ミステリ読書録

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米澤穂信/「夏期限定トロビカルパフェ事件」/創元推理文庫刊

米澤穂信さんの「夏期限定トロピカルパフェ事件」。

過去の自分を反省し、謙虚で平穏に生きる‘小市民’を目指して互恵関係にある小鳩君と
小山内さん。恋愛関係でも依存関係でもない筈なのに、何故か今年の夏休みは違っていた。
小山内さんが差し出して来たのは二人の住む街の地図。そこには、小山内さんがこの夏休みに
巡ろうとしているスイーツのお店が書き込まれていた。ある賭けに負けた小鳩君は、この夏の
小山内さんのスイーツ巡りに付き合うことに。これがとんでもない事件の幕開けだった・・・。

可愛らしい装丁と題名で、ほのぼのした青春ミステリなのかと思いがちですが、主役二人の
過去やら何やらで、そうでもないのですよね。今回は前作に比べても更に重い。基本的には
高校生の青春ミステリなのですが、主役二人が妙に冷めていて、ほのぼのというのからは
ほど遠い気がします。互恵関係というのはとても面白い発想なのですが、二人の過去なんかは
説明があまりないので、どうも二人の関係が掴めない所がある。米澤さんの作品にはいつも
どこかでそういう‘説明不足’な印象を受けてしまいます。もちろん、作品自体は面白いのですが、
手放しで‘好き’といえない部分があるのですよね。小鳩君のキャラクターは結構好きですが。
対して、今回の小山内さんの行動はあんまりですね。本書を読んだ限りでは、とても彼女に好感
を持つことは出来ないなぁ。‘小山内スイーツコレクション・夏’を嬉しそうに巡っている姿は
可愛らしいのに。ラストのやりとりも、ちょっとショックですね。でも、春期・夏期と来たから、
当然次は秋期がある筈ですよね。これ二作で終わるとしたら、あまりにも後味が悪すぎる。
彼らの今後がどうなるのか、とても気になります。是非書いて欲しいですね。小山内さん自身の
過去のこともちゃんと書いてもらいたいです。そうしないと、彼女の行動が理解出来ません。
彼女の人物像の評価に関しては、それを読んでからでないと正当でない気がします。

秋は栗やお芋など、スイーツの美味しい季節ですからね!また派手派手なタイトルで読者に
度肝を抜かせる作品を書いて欲しいものです。