ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

東野圭吾/「赤い指」/講談社刊

ベストセラー作家・東野圭吾さんの直木賞受賞後第一作「赤い指」。

金曜日、照明器具メーカーに勤める前原明夫は、仕事を終えて帰る間際、一本の電話を受ける。
それは、切羽詰まった妻からの「早く帰って来て欲しい」という懇願の電話だった。嫌な予感を
受けつつ重い足取りで家に戻ると、待ちわびていた妻が「庭を見て」と言う。差し出された懐中
電灯の光に浮かび上がったのは、信じがたいものだった・・・。少女殺害事件の裏に隠された
平凡な家庭の闇の姿を克明に描く。加賀恭一郎シリーズ。

読み始めたら、あっという間に小説に引き込まれ、読了していました。このリーダビリティは
さすがとしか言いようがありません。今回のテーマは親と子、そして平凡な家庭が事件に
巻き込まれた時にどんな反応を示すのか。重いです。この作品には3組の親子が出て来ます。
前原明夫とその母政恵、明夫とその息子・直巳、そして加賀恭一郎とその父隆正。共通して言える
ことは、親はいつだってどんな時だって、子供のことを第一に考えるんだということ。例え子供が
自分のことをないがしろにしたって、それは変わらない。ラストを読んで、東野さんが一番
伝えたかったことはそういうことなんじゃないか、と思いました。前原一家の行動は決して
読んでいて気持ちの良いものではありません。どこまで行っても、自分たちのエゴを貫く
考え方しかせず、現実から目を背けて、最終的には人間の道徳に反する決断を下す。
東野作品では、この決断が実行されて終わるパターンが多い。でも、この作品の一条の光が
加賀恭一郎でした。この事件を追っているのが彼でなかったら、この結末は導かれなかった
でしょう。犯行を暴く彼の一言一句が、胸に迫りました。彼は決して、犯人自身を糾弾したり
していない。彼ら自身に選択を委ね、見事に事件を終結させている。その手腕はもう、
かっこいいとしか言い様がありません。事件を追う段階での、ほんのささいな所に着目し、
犯人を暴き出す慧眼にも脱帽。し、渋い。かっこよすぎだよ、恭さん!!(松宮風)

事件解決の鍵となる「赤い指」の効果的な使われ方もいいですね。まぁ、おそらくこんな
感じだろうという予測は出来たのですが、予測以上のエピソードが挟まれていました。
そして、何より一番良かったのは、加賀刑事と父隆正のラストの挿話。泣けますね・・・。
こんなボーナストラックがあるとは。加賀さんはやっぱり素敵な人です。クールなだけでは
ありません。このラストの余韻は今までの東野作品にはなかったものですよ~。(いや、私が
読んだ限りでは、ですが^^;この手の東野さんの長編は、後味の悪い作品ばかりなので・・・)
このラストは、東野作品の中でも1、2位を争う位好きかも。

あとは加賀さんがまた人を愛することを思い出してくれると言うことないのですけど。
恋愛感情をどこに置いて来てしまったのですか、恭さん・・・。
ん?加賀ファンにとっては、それは不要なのかー?(笑)

未読の方、是非是非読んでみて下さい。加賀シリーズを知らない方でも十分楽しめますよ。
加賀ファンなら必読です!!