能力を使って殺人を犯すという、三つの殺人事件のトリックの部分は

面白かったのだけど。その三件の殺人事件が起きた後の展開に目が点。というか、

『また出た!』ってのが正直な感想。似鳥さんって、ほんと、こういう一つの

出来事からSNSとか使って、スケールの大きな規模の大事件に発展させる展開が

お好きですよね。

ただ、もう、この展開自体がマンネリ化していて、食傷気味。政府も巻き込んで、

花人への差別意識を国民に植え付けられて行くとか、怖すぎるんですけど。ってか、

普通の人間は、こんなヘイトクライムに加担しないし、まともな人間の方が

少数派になっちゃうって、どういう国民性なんですか。お隣の国とかあちらの国

とかならありそうですけどね。民主主義の日本で、こういう展開はさすがに説得力

がないと思います。いじめとか差別とか、嫌いな人のほうが圧倒的多数なはず。

日本人をそんな嫌な国民性にしないで欲しい。

そして、ラストはお決まりの○○行為に発展。この展開は、戦力外捜査官シリーズ

でもうお腹いっぱいなんですけど・・・。

ラストも風呂敷広げた割には尻すぼみな印象。まぁ、この辺りの収拾の付け方も

戦力外捜査官シリーズと似てますね。

草津さんのキャラ変に一番驚かされたかなぁ。捜査しないでゲームばっかして

部下にすべてを丸投げするとか、ほんとイラッとしました。ま、それも全部計算

だったんでしょうけど。

個人的には、いろんな意味でハマらなかった作品でした。無理矢理最後にスケール

大きくしようとするの、もうやめた方がいいと思うんだけどなぁ。と思いながら

巻末の著者作品リストを眺めていたら、戦力外捜査官シリーズも本書も河出書房

新社からの出版。河出書房の担当者がこういう作風が好みなのかしらん。謎。

池井戸潤「半沢直樹 アルルカンと道化師」(講談社)

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ドラマ終了の興奮冷めやらぬままに、新作がタイミングよく回って来たので

良かったです。とはいえ、本書は時系列でいうと、シリーズ第一作よりも前の

お話なのですが。まだ若かりし半沢が、大阪西支店に赴任したばかりの頃に

起こった出来事が描かれています。半沢は融資課長という役どころ。ドラマに

出て来た上司たちもちょこちょこ登場したりします。第一シリーズでやり込めた

浅野支店長との因縁は、この時から始まっていたんだなぁと驚かされました。

今回のことがあったらから、半沢を目の敵にしていたんですねぇ・・・。

ただ、大和田や黒崎といった、ドラマで大活躍していた人気キャラたちは出て

来ませんが。

今回のテーマは絵画。業績が苦しい老舗の美術系出版社の買収を目論むIT企業と

M&A業務を推進したい東京中央銀行の担当者たちが手を組み、強引な買収を

計画するが、当の出版社の社長は買収に乗り気ではない。伝統ある出版社を

守りたい半沢は、この買収計画の裏にある秘密と、それに伴う身勝手な思惑に

気づき、調査に乗り出すが――というのが大筋。

うんうん、今回も面白かったし、スカッとした~~。池井戸さんご自身が、前作

で敵を政治家にまで広げてしまったので、初心に戻って銀行の日常に起きる事件

を描いた、みたいなことをおっしゃっていたのだけど、確かに、こういう案件の

方が半沢シリーズらしい感じはしますね。確かにスケールは少し小さくなった

けど、半沢らしい正義と倍返しはきちんと描かれているし、普通に考えたら

ひとつの会社の買収案件は銀行としては大きなものですしね。一枚の絵画に隠された

秘密を半沢が解き明かして行くくだりは、普通にミステリーとして読み応えも

ありました。私はこういうミステリー仕立ての方がかえって好みです。いつもの、

『基本は性善説。だが――やられたら倍返しだ』のセリフもちゃんと出て来ました。

この頃から、曲がったことが大嫌いで、自分が左遷されるかもしれない立場に

あろうが、悪いことは悪いときっぱり糾弾出来る半沢は健在だったんですね。

渡真利も、この頃から同期の半沢を一人のバンカーとして将来上に立つべき人物だと

評して尊重しているのがわかって嬉しかった。渡真利は、『この組織にはお前が

必要なんだ。お前がいてくれるからこそ、オレたち(同期)はこの組織に希望を

持っていられるんだ』と言ってますから。同期たちはみんな、この頃から半沢に

期待していたんですね~。

部下の中西たちを守る為に、自分が矢面に立ってすべての責任をかぶった下りも

そうですが、同期や部下にとって、これ以上ないくらい半沢は理想の銀行員だと

思います。こういう人がひとり職場にいると、やる気も出るだろうなぁ。羨ましい。

ま、その分クソみたいな上司もいっぱいですけど。正しいことを理路整然と主張し、

論理的に相手をやり込めて行く半沢の姿は、やっぱりいつ読んでも痛快ですね。

一枚の絵画の裏に隠された二人の人物のやり取りには、切ない気持ちになりました。

半沢の手腕によって、二人の遺志が一番良い形で公になるでしょうから、どちらの

想いも報われるんじゃないでしょうか。一部で非難されることもあるでしょうけれど。

仙波工藝社の社長も、半沢と仕事が出来て良かったと思ってるでしょうね。お祭り

委員会の本居会長のキャラも良かった。二人が半沢の為に出してくれた手紙に胸が

熱くなりました。半沢は、一緒に仕事した人たちにほんと愛されてるなぁ。味方に

いてこれ以上心強いひとはいないと思うな。

ジャッカルの社長のモデルはZOZOTOWNのあの方でしょうかねぇ。ネットの

ショッピングモールで成功って言ったらね。まぁ、現実では逆の立場でしたけど。

花ちゃんは、ドラマのキャラとはちょっと違う感じがしますね。原作読むと、

ビジュアルは上戸彩にならないんだよなー。息子くんもちゃんと出て来ましたね

(今回のドラマでは存在自体がなかったことになってましたが・・・コロナの

影響らしい^^;)。

前日譚でも十分楽しめましたが、次はやっぱり、正規の続編(『銀翼~』の後の話)が読みたいですね。

次はもうちょっと短いインターバルで新作をお願いします!