ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

秋吉理香子「終活中毒」(実業之日本社)

秋吉さん新作。以前に読んだ『婚活中毒』に続いて、今回のテーマは終活。四人の

終活話が収録されています。どれも面白かった。救いのないオチ、心温まるオチ、

グッと来るオチ、ほろっとさせてくれるオチ・・・同じ終活をテーマにしていても、

読後感がどれも違っていて、バラエティに富んだ作品集になっていると思います。

自分も四十代後半になってきて、少しづつ終活のことも考え始めなきゃいけない

のかなぁ、と身につまされるところもありましたね。

 

では、各作品の感想を。

 

『SDGsな終活』

癌に侵され、余命僅かの真美子と結婚した僕。真美子は、残りわずかな時間を、

SDGs活動に費やすと決め、地方に引っ越して来た。都会暮らしが慣れていた僕

には、真美子の望む暮らしは少しも楽しくなかったが、これもあと僅かの辛抱。

真美子の命はあと一年半ほど。真美子が亡くなれば遺産が手に入り、楽しい暮らし

が待っているのだ――しかし、事態は思わぬ方向に進んで行くことに・・・。

まぁ、こうなるだろうなっていうオチでしたね。打算的な主人公にムカムカして

いたので、ある意味痛快にも思えたけれど、真美子のぶりっ子な言動にも辟易して

いたので、どちらにも嫌悪の気持ちしか持てなかったですね。ま、どっちもどっちで

一周回ってお似合いの夫婦だったのかも。四作の中では、一番秋吉さんらしいイヤミス

的なオチじゃないかな。

 

『最後の終活』

妻が亡くなって以来ずっと疎遠だった一人息子の浩未が、妻の三回忌を理由に突然

戻って来た。しばらく家に一緒に住むという。もともと折り合いの悪かった息子の

突然の申し出に戸惑ったものの、帰って来た浩未は以前とは別人のように優しく

なっていた。浩未は、三回忌をするにあたって、あちこちボロが来ている実家の

リフォームをするべきだと言う。浩未に説得されてリフォームを承諾したわたしは、

二人で少しづつ家の整理を始めるのだが――。

息子がいやに高額のリフォームを勧めるから、変だなぁとは思っていたのですが・・・

案の定な展開へ。やっぱりこうなるか、と思いながら読み進めて行くと、ラストで

予想外の出来事が。いや、途中の怪しげな電話が、こう繋がるとは!しかも、

うんざりするような展開の末に、こんな感動が待っているとは思わず、いい意味で

一番裏切られた作品だったかも。

 

『小説家の終活』

大人気作家の花菱あやめが亡くなった。かつてあやめと作家仲間だったわたしは、

あやめの形見分けに来ないかと誘われた。あやめとわたしは、過去に少なからぬ

因縁があったが、参加することにした。そこでわたしは、あやめが生前使って

いたワープロを貰い受けた。そのワープロの中に一枚のフロッピーディスク

残されており、中を見てみると、彼女の未発表作と思しき小説が保存されていた。

読んでみると、素晴らしい傑作だった。そこで、わたしは出来心で、この作品を

自分の書いたものとして当時の担当編集者に送ってしまった。すると、担当は

興奮して、これを本にしようと言って来て――。

亡くなったあやめは、過去に主人公の小説家に対してしてしまったことをずっと

悔やんでいたのでしょうね。主人公がどんどん本当のことを言えなくなり、窮地に

陥って行くところにハラハラさせられました。でも、彼女が最後に選んだ選択は、

彼女の小説家としての矜持を感じました。一作ヒットしたところで、大事なのは

その後ですから。文章の違いとかクセとか、誰かしらにバレる可能性も高いでしょう

しね。でも、主人公がこれを機に、再び文章を書く気力が持てたのは良かったと

思いました。

 

『お笑いの死神』

売れないお笑い芸人の俺は、貧乏ながらにヨメと子供と幸せに暮らして来た。ずっと

苦労かけて来たヨメをもっと幸せにしてやりたいと決意した矢先、医師から非常にも

癌を宣告されてしまった。余命僅かな俺は、最後にお笑いグランプリに挑戦し、

ヨメに優勝賞金を残そうと考えた。その日から、猛特訓が始まった。一回戦当日、

会場には怪しげな黒装束の男がいた。そいつは、以前、自分のライブの時に会場

にいて、一度も笑わなかった男だった。一、二回戦もその先に進んでも、やっぱり

男は会場にいて、一度も笑うことがなかった。しかも、男は回を重ねるごとに近い

席に座っている。もしや、男は死神なのでは――?

