ミステリ読書録

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早見和真「店長がバカすぎて」(角川春樹事務所)

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『小説王』が面白かったのと、タイトルが気になったので読んでみました。
今回は新刊書店が舞台のお話。主人公は吉祥寺の本屋で契約社員として勤める
谷口京子、28歳。大好きな本を売る仕事がしたくて書店員になったものの、
未だに正社員にはなれず、薄給な上、店長も営業もお客もバカばっかりで、

毎日憂鬱な気持ちで働いている。唯一の癒やしが、同じ書店で働く先輩の
小柳真理さん。京子が書店員になるきっかけを与えた憧れのカリスマ書店員で、

とても優しく、仕事の出来る先輩だ。小柳さんがいるから、京子は仕事を辞め

ないで来られた。しかし、ある日突然その小柳さんが仕事を辞めると言い出して――。
この手の書店もののご多分に漏れず、本書も随所で書店あるあるが満載です。
それに加えて、お仕事あるあるも。仕事が出来ず、空気が読めない上司(店長)
にイライラムカムカしながら、お客はお客で我儘放題。どんなに頑張って
仕事をこなしても、誰も褒めてくれないし、評価もされない。毎日心の中で
辞めてやる、と毒づきながらも、結局はずるずると仕事を続けるしかない
日常――ううん、身に覚えがありすぎて、いちいち心に刺さりましたね。
なんだかんだで、真面目に仕事をしている京子が一番バカを見る羽目に
なってしまうところも。イライラするような出来事ばかりが出て来るので、
あんまりスカッとするようなお話ではなかったです。基本、出て来る人たちが
バカばっかりだし(苦笑)。ただ、そうやって、すべての人をバカだと
決めつける京子自身にも、イライラする部分もあったのですけれど。
それでも、困った常連客たちの言動には本当にムカムカしました。客だからって、
店員に何言ってもいい訳じゃないと思うし、お店側だって、お客を選ぶ
権利はある。こんな困った人たちは出入り禁止にしたっていいくらいだと
思いましたけどね。
有名な小説家に忖度して、本の素直な感想を捻じ曲げてしまった京子の
忸怩たる後悔には胸が痛みました。京子の立場では、ああいうしかなかった
とは思う。みんながいいと思った小説をいいと思えなかった時の、自分が
間違ってるんじゃないか感も、結構身に覚えあるなぁと共感出来ました。
私もこうやって本の感想ブログをやっているから、周りがこぞって絶賛
する作品をあまりいいと思えなかった時の感想は、少し、ブログアップ
するのに気が引けてしまう時もあるんで。まぁ、結局開き直って、いいたい
放題書いちゃいますけどね(苦笑)。
最初はあれだけ店長のことを悪し様にこき下ろしていた京子が、ある時を
境に、突然店長に対する思いが変わるところに一番驚きました。え、まじで?
って思いました。だって、途中までは、生理的にも受け付けない感じだったのに!?
この、バカ店長のキャラ造形も、ちょっと中途半端だった気がするなぁ。
バカを装ったまともな人間って設定にしたかったのでしょうが、素で変だと
しか思えなかったんですよねぇ。最後には、可愛いとしか思えなくなったとか、

京子の頭、大丈夫か?と思ってしまった(苦笑)。なんか、まっすぐな人だなぁ

ってのは伝わってきましたけどね。でもやっぱり、恋愛対象になるっていうのは

ちょっと無理があったような・・・。もうちょっと、その微妙な女心の変化の

機微の部分はきちんと描いてもらわないと、説得力がなかったように思いました。
大西賢也先生の正体は、なんとなく予想がついてしまった。アナグラムには
全然気づかなかったですけど。というか、終盤その正体を京子と真理が推測する
くだりで、覆面作家なのに、二人が性別を特定してしまっているところに首を
傾げました。覆面作家なら、当然性別だってわからないと思うんですけど。
本が好きな書店員がそんな初歩的な部分でミスをするっていうのは、ちょっと
考えづらいよなぁと思いました。
それにしても、マダムこと藤井美也子さんが京子の父親の店に来て泣いた
理由は何だったんだろうか。最終話で大まかな謎は解けたのだけど、わからない
こともいくつか残ったまま。ラストで続編も予告されているから、その辺りは、
次回持ち越しってことなのかな。
ラスト、京子の境遇が向上したところは良かったです。やっぱり、ちゃんと
仕事して頑張ってる人が報われる世の中じゃないとね。