ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

恩田陸/「夜のピクニック」/新潮社刊

2005年、第2回本屋大賞受賞作、恩田陸さんの「夜のピクニック」。

高校生活最後のイベント「歩行祭」。夜通しかけて八十キロの長距離を只管歩くだけなのだが、
生徒たちは歩きながら思い思いの時を過ごす。たわいのない話をする者、好きな人に自分の想いの丈
を伝える者、打ち明け話をする者。そんな中、貴子は一つの賭けを胸に秘めていた。異母兄弟の融
への複雑な想いを清算する為に――少年少女に起きた、たった一夜の‘奇跡’の出来事をみずみずしく
描いた青春小説。

本屋大賞を取り、映画化も決定した恩田さんの出世作。高校3年生。少年少女から大人への
過渡期であり、最も揺れ動く多感な時期。その微妙な時期に経験する「歩行祭」。ただ只管ゴール
目指して歩くという何の変哲もないイベントですが、このイベントの最大のポイントは「夜」
だと言うこと。暗闇の中、いつもと違った風景や空気を感じながら歩く。それだけでいつもとは
違う自分になれる。素直になったり、言えなかったことが言えたり、踏み出せなかった一歩が
踏みだせたりする。とても不思議だけれど、何かが違う一夜。主人公の貴子は、その経験をすること
によって、今まで感じていた、心の中のわだかまりが消えて行きます。それは異母兄弟である融に
対する複雑な想い。無視しようとしても無視しきれない、相反する心。歩きながら交わす会話に
よって、そんな彼女の心に少しづつ変化が訪れる。その過程が非常に丁寧に描かれていて、一見
すると退屈に思えるストーリーなのに、全く読む手が止まることがありませんでした。
恩田さんの筆力だからこそ描ける物語であり、普通の作家だったら、単に歩いてる行事を描いた
単調な小説になりかねない題材だと思います。
舞台は現代なのですが、とてもノスタルジックな、かつての青春小説のような味わいがあります。
多分、大人になってから同じようなイベントに参加しても、こういう経験は得られないでしょうね。
青春って、そういうものだよね、と懐かしく思い返せるような一作です。

ところで、私の行った大学でも‘ナイトハイク’と言って、似たような行事がありました。
結局私は一度も参加しませんでしたけど。やっぱり徹夜である距離を歩き通すというようなもの
でしたが、未だにやっているのでしょうかねぇ。歩きながら飲み食いしたものを路上に捨てたり
する人がいるらしく、かなり周囲に迷惑をかけていたようなので、もう中止になってるかも
しれませんが。ちょっと興味はあったのですよね。もし参加していたら、また違った読み方が
出来たかもしれません。恩田さん自身、この小説を書くに当たって母校のこの行事に再び参加した
そうですが、実際やってみると、話す気力なんかなくなる位疲れるらしいですね。
その後の筋肉痛を思うと・・・やっぱ出来ないなぁ。