男の正体は思っていた通りでした。正体明かすの遅すぎだよ・・・。主人公のヨメ

が本当にいい子で頑張り屋で、だからこそラストは切なかった。子供と一緒に、

幸せになって欲しいな。きっと主人公もそれを一番望んでいると思う。

 

 

 

 

 

朝倉秋成「俺ではない炎上」(双葉社)

話題になっている『六人の嘘つきな大学生』が、あまりにも予約数が多いので

借りられない為、二作目のこちらから読むことになりました。

SNS上で自分のアカウントを乗っとられ、『女子大生殺害犯』として

炎上し、実名も顔写真も世間にさらされ、逃亡せざるを得なくなった中年男の

逃走劇を描いたサスペンス・ミステリー。

序盤は、全く身に覚えのない罪を着せられて全国に顔や名前を晒されてしまった

主人公の山縣泰介の境遇が恐ろしいやら、腹立たしいやらで、読み進めるのが

イヤでイヤで仕方なかったです。ページをめくる度にどんどん事態が酷いことに

なって行くし。

これぞイヤミス!って展開のオンパレード。でも、SNSのなりすましって現実の

ニュースでも取り上げられたことがあるし、いくらでも身近に起きる犯罪。

だからこそ、たった一通のリツイートから全国的に炎上してしまう過程がリアル

過ぎて、ぞっとしました。もし、自分が主人公と同じ立場になったら・・・

怖すぎる。なりすましだと証明する方法もわからないし、警察に言っても信じて

もらえないだろうし。いやもう、ほんとにリアルにありそうで、先の展開には

最悪の事態しか思い浮かべられなくて、読むのがキツかった。

でも、最初は泰介に同情的だったのだけど、日頃の彼の周りの人に対する

振る舞いや人となりが明らかにされていくうちに、少し見方が変わって行きました。

人に恨みを買いやすい性格。泰介が炎上して、どれだけ周りの人に自分が無実だと

訴えても、誰ひとり信じてもらえなかったことを考えると、因果応報にも思えて

来て。まぁ、だからといって、全く無関係の殺人事件の犯人にされてしまうのは

絶対にやり過ぎだと思いますけども。

中盤以降、泰介の逃亡が佳境に入るにつれて、どんどん読むスピードも上がって

行きました。虎のスカジャンを巡る一連の描写にはハラハラさせられたな~。

客が忘れて行ったブルゾンも伏線のひとつだったとは。

本書は、主人公の泰介視点以外にも、娘の夏美視点と、大学生の住吉初羽馬と、

警察官の堀視点の四つから語られます。この構成が抜群に上手いですね。

いやもう、完全に騙されてましたねぇ。最後まで読んで、そう繋がるのかーーー!!

と目からウロコの気持ちでした。謎の言葉『からにえなくさ』の意味。えばたん

とセザキハルヤの正体。翡翠の雷霆のピンバッチ。『サクラ(んぼ)』の正体。

ちゃんと全部が綺麗に一本の線で繋がって行く。気持ちイーーー!

