ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

有栖川有栖/「乱鴉の島」/新潮社刊

新本格ミステリの祖・有栖川有栖さんの火村シリーズ長編「乱鴉の島」。

ミステリ作家・有栖川有栖と休養に出かけた火村英生。知り合いの経営している民宿がある島
でゆっくり休暇を楽しむはずが、手違いから目的地とは違う島に連れて来られてしまう。
そこは、無数の烏が乱舞する絶海の孤島だった。その島に唯一ある館では、文壇で名を馳せている
象徴詩人を中心に、人が集まっている所だった。迷い込んだ火村とアリスは何とかその家で迎えの
船を待たせてもらえることになったのだが、そんな一行の前に忽然と現れたのは、世間を賑わせて
いる辣腕IT企業家・ハッシーこと、初芝真路だった。
そして、その初芝が行方不明となり、初芝が滞在している人家では館の管理人が死体で発見された。
臨床犯罪学者・火村が奇妙な殺人事件の謎に挑む。

火村シリーズ4年ぶりの長編は、絶海の孤島での連続殺人事件。電話も通じず、迎えの船は数日後。
犯人は関係者以外にあり得ない。これぞクローズドサークルという雰囲気たっぷりの作品。
ただし、後半の謎解きは、現代社会を意識した社会派ミステリと言えなくもない。そこに現代
科学もプラスされているので、全く新しいタイプの孤島ミステリと言えるかも。

全体的には非常に面白く、後半部分は一気に読めたのですが、犯人の動機部分については少し不満が
残りました。伏線的なものがなく、本人の自白だけで、ちょっと唐突な感じがしたので。
殺害方法にも疑問はありましたが(それって致命的か?)。その辺はもうひとひねり欲しかった所。
ただ、中心人物が詩人ということもあり、あちこちに散りばめられた詩的な表現が効果的に
使われているのが良かった。烏が舞い飛ぶ島ということで、その烏が一部で効果的な役割をして
いますが、想像するとぞっとしましたね。まさに○ッチコック・・・。
私は烏大嫌いなので(鳥自体あまり好きではないです。特に鳩とか)、こんな島には絶対
行きたくないですね・・・。

このシリーズはやはり火村助教授のかっこよさに尽きますね。白髪交じりの髪でも、色っぽいから
許す。考える時に唇を指でなぞるしぐさが何とも艶っぽい。結構口が悪い所も好き。ちょい悪
オヤジ・・・っていう年齢でもないのですけど(苦笑)。たまに語られる彼の過去。
それが明かされる時がシリーズの終わりの時なのでしょうけど、まだまだ謎のままでいて欲しい。
女性との関わりが一切出てきませんけど、そのうち恋愛問題も書かれるのでしょうかね。
(そういう意味ではアリスもだけど)なんか一生独身って感じもするな(願望)。

ここに来て火村シリーズの長編。これはもう次は学生アリスしかないでしょ。
ねぇ、有栖川さん?いい加減出して下さいよ~。