ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

大崎梢「彼方のゴールド」(文藝春秋)

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大崎さんの新刊。千石社のお仕事シリーズ第三弾になるようです。今回スポット

が当たったのは、スポーツ誌『GOLD』編集部。入社三年目になる目黒明日香は、

スポーツの知識もろくにないのに、突然スポーツ誌『GOLD』に異動になって

しまう。明日香がやっていたスポーツといえば、小学三年生まで通っていた

スイミングくらいだった。ただし、そのスイミングスクールに一緒に通っていた

仲良しの友人の中には、本気でオリンピックを目指して真剣に水泳に打ち込んで

いた子もいた。ベテランの先輩たちと共に、様々なスポーツの取材に飛び回る

明日香の活躍と成長を描くお仕事小説。

来年のオリンピックに向けてのお話なのは間違いありませんね。実際のスポーツ

誌の取材っていうのは、こういう感じなんだろうなーと興味津々で読みました。

ただ、ミステリ的な要素は特になく、単にスポーツ雑誌の内情を描いた作品

って感じなので、正直ちょっと食い足りない印象はありましたね。終盤、長年

忘れられずにいた幼馴染と意外な形で再会した後も、もう少し劇的な展開に

持って行っても良かったんじゃないのかなぁ。いや、競技会の結果は劇的では

ありましたし、幼馴染が挫折を経験しながらも、その競技を諦めず続けた結果が

そうなったという過程は十分感動的でもあったのだけども。ただ、できれば

明日香との再会シーンくらいは描いてほしかったなぁ。あっさり終わってしまって、

拍子抜けだった。

全体的には、仕事を通じて明日香が成長していくところは良かったのですけどね。

あと、いろんなスポーツを取材側の目線で見られたのは面白かったです。

季節によって取り上げるスポーツが違っていたりとか。まぁ、当たり前の

ことではあるのだけど。冬はウィンタースポーツ中心で、夏は陸上とか

水泳とか。マラソンなんかも冬か。第四章の『キセキの一枚』は、冬の

スポーツとして冒頭にフィギュアの話題が出て来たから、その取材シーンとかが

読めるかなーと期待していたのだけど、蓋を開けたらバスケットボールの

取材の話でちょっとガッカリ。ま、これは個人的な好みの問題なだけですけど。

最近はバスケットも八村塁選手の活躍で人気急上昇ですもんねぇ。

雑誌の記事が、ライターさんとカメラマンさんと編集者それぞれの働きによって

出来上がっているというのがよくわかりました。ライターさんも、いろんな

タイプがいたりとか。スポーツ雑誌って、普段ほとんど読むことないから、

いろいろ知らないことだらけで勉強になりました(最後に買ったスポーツ誌

は、浅田真央ちゃん引退特集のNumberだったかな)。

来年のオリンピックに向けて、各スポーツ雑誌の記者もみんなワクワクソワソワ

してきた頃なのかな。そろそろ、各競技でオリンピック内定者が出始めて来て

いますしね。

この千石社シリーズって、いつも主人公が未経験の部署に異動になって四苦八苦

するお話な気がする・・・まぁ、いろんな部署を経験して、みんな一人前の

編集者になっていくのでしょうね。本好き人間として、出版社の仕事というのは、

単純に憧れの職業ではあるのだけど、やっぱり実際現場にいる人は大変そうだな、

といつも痛感させられるのでした。