ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

伊坂幸太郎「クジラアタマの王様」(NHK出版)

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伊坂さん最新長編。夢と現実がリンクする、ちょっとファンタジックな一作。
夢の部分がコミック風の挿絵として挿入されていて、なかなか趣向が凝らされている
作品でした。ただ、コミック部分がそれに該当する文章部分とちょっと離れて
挿入されているので、最初の方は絵の意味が全然わからなかったです。それが
登場人物たちが見ている夢の絵だとわかると、なるほど、この場面の絵なのか、
とわかるようになったのですけれども。あれは敢えてずらして挿入されている
のだろうなぁ。でも、個人的には、もうちょっと文章に沿って入れて欲しかった

気はするなー。
メインキャラは、お菓子メーカーに勤める広報担当の岸、県議会議員の池野内、
イケメンアイドルの小沢ヒジリ。全く繋がりのない世界に生きる三人の人物が、
ある共通点で繋がっていることがわかることから繰り広げられるパラレルワールド
ストーリーです。現実世界と夢の世界が交互に出て来る構成で、なかなかに先が
読めない展開で引き込まれました。物語は、アイドルの小沢ヒジリが、テレビで
岸が勤める製菓会社のある商品が好きだと発言し、その商品がバカ売れしたことから
始まります。そこでその商品を購入した女性の顧客から、一本のクレーム電話が
かかってくる。女性が言うには、その商品に画鋲が混入されていたという。しかし、
電話を受けた社員の対応がまずく、その女性客を怒らせてしまい、そのことがネット上で拡散されてしまう。事態を収拾させるため、会社は記者会見を開くことになり、クレーム対応に定評のあった岸が質疑応答に対するマニュアルを作るのだが、
当日会見を開いた上司がそのマニュアルを忘れて、失言を繰り返したことで、
事態は更に最悪の方向へ。しかし、そこで救いの神として登場したのが、県議会議員
の池野内。そもそもの発端である、クレームを入れたのが池野内の妻であり、
それが狂言だったと謝罪してきたのだ。直接会社に謝罪に現れた池野内は、その場に
いた岸を見て、後日コンタクトを取って来た。池野内が言うには、二人は夢の
中で出会っているというのだ――。
夢の中での戦いが、現実世界にも影響を与えるということの因果関係がいまいち
最後までよくわからなかったですが、まぁ、それはそういうものだと思って
読むべきなんでしょうね。なんか、昔に読んだ佐々木淳子さんの漫画

ダークグリーンみたいだなーと思いました(あれも、夢の中の世界が

テーマなんで)。あっちは夢の内容が現実世界とリンクしている訳ではなかったと

思いますが(多分)。
なぜハシビロコウなのかってところも謎。そして、ハシビロコウは結局何だったのか。

最後いきなり敵になっちゃうし。
終盤は新型インフルエンザが猛威をふるって、世の中がパンデミック状態になり、
一体どうなってしまうのかとやきもきしましたが、収まるところに収まって、
まぁ、良かったかな、と。ちょっと都合良すぎな印象がないとは言いませんけど。
伏線回収も、いつもよりは甘いような感じがしたなぁ。ちょっと風呂敷を広げ
過ぎてしまった感がなきにしもあらずというか。
でも、岸と池野内と小沢ヒジリの三人の関係は好きでした。小沢ヒジリ、イケメン
の芸能人なのにすごいいいヤツで気に入りました。岸の奥さんや、岸の上司である
栩木さんのキャラも好きでした。栩木さんは最終的に昇進出来て、今までの
理不尽な苦労が報われて良かったなーと思いました。まぁ、昇進したから
幸せって訳でもないでしょうが・・・(いろいろと気苦労も多そうだし)。
いろいろと腑に落ちない部分もないとは言わないですが、個性的なキャラや
会話文でぐいぐい読ませる面白さは相変わらずで、楽しめました。
ちなみに、タイトルのクジラアタマというのは、ハシビロコウの学名だそう。
言われてみれば、クジラっぽい・・・?動物園にハシビロコウを見に行きたく
なりました(笑)。