ハードボイルド系ミステリの名手・原尞さんの沢崎シリーズ第5弾「愚か者死すべし」。
大晦日の朝、新宿に事務所を構える探偵・沢崎のもとに伊吹啓子という若い女性が尋ねて来る。亡くなったかつての相棒・渡辺を頼ってやって来た啓子の依頼を断り、彼女の父が逮捕されているという新宿警察署に送り届けた後、沢崎は狙撃事件に遭遇してしまう。2発の銃弾のうち1発は護送されていた啓子の父に、もう1発は彼を護送中の刑事に命中する。この銃撃事件をきっかけに、沢崎は戦後の政界暗部が絡む
事件に巻き込まれて行くのだが・・・。約9年ぶりに刊行された、待望の沢崎シリーズ第5弾。
全体に感じる文章の上手さ、めくるめくような物語の構成力、やはり原さんだなぁと思いつつ読み
ました。正統派ハードボイルドはここにあり、といえるでしょう。
ただ、長編全3作に比べて、やはり9年の歳月を感じさせる内容ではあります。作品中の時間は
さほど流れていないにも関わらず。著者自身が‘新沢崎シリーズ’と銘打っているだけに、
どことなく雰囲気が現代風になっているような感じ。物語の展開も派手だし。以前の沢崎シリーズ
には‘かつての良質のハードボイルド’というような雰囲気が漂っていて、そのあたりの渋い
感じが良かったのですけど。まぁ、それでも面白いことに変わりはないです。とにかく復活
してくれた訳だし。それだけで満足(いい読者だ)。
基本的にハードボイルドというジャンルはそんなに好きではないのですが(現に矢作俊彦氏は
ダメだった)、この方は別格。
沢崎探偵は、渋さの中に深みがあり、静謐かと思うと躍動的で、クールなようでいて
人間味のある温かさを持ち・・・と、とても魅力的なキャラクター。大好きです。
正直、原さんは筆を折ったと思っていたので、この作品でまた沢崎探偵に再会出来たのは本当に
嬉しかった。待っていた読者も多かったことでしょう(昨日取り上げた法月さんしかり、ですが)。
沢崎シリーズでは「私が殺した少女」が一番好きですね。直木賞も取ったそうですし。読んだのは
相当前ですが、これのラストにはやられたーって感じでした。
ついに沈黙を破った原さんご自身が「次はそんなに待たせない」とおっしゃっているので、とりあえず
期待して待っていて良いのでは・・・と思いたいですが、これが刊行されてからすでに2年位経って
いるのですよねぇ・・・。読者は待っていますよ~~!!
(最近こんな終わりばっかりだな・・・)