ミステリ読書録

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鳥飼否宇/「昆虫探偵 シロコパκ氏の華麗な推理」/世界文化社刊

鳥飼否宇さんの不条理小説「昆虫探偵 シロコパκ氏の華麗な推理」。

しがない小者だった葉古小吉は、ある朝目覚めるとなぜかヤマトゴキブリになっていた。
人間から昆虫へと変貌を遂げた小吉は、活躍の場をミステリ好きの経験を生かすべく、昆虫界での
探偵の助手に切り替えた。探偵役はクマバチのシロコパκ(カッパ)。人間界の論理が通用しない
異世界で起こる様々な怪事件を、二匹&口の悪いクロオオアリのカンポノタス刑事を交えて解決する!

まず、私は虫が大嫌いです。しかも世の中で一番嫌いな虫がゴキブリです。しかし、この作品は
これでもか!という位いろんな虫のオンパレード。なんでこんな本を読んでしまったんでしょう
・・・でも、面白かった!まず、作中の登場虫物のネーミングが笑えます。どっから考えつく
んだ・・・。
本文では、いきなりカフカの「変身」のような冒頭で始まり、読者を面食らわせつつ、昆虫界の
世界へ誘い、非常に狭まった世界の中で事件が起きます。面白いのは動機が嫉妬や怨恨はあり得ない
という点。この世界では人間界の常識や論理は通じないのです。
ちゃんと昆虫界の中ならではの論理で事件が収束する。ただし、唯一「昼のセミ」だけは
葉古の人間だった頃の知識によって真相が導かれている為、ちょっと異色の作品になっていますが。

途中まで読んでいて、この作品の副題に非常に疑問を覚えていたのですが、ラストの「ハチの悲劇」
を読んで、作者がこの副題をつけた理由がわかりました。ラストの展開はちょっと意外すぎ
でしたが、なかなかに読ませるし感動的。シロコパ氏の正体については、いろいろ異論はある
でしょうが、もともと不条理小説ですから。その後の作者のあとがき的な挿話も面白かった
ですね。
私は単行本で読んだのですが、文庫版は書き下ろしがついてるようです。そっち読めば
良かったな・・・。文庫版っていろいろお得ですよねぇ。

これ、子供が読んでも楽しめると思います。特に、昆虫に対して‘嫌い’という先入観
がないその年頃の方が純粋に物語に入っていけるような気がします。探偵ものといっても、
難しい推理が出てくる訳でもないので。この小説自体、作者が「ファーブル昆虫記」に触発されて
書いているので、本の体裁も児童書っぽいですし。漢字は多いですけど。

各物語は元ネタになるミステリ小説があります。その為表題もそれぞれの小説をもじったもの。
元ネタの方も「生ける屍の死」以外は全部読みましたが、作中にも元ネタの小説の内容が少し
出てくるので、そちらの方も合わせて読まれると倍楽しめるかも。
ただ、昆虫嫌いの方には・・・あまり想像しないで読まれることをお薦めします。
正直「哲学虫の密室」ではほんとに途中読んでて気持ち悪くなりましたから・・・私^^;