途中挟まるSNSの若者たちのツイートがやたらにリアルでしたね。作者も

ツイート世代の方なのかな。自分がやってないから、想像でしかわからないの

けど^^;実は、ツイッターの機能自体もよくわかってないという・・・。

今だとツイッターよりもTikTokとかの方が若者は使ってるイメージがあります

けどね。

冒頭で泰介と険悪ムードになっていた泰介の取引会社の青江が、唯一泰介の逃亡

を手助けしてくれた時には、泰介同様じーんと来てしまった。それも、泰介が

口うるさく言葉遣いを指摘していたおかげっていうのが、なんとも皮肉でしたが。

元部下の家に行った時の元部下の態度は、青江とは対照的でしたね。でも、これも

自分がまいたタネだった訳で。自業自得だよな、と思いました。元部下の塩対応

は、当然の報いだと思いました。

元部下の本音を聞いて、自分の振る舞いを反省したかと思った泰介が、終盤

職場に戻って同じことをしようとしたところにうんざりしました。なんだよ、人は

結局変われないのかよ、と。でも、そこで終わりじゃなくて良かった。ラストは、

ちゃんと大事なことを思い出せたので、すっきりした気持ちで読み終えられました。

とてもよくできたミステリーで、話題になっているだけあるな、と感心しました。

評判の良い『六人~』も、いつか読めるのを楽しみにしていたいと思います(文庫

落ち狙い)。

 

 

 

長岡弘樹「殺人者の白い檻」(角川書店)

長岡さんの新刊(刊行ペースが早いから最新刊ではないかも?^^;)。

脳外科医の尾木敦也は、刑務所のすぐ隣の病院に勤務していたが、六年前に

両親を強盗殺人で失って以来、スランプに陥り、最近は休職中だった。そんな

尾木に、ある日『隣』からくも膜下出血で搬送されて来た『スペ患』の執刀を

して欲しいと院長から頼まれる。休職中を理由に断ろうとしたが、院長命令と

言われ押し切られてしまう。手術は上手く行ったが、執刀後、尾木はこの患者が

両親を殺した罪で起訴され、死刑判決が出た定永宗吾だと知り、愕然とする。

定永には重い後遺症が残り、リハビリが必要な状態だった。死刑執行は体調が万全な

状態でなければ実行されない。定永は裁判から判決が出るまでずっと、犯行を

否認していた。定永はリハビリを拒否するかもしれない――しかし、定永はリハビリ

に意欲を見せ始めた。定永の真意とは。

被害者遺族として定永を憎む反面、執刀医として自分の患者である定永を見守ら

なければならないという、究極の立場に立たされた脳外科医の苦悩を描いた

医療ミステリー。長岡さんらしい主題だなぁと思いました。

医者としては患者を助けたい、でも両親を殺した犯人には死んで欲しい、両方の

気持ちのせめぎ合いの心理描写がリアルで、尾木の苦悩が伝わって来ました。

犯罪者を執刀するお医者さんは、いつも理性と倫理のせめぎ合いだったりするの

かな。無差別殺人を犯した犯人とか、子供を殺した幼児性愛者とか、憎むべき

犯罪者はたくさんいて、犯罪時に大怪我を負って搬送されるケースも多い。でも、

執刀する医者にとっては、手術台に乗った時点で、ただの『怪我を負った助ける

べき患者』になるのだろうか。そう考えると、お医者さんって、やっぱり大変

だしメンタルもやられそうな職業だなぁと思う。尊敬の念しかないな。

尾木は、複雑な思いを抱えながら、リハビリに励む定永と少しづつコミュニケーション

を取って行くうちに、定永に対する思いにも変化が現れて行く。定永は無実かも

しれない。しかし、その場合、真犯人が見つからない限り、憎むべき対象が

いなくなり、自分の気持ちの行き場がなくなってしまう。尾木の苦悩と逡巡が

伝わって来て、胸が痛みました。

真相は、なるほど、そういうことだったのか、と思いました。でも、さすがに

偶然が過ぎるような印象もありましたけど。尾木の妹である菜々穂が一番可哀想

でしたね・・・。ここまで待たされて来て、挙げ句この結末とは・・・。相手の

罪深さに、二重に腹が立ちました。まだ、支えてくれる兄がいて良かったのかな。

菜々穂にはこの先幸せになって欲しいなぁ。

長岡さんらしい、医療ミステリーでした。

 

貫井徳郎「紙の梟 ハーシュソサエティ」(文藝春秋)

