女流SF作家菅浩江さんの連作ミステリ「歌の翼に―ピアノ教室は謎だらけ」。
名門音楽大学を主席で卒業しながらも、ある事情から人前で演奏が出来ず、現在は数田楽器店で
細々と子供たちにピアノを教える杉原亮子。ある日、亮子の元へ生徒で小学6年のユイカがやって
来て、「変な男の人を見た」と泣き出した。奇しくも、楽器店のある商店街周辺で変質者が出没
していた矢先のことだった。しかし、ユイカと弟の証言が微妙にズレていて・・・(「バイエルと
ソナチネ」)。ピアノ教室に持ち込まれる日常の謎を、亮子先生が優しく解き明かす癒し系連作
ミステリ。
おっとりお嬢様然とした亮子先生ですが、生徒たちが持ち込んで来る悩みや謎を鋭い推理で
解き明かし、不思議と心の襞まで解きほぐして行く。読んでいてとても心地良い感動に包まれます。
ただ、そんな穏やかな亮子先生も暗い過去を抱えていて、心に深い傷を負っています。
それでも、今の穏やかな日常や周りの優しい人々に支えられて少しづつ過去の傷を癒して
行く・・・と、単純に日常の謎を解くだけの爽やかミステリに留まらず、人間の内面の微妙な部分も
丁寧に描いていて、上手いです。かといって、重すぎることもなく、全体の印象は清清しくて微笑
ましい。謎自体は日常系なのでそれほど大したものがある訳ではないのですが、謎を解くだけでは
なく、それを持ち込んだ生徒たちの抱える悩みまで解消してしまう亮子先生の癒し効果は絶大。
とにかく、音楽(特にピアノ)をやっていた方ならもちろん、そうでない方にもお薦めの爽やか
音楽ミステリです。
私自身も高校3年~大学卒業までピアノを習っていたのでバイエルやソナチネなどの単語が
懐かしく、練習していた頃の自分を思い出したりしました。優しい先生でしたが、亮子先生
みたいに内面までは癒されなかったな~(当たり前か)。
今ではほとんど弾くこともなくなってしまいましたが、こういう音楽系の小説や漫画を読むと
無性にピアノを弾きたくなりますね。しかし、ピアノ弾くのは大好きなのですが、いかんせん
上達しなかった。やっている時は、「始めたのが遅かったから」といつも心の中で言い訳
してましたが(苦笑)。だって練習は毎日結構ちゃんとしてたんですよ。
・・・ってことは、単に才能がなかっただけ、とも言うのですけれど(苦笑)。
菅さんって、基本的にはSF畑の方だと思うのですが、ミステリもとても上手いですね。
私が思うに、畑違いの方がたまにミステリを書くと、かなり面白い作品が多い。
山田正樹さんや筒井康隆さんとか。まぁ、SFとミステリって似て非なるものって気がしない
でもないのですけどね。