ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

東川篤哉「伊勢佐木町探偵ブルース」(祥伝社)

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東川さんの新シリーズ。横浜の伊勢佐木町で私立探偵を生業とする桂木圭一が主人公。

派手なスカジャンを愛用するという、ズレたファッションセンスの弟分、黛真琴と

ともに、横浜界隈で起きる様々な事件を解決する連作集。

圭一と真琴は、ある日、二十代の女性から、いなくなった飼い猫の捜索という依頼

を受けた。白黒猫のノラちゃんという名前のその猫を探して横浜の街を歩き

回っていると、男女二人組の刑事から職務質問を受けてしまう。男の方はスマート

なイケメンだが嫌味っぽく、いけすかない野郎だった。しかし、なぜか圭一が自分

の身分を明かすと、男性刑事は納得したようにすぐに圭一たち二人を解放した。

その出来事があった翌日、探している猫が車に跳ねられて死亡したらしいという

複数の目撃情報を手にした圭一は、依頼人にその旨を伝え、捜査は終了した。

その日の夜、圭一は、知らない間に再婚していた母親の新居を訪ねた。母親の

新居はとんでもない豪邸。しかも再婚相手は神奈川県警の本部長で、息子も

刑事だという。帰って来た息子と会った圭一は、その顔が前日に職質を受けた

いけ好かない刑事だったことに驚く。ハマの私立探偵とエリート刑事。奇妙で

微妙な義兄弟の関係が始まった――。

圭一と義弟の脩の関係がいいですね。圭一と舎弟の真琴との関係もいいのですが。

三人それぞれのキャラが立っていて、会話のテンポが良いです。まぁ、圭一と

真琴の会話はアホっぽいですけど(真琴の天然キャラのせい)。ミステリ的には、

いつもほどのキレのよさはない気もしましたが。

一話目の『過ちの報酬』は、事件が解決した後の圭一の依頼人へのはからいが

粋でしたね。ガラは悪そうだけど、根はとても人がいいのがわかって、微笑まし

かったです。猫のことも良い結末でほっとしました。

二話目の『尾行の顛末』は、弟に交際相手がいるのか確かめてほしいという姉

からの依頼。弟はしっかりした家柄の許嫁がいるのだが、近頃弟が一人で暮らす

マンションの部屋に若い女性が出入りしているのを目撃した人がいるのだという。

家族としては、許嫁との結婚を望んでいる為、事実をはっきりさせて欲しいという

のだが。

弟のアリバイの真相には、なるほど、と思いました。ミステリ小説としては

オーソドックスですけどね。弟の女装趣味に関してはもっと早くアリバイ対策だと

気づきそうなのに、最後までそこに拘る圭一が不思議でしたけど。

三話目の『家出の代償』は、家出をした高校生の息子を探して欲しいという

母親からの依頼。息子がいなくなったのと前後して、近くに住む依頼人の父、

息子にとっては祖父が家の中で殺された事件が起きていた。母親は、祖父の死

と息子の家出に関連があるのではないかと恐れているのだが――。

サイのぬいぐるみがしっかり最後に効いてくるところがいいですね。なぜか

サイを使ったダジャレ合戦になるところに吹き出してしまいました。こういう

ゆるさが東川さんの醍醐味よね。家出少年の拓也がいい子で良かったです。

四話目の『酷暑の証明』は、妻の浮気調査をして欲しいという資産家のホテル

経営者からの依頼。調査を開始して、確かに妻の美幸は男と横浜中華街の

中華店で密会していたが、彼女は男に茶色い封筒を渡し、受け取った男は

そのまま店を出て行った。美幸は男になんらかの弱みを握られて強請られて

いるのではないか――?

依頼人の実家に理由あって居候している木田の痔の薬がああいう風に効いて

くるとは。下の話全開なのでちょっとお下品ではありますが、高温で溶ける

という座薬の特性を生かしたトリックの解明はなかなか面白かったです。

最後、今までの話でいつも煙草を吸いそこねていた圭一が、やっと一服出来た

ところにちょっと感動してしまった。しかも、火をつけてあげたのは可愛げの

ない義弟。ほんの少し、兄弟と認めたのかなーと微笑ましくなりました。ただ、

自分(圭一)のライターで火をつけてもらった場合、これは火を借りたことになる

のかな?と疑問には思いましたけど。

あと、何度も落とした煙草は時化ってないのかな、とちょっと心配になりました

ね(いつも同じタバコ落としてる訳じゃないかw)。

あと、今回のシリーズでも、圭一の依頼人の多くが資産家。まぁ、その理由は、

富豪に嫁いだ母親の紹介のおかげだったりもするんですけども。それにしても東川

さんって、ほんとに大富豪を登場させるのがお好きですよね。探偵にお金を出し

渋ったりもしないから、キャラ的に動かしやすいからとか?謎です(笑)。