貫井さんの最新作。人を一人殺したら死刑になる世界で起きる事件を描いた作品集。

5作が収録されています。死刑制度についていろいろと考えさせられる貫井さん

らしい作品集ですね。同じ死刑制度の下で起きるとはいえ、それぞれの作品に

ほとんど繋がりはなく、単独で読めるものばかりでした。欲を言えば、ラストに

あっと驚く繋がりみたいなものがあったらもっと読み応えがあったようにも思い

ましたね。作風もばらばらなので、あまり一貫性のある作品集って感じがしなかった

なぁ。いや、もちろん、一人殺したら即死刑っていう一貫したテーマ制はあるの

ですけどね。主人公は、死刑賛成派もいれば、反対派もいて、それぞれに信念を

持って主張しているところも興味深い。まぁ、今の現行憲法の下では、大多数の

国民が死刑賛成派なのだろうとは思いますが、世界的に見ると死刑制度を取っている

国の方が少数派のようですね。どちらがいいともはっきり言い切れない問題では

あるのでしょうね。それぞれの意見があって良いと思います。私個人も思うところは

ありますが、ここで主張することでもないかなと思うので、敢えて明言はしない

でおきます。

 

では、各作品の感想を。

 

『見ざる、書かざる、言わざる』

突然何者かに襲われ、目と指と舌を奪われたデザイナー。犯人の目的とは一体?

読んでいるだけでも気が遠くなりかけるような、おぞましい犯罪でした。人を

一人殺したら死刑=殺さなければ死刑になることはない、という方程式を逆手に

取った恐ろしい犯罪事件。どんだけサイコパスな犯人なんだよ、と思いましたが、

ただ、自己顕示欲の強い身勝手なだけの犯人だった。

 

『籠の中の鳥たち』

山の中の別荘に写真合宿にやって来た、大学の写真同好会のメンバー5人。

しかし、女子の一人がそこに住みついていた浮浪者に襲われ、それを助ける

為にメンバーの一人が男を殺してしまう。他の四人は、仲間を助ける為にこの

事実を隠蔽しようと目論む。しかし、翌日になって襲われた女子が殺されてしまう。

犯人はグループの中にいる――!?

典型的なクローズドサークルもの。仲間を殺した犯人の動機にはぞっとしました。

よかれと思ってしたことが最悪の結末を招いてしまったということですね。そして、

情状酌量の余地がある犯罪でも、一人殺したら死刑になってしまう世界というものの

恐ろしさを感じる作品でもありました。

 

レミングの群れ』

中学生がいじめで自殺したニュースを観た私と妻は、自分の息子にも同じことが

起きるのではないかと怖れていた。最近息子の様子がずっと変だったからだ。

勇気を出して息子に問いただすと、いじめられていることを認めた。それから、

学校にかけあって息子のいじめ問題を解決するべく奔走した結果、いじめ問題は

一応の決着がついた。そんな矢先、先日ニュースで観たいじめ事件の首謀者の

少年が殺された。それから相次いで事件の関係者たちが殺されて行き――恐るべき

その犯行理由とは?

つい最近も、実際に死刑になりたくて人を殺そうとした事件が起きましたよね。

生活に困窮して、刑務所に入りたいからと犯罪を犯すケースもちょこちょこ起き

ますし。こういう身勝手な理由で他人に迷惑をかける人間の気持ちは全く理解不能

です。いじめ首謀者を殺した人物に関しては、正義感すら覚えてやっているから

始末に負えませんね。いじめは絶対に許せないけど、だからって殺していい理由には

ならないと思う。でも、人間感情として、いじめで人ひとりを殺した人間をを抹殺

した人物を称賛したくなる気持ちもわからなくはない。読んでいて複雑な気持ちに

なる作品でした。

 

『猫は忘れない』

姉が殺された。姉を殺したのは間違いなく、元交際相手のあの男だ。しかし証拠が

ない為捕まることなく、のうのうとあの男は生活している。司法が裁いてくれない

なら、おれがあいつを殺す。おれは、あいつの部屋に忍び込んであいつを殺す

計画を立て始めたのだが――。

猫の習性を把握していなかった主人公が、足元を掬われるという話。猫好きの人が

読んだら主人公の言動は許せないでしょうね。主人公の彼女が死刑反対派だった

設定が、あまり内容に関係なかったのがちょっと拍子抜け。何かの伏線なのかと

思ったんで。

 

