ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

鳥飼否宇「天災は忘れる前にやってくる」(光文社)

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久々鳥飼さん。可愛らしくてコミカルな表紙ですが、内容は扱っている題材が

天災ばかりなだけに、ちょっと気が滅入りました。タイミング的に、読んで

いたのが台風19号の前後でしたし。内容的に、あまりにも現実とリンク

していて、鳥飼さん、何かの予兆でも感じて書いていたんじゃないかと

空恐ろしくなってしまった。特に、5話目の『株を守りて兎を待つ』と、

最終話の『同じ穴の狢』。5話目は記録的大雨による川の堤防の決壊だし、

最終話は台風19号による土砂災害。現実にニュースで観る映像と作中の

描写が重なって、リアルすぎてぞっとしました。リアルというよりも、

現実の映像の方がずっとずっと衝撃的で恐ろしかったのだけれど。

自称ネットジャーナリストの郷田俊夫は、テレビなどでは取り上げない

小さな物事や眉唾もののほら話など、面白そうなネタをネット配信して

生計を立てている。アルバイトの智己と共に、気になるネタがあれば

現地に取材に駆けつける。そして、なぜか行く場所は天災が起きる

現場が多い――地震、火山の噴火、火災や河川の氾濫、竜巻等。その上、

災害の現場に二人が赴くと、度々殺人事件に遭遇してしまう。郷田は

事件の関係者に話を聞いて、独自の推理で真相を暴いて行くのだが――。

災害現場に駆けつける報道陣には、いろいろ思うところもあるけれど、

きちんと現状を伝えようと真剣に取材している方もたくさんいらして、

頭が下がる思いでいることも多いです。テレビの報道で伝わることは

たくさんあると思いますし。今回の台風だって、家に閉じこもって、

ずっとテレビを観て情報を得ていましたから。

でも、今回の主人公である郷田は、真剣に現場の状況を伝えようとして

取材している訳ではなく、単に自分のネットニュースのネタにしてお金を

稼ぎたいから現地に行く、という不謹慎さが、どうにも受け入れ難かった

です。人間性もひどすぎますし。特に、事件を解決に導く頭脳は大した

ものだと思うけれども、犯人に対して、事実を黙っている代わりに金品を

要求したりする卑劣な姿勢には嫌悪しか覚えませんでした。実際その脅迫が

上手く行ったかどうかまでは描かれていないのですが、多分成立している

のだろうな。ラストの話を読んで、その思いがより強くなりましたし。

災害の中で起きる殺人事件という特殊な設定で、ミステリ的にはよく出来て

いるとは思いました。ラスト一編では驚きのドンデン返しもありますし。ただ、

やっぱり今の災害列島日本を現実的に経験していると、ちょっと不謹慎な印象は

否めなかったかも。作風はコミカルにしてるんですけど、その中身はかなり

ブラックですしね。

そして、最後の一作では郷田と智己、二人の立場が逆転することに。まさか、

智己まで、こんな人間性だとは思わなかったので、かなりがっかりしたし、

幻滅しました。最後の最後までブラックだったなぁ。まぁ、結局二人は

似たもの同士であり、仕事のパートナーとしてはベストコンビってこと

でしょうかね。

しかし、いろんなバリエーションの天災があるものだなぁ、とつくづく

思わされました。それも全部、日本でいつ経験してもおかしくないものばかり

なのですから。本当に、この国は災害列島だな、と暗澹たる気持ちになりました。

あのラストを受けては、続編はもうなさそうかな。さすがにこれ以上の災害の

ネタも、それほどたくさんはなさそうだしね。