ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

大倉崇裕/「福家警部補の挨拶」/東京創元社刊

大倉崇裕さんの新シリーズ「福家警部補の挨拶」。

江波戸図書館の図書室でオーナーの江波戸宏久が書棚の下敷きになり、死体で発見された。
現場の状況は事故死を示している。しかし、駆けつけた捜査担当の福家警部補は、鋭い
観察眼で不審な点を発見。完全犯罪を目論む犯人の犯行を、見事な手腕で一つづつ切り崩して
行く(「最後の一冊」)。刑事コロンボに感化された作者が放つ、倒叙ミステリ4編を収録。

これぞまさしく大倉版‘古畑任三郎’。私はコロンボを見ていなかった不届き者なので、コロンボ
にはピンと来なかったのですが(汗)。全ての作品が倒叙形式で、冒頭に犯人の犯行が描かれ、
その犯行を暴くべく福家が証拠探しをする、という構成。福家警部補は、30歳前後、小柄で童顔、
淵なし眼鏡をかけた、なんとなく愛嬌を感じさせる風貌。一見、全く刑事っぽくないので、
事件関係者からもいつも身分を明かすまで邪険に扱われてしまいます。けれども、ひとたび現場に
入ると、ほんのささいな違和感も見逃さず、鋭い観察眼で犯人を追い詰める証拠を発見する。
クライマックスの犯人との攻防はどれも読み応えありました。4編とも専門知識を身につけた冷静で
狡猾な犯人だけに、淡々と犯行手順を暴き出す福家警部補の頭の良さが際立っていました。

頭はキレるのですが、どこか飄々としていて愛嬌のあるキャラクター。私は好きですね~。徹底して
感情は表に出てこないように描かれているのですが、クールという印象も与えない。不思議。
人物像としてはいまひとつまだ掴めていない部分もあるのですが、4話の酒豪ぶりにはびっくり。
ただ、前の話で「仕事中は飲まない」と宣言しているのに、証拠集めの為とは言え、飲み比べを
するっていうのはどうなんだ?と思いましたが(苦笑)。まぁ、そのあたりのエピソードが人間性
加味しているような気がして、微笑ましくもあるのですが。犯人に対しても、どこか犯行動機に納得
しつつ犯人と対峙している所が、読後感の良さに繋がっているのではないでしょうか。

これからどんな犯人と対決して行くのか、今後の活躍が楽しみなシリーズになりました。
ちなみに、大倉さんの夢としては、福家警部補をロサンゼルスに派遣したいらしいです。
外国人と対決ってのも面白そうです(英語出来るかどうかはともかく)。
実現させて欲しいですね~。