『紙の梟』

作曲家の笠間耕介は、仕事中に何度かかかってきた恋人の紗耶からの電話に

出なかった。数時間後、もう一度かかって来た紗耶からの電話に出ると、男の

声が出た。紗耶が何者かに殺されたという刑事からの電話だった。留守電には、

助けて、と縋る紗耶の声が残されていた。数日後、警察からもたらされたのは、

紗耶が偽名で生活していて、過去に資産家から巨額の資金を騙し取っていたという

とんでもない事実だった。自分の知る紗耶とのギャップが信じられない笠間は、

独自で紗耶のことを調べ始めるのだが――。

少しづつ明らかになっていく紗耶の生い立ちや背景にぐいぐい引き付けられて

読み応えありました。タイトルの紙の梟が何なのかは終盤に明かされます。まぁ、

比較的最初の方に伏線として出て来てはいるのですが。こう繋がるのか、と思い

ました。紗耶の人となりといい、終盤の紙の梟を持っていた人物とのエピソード

といい、東野(圭吾)さんの加賀シリーズを彷彿とさせる作品でしたね。

被害者の遺族(厳密には違うけれど)が犯人の死刑回避を望んでも、人ひとり

殺したら死刑の判決が出てしまう世の中っていうのは怖いな、と思わされました。

まぁ、こういう法律が実現することはないとはいえ、死刑についていろいろと

考えさせられる作品ではありました。

 

 

 

「彼女。百合小説アンソロジー」(実業之日本社)

百合小説ばかりを集めたアンソロジー。別に、百合小説が好きという訳ではないの

ですが、寄稿作家がとても豪華だったので、各作家さんがどんな百合小説を

書かれるのか気になったので予約してみました。

百合小説といっても、捉え方は様々。これって百合なのか?と思えるものも

入ってましたねぇ。なぜ西澤(保彦)さんに依頼しないのか(笑)。ま、確かに

本書の中に西澤作品が入ってたら、めっちゃ浮いちゃうだろうけど(苦笑)。

寄稿作家さんは以下。新進気鋭の作家さんばかりですね(乾さんはベテランだけど)。

相沢沙呼、青崎有吾、乾くるみ、織守きょうや、斜線堂有紀、武田綾乃円居挽

(あいうえお順)。

 

では、掲載順に感想を。

織守きょうや『椿と悠』

これは一番爽やかでライトな百合小説って感じ。変ないやらしさもないし、二人の

初々しい感じが良かったです。女の子同士じゃなかったら、普通に少女マンガの

読み切りにしても良さそうなお話。これを冒頭に持って来たのは正解じゃないかな。

 

青崎有吾『恋澤姉妹』

二番手にこの問題作を持って来ましたか、という感じ。かなり面食らわされる

内容でした。恋澤姉妹という世界最強の殺し屋姉妹を殺そうとする女の話。姉妹を

殺しに行く人々がばったばったと殺されて行く、なんとも荒唐無稽な内容でした。

一体これのどこが百合小説なんだ?と思いながら読んで行くと・・・ラストで

しっかり百合要素が出て来て、なるほど、という感じでした。

 

武田綾乃『馬鹿者の恋』

自分のことを好きでいてくれる相手に対して、いつも馬鹿にした態度に出ていたら、

相手に他に好きな人が出来て足元を掬われる羽目になってしまうお話。素直に

自分の気持ちを伝えていれば、こんなことにはならなかったんでしょうね。しかし、

あっさり転校生に心変わりする萌にもちょっとガッカリ。ま、あれだけ馬鹿にされ

てれば、嫌になっても仕方がないか。

 

