ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

恩田陸「祝祭と予感」(幻冬舎)

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直木賞本屋大賞W受賞作蜜蜂と遠雷のスピンオフ。またあのコンテスタント

たちに会える!と楽しみにしていました。

本編のボリュームと対象的に、こちらは一瞬ページを開いた時に『児童書?』

と思ったくらい、文章が少ない^^;当然ページ数も少なく、読み応えという

意味ではちょっと物足りなかったです。ただ、あの圧倒的な物語の後日譚や

前日譚が読めたのは、やっぱりとても嬉しかった。それぞれの物語はほんの

さわり程度だけど、とても重要なシーンが描かれていたりもするので。

冒頭の『祝祭と掃苔は、例のコンクールの後、亜夜とマサルと塵が、

亜夜とマサルの子供の頃のピアノの先生のお墓参りに来るお話。なぜか

関係ない塵もついて来ているところが、なんだか微笑ましかった。

二作目の『獅子と芍薬は、マサルの師匠・ナサニエルの若かりし頃の話。

美しい東洋美女・ミエコとの出会いが描かれます。二人が別れちゃったのは

なんだかとても残念。でも、それぞれの才能を認め合って高めあう二人の

関係がとてもいいな、と思いました。

三作目の『袈裟と鞦韆は、亜夜や塵が出た例のコンクールの課題曲だった

春と修羅作曲者・菱沼の物語。『春と修羅』作曲の経緯と背景がわかって、

よりあの曲がドラマチックに思えるようになりました。ちなみに、タイトルの

鞦韆(しゅうせん)とは、ブランコのこと。字が読めなくて(アホ)、漢字出す

の大変だった^^;;

四作目の『竪琴と葦笛』は、マサルと師匠ナサニエルの出会いの物語。始めは

違う師匠に師事していたマサルが、いかにしてナサニエルに師事することに

なったのか。マサルの知略に舌を巻きました。天才はやることが大胆だ。

五作目の『鈴蘭と階段』は、亜夜の友人・奏が、奇跡的に、運命のヴィオラ

と出会うお話。ヴィオラが、形も音色もそんなにバリエーションのある楽器

だとは知らなかったです。自分の楽器と出会うことがどれほど奇跡的なこと

なのか。奏は本当にラッキーだったと思いました。

ラストの『伝説と予感』は、塵と、彼の師匠・ユウジとの出会いの話。なんだか、

絵画のように美しい出会いですね。これもまさしく運命だったのでしょう。

どれも、本編を補足する上で、とても重要なお話ばかりでした。もう少しじっくり

ページ数をかけた話が読みたかった気もするけれど、補足はこれくらいで

ちょうどいいとも云えるのかもしれない。各作品のタイトルも本編と呼応していて、

かっこいいですね。やっぱり、恩田さんの巧さが光る作品集だと思いました。

もっともっとこの世界観に触れていたいなぁ。

続編書いてくれないかなぁ(本編のね!)。