円居挽『上手くなるまで待って』

大学の文芸サークルに所属していたなぎさは、みんなの憧れだった繭先輩と二人で、

文藝バトルで相手を打ちのめしまくっていた。誰もがなぎさは作家になると思って

いたが、結局卒業後は普通に就職して繭先輩とも疎遠になってしまった。しかし、

卒業後何年もして、突然大学時代になぎさが書いた小説がネット上で公開された。

一体公開したのは誰なのか。当時文藝バトルでなぎさが打ち負かした三人のうちの

誰かなのか――。

これはあんまり百合小説って感じではなかったですね。憧れの繭先輩は普通に男と

結婚しちゃうし。ネット公開の犯人もやっぱりね、って感じだったしなぁ。なぎさの

結婚スピーチもいまいちピンと来なかったしね。

 

斜線堂有紀『百合である値打ちもない』

女同士でチームを組んでゲームの大会に出て、人気を博していたママノエこと、

ママユとノエ。しかし、美少女のノエに対して、ママユはお世辞にも美しい容姿とは

言えず、釣り合わない二人を批判する世間の声にママユは怯えていた。ある日、

ママユはノエと釣り合う容姿になるため、整形することを決意するが――。

ママユが整形したことで、ノエのママユへの気持ちが変化してしまったりするのかな、

と思いながら読んでいたのですが。お互いの想いが純粋なのが伝わって来て、これぞ

百合小説って感じの終わり方だったように思います。

 

乾くるみ『九百十七円は高すぎる』

有名なミステリー小説『九マイルは遠すぎる』へのオマージュでしょうかね。

いや、そっちは未読なんだけどね(おい)。憧れの先輩が漏らした『九百十七円は

高すぎる』の言葉の意味を推理してつきとめようとする杏華と敦美。この値段は

一体何を意味していたのか?

いろいろ深読みしていた二人ですが、真相はなーんだ、って感じのものでした。

まぁ、そこがリアリティあって良かったのかもしれませんけどね。少なくとも、

ドーナツ24個よりはね(苦笑)。

 

相沢沙呼『微笑の対価』

美しい友人の為に殺人の共犯者になり、彼女にすべてを捧げて来た優香。しかし、

彼女は一緒に住むようになっても依然として夜の仕事を止めてくれず――。

相手に対する想いが、次第にお互いの人生を狂わせて行く――ラストに一番

重い作品を持って来たのかな、と思いました。紫乃の優香に対する本当の想いは、

最後まで明らかにされず、彼女の真意には翻弄されました。最後に騙された、と

思ったのだけど、更にそこから反転があり。相沢さんらしい仕掛けの一作と云える

でしょうか。あの翠の瞳の女性も出て来てニヤリ。

 

各作品の扉絵も、それぞれに違うイメージのイラストレーターさんを起用していて、

作風と合っていて良かったです。

私は、円居さんと相沢さんのイラストが好みだったな。表紙の絵も好きだけど。

 

 

 

 

桜庭一樹「紅だ!」(文藝春秋)

桜庭さん最新刊。少し前にエッセイと、その前にエッセイと小説のあいのこみたいな

作品は読んだけれど、桜庭さんの純粋なフィクションの小説(変な表現^^;)は

久しぶりでした。文章とかキャラとか、あー、桜庭さんだなぁ、って感じの作品

でしたねぇ。200ページ弱しかないので、ちょっと読み足りない感じはありました

けれど。新大久保で探偵を営む真田紅(くれない)と黒川橡(つるばみ)は、ある

出来事がきっかけで今は少し仲違いをしている。それぞれ個々に依頼を受け、

依頼内容は社員共用のWeb上で報告、という形を取っている。ある日、紅は突然

事務所にやってきた、ハイタカと名乗る謎の少女の依頼を受け、彼女のボディガー

を引き受けることになった。一方、橡は知り合いの公安の刑事から持ち込まれた、今

世間を騒がせている偽札事件に巻き込まれていた。別々に動いていた二人だったが、

次第に紅の依頼人の少女が偽札事件に関わっていることが明らかになって来て――。

紅のキャラクターは、赤朽葉家の伝説に出て来た毛鞠っぽいなぁと思いながら

読んでました。破天荒で乱暴だけどお人好しで。毛鞠は元暴走族のレディースだった

けど、紅は元テコンドーでオリンピックに出場したオリンピアンという違いは

ありますけれど。強い女性という意味でね。

一方で、紅とバディを組む橡は、元刑事の割にはひょろっとしていて力も強くなく、

男にしては弱気な性格。最初はもっとクールなキャラクターなのかと思いましたが、

橡視点からの章を読むと、全然思ったのと違う内面を持ったひとだなぁという

印象でした。お人好しという点では、紅も橡も似ているのかもしれませんけどね。

二人がなぜ仲違いしたのか、その理由も途中で明らかになり、納得出来ました。

大事な人を死なせない為に火の中に飛び込もうとした者と、それを止めた者。正反対

の行動をしたのがどちらだったのか、真相は思っていたのと逆だったので驚かされ

ました。どちらの行動も理解出来ましたし、どちらを選択するのも辛かったと思う。

結局、この二人は似た者同士でいい相棒同士なんだろうな、と思えました。

偽札事件の顛末は割りとあっさり解決してしまったので、ちょっと拍子抜けなところも

ありました。まぁ、このライトな読み心地が良いのかもしれない。これがもっと

長編になってたら、きっと中だるみして、この作品の軽妙なイメージが失われて

しまったかも。

紅とハイタカの会話が、いかにも桜庭ワールドだなぁと思いました。ハイタカは、

重大な犯罪をしているとは思えない程あっけらかんとした性格で、こういう子に

大金を持たせるのはちょっと怖いかも・・・と思いました。まぁ、それがラストで

証明された形になってますけど。恐ろしく頭の良い子なんでしょうね。いつか、

紅と再会する日が来るんでしょうか。

紅と橡は良いコンビだと思うので、今度はがっつり二人がコンビを組んで事件を

解決するお話なんかも読んでみたいな、と思いました。

 

大山誠一郎「時計屋探偵の冒険 アリバイ崩し承ります2」(実業之日本社)

アリバイ崩しに特化したミステリ短編集、シリーズ第二弾です。前作が面白かった

ので、読むのを楽しみにしていました。浜辺美波ちゃん主演でドラマ化もされました

よね。キャラクターが原作と大幅に違っていて、違和感めっちゃありましたけど^^;

(なぜか毎回お風呂シーンがあったり・・・原作の時乃さんではありえない・・・)

アリバイ崩しが目的なので、犯人は予めわかっている訳で、形式としては倒叙もの

と言って差し支えないシリーズですね。ただ、第3話に関しては、最初に時乃さんが

指摘した犯人と真犯人は別だったので、ちょっと変化球になってましたけども。

容疑者が三人いて、三人ともにアリバイがあるという難題に、時乃さんも少し

手こずった感じがありましたが、二転三転する真相が読み応えありました。

1話目の被害者を車ごとダムに落とした事件のアリバイに関しては、死後硬直の

問題とかないのかな、とちょっと引っかかるものはありましたね。

2話目のパーティ会場でのアリバイの真相は、なるほど、と思わされました。4話

目の二人の女性のアリバイ崩しのお話といい、大山さんって、胃の中の消化物を

使ったアリバイ崩しがお好きですよね。確か前作にもあった筈。4話に関しては、

邪魔になった二人の女性を騙してゴミのように捨てる犯人がクズ過ぎてムカムカ

しました。

5話目は、ちょっと趣向を替えて、時乃さんの初めてのアリバイ崩し体験を綴った

もの。語り手役の刑事の『僕』と約束したものの、延び延びになっていた会食

も実現して良かった、良かった。高校生の時乃さんは、意外と普通の女子高生

だったことがわかってほっこりしました。頭脳明晰は当時からだったのでしょうが、

初めてのアリバイ崩しは結局師匠のお祖父さま頼みとなり、ほろ苦い思い出

なのでしょうね。

次回作では、時乃さんが初めて成功したアリバイ崩しのお話が読めるのかな。

『僕』との仲ももう少し進展するといいのだけれど、どうなりますやら。