ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

似鳥鶏「目を見て話せない」(角川書店)

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似鳥さん最新作。似鳥さんは、いろんなタイプの探偵役を生み出してますが、

今回の探偵役は、また今までにない斬新なタイプで、新鮮でした。というのも、

今回の主人公である藤村京は、他人の目を見て話が出来ない、いわゆるコミュ障。

晴れて国立の房総大学に入学した藤村は、入学早々、みんなの前で一人づつ

行う自己紹介が上手くいかず、友達作りに失敗してしまう。落ち込む藤村は

机に伏して寝てしまい、気がつくと周りに誰もいなくなっていた。いい加減

帰ろうと教室を出ようとすると、黒い傘の忘れ物に気がつく。近づいて見て

みると、ブランド品の高級傘らしいことがわかった。このまま見過ごせば、

誰かに盗まれてしまうかもしれない。大学生が持つには高級な傘で、誰かからの

借り物かもしれず、持ち主は困るに違いない。しかし、他人と話すのが苦手な

藤村は、どうにかこの傘の持ち主を特定して、本人に返せないかと考え、推理を

始めるのだが――。

主人公の藤村くんは、コミュ障だけど根はお人好しで、他人が困っていれば

なんとか持ち前の推理力でそれを解決しようと奮闘する。そういう藤村くん

の人の良さをわかってくれる人物が少しづつ増えて、友達の輪が広がっていく

ところが良かったです。

ミステリ的には、日常の謎系で、さほど派手なドンデン返し等があるわけでは

ありませんが、藤村くんの鋭いひらめき力には何度も感心させられました。

そして、何より、藤村くんが経験する、いくつものコミュ障あるあるネタには、

私自身もうんうん、そうそう!と頷けるものがいくつもありました。

初っ端に出て来た自己紹介に始まり、セレクトショップでの店員さんとの

やり取りや、カラオケで何を歌うか、いかにして自分の歌う回数を減らすかの

内面の葛藤や(カラオケ自体は大好きなのだけど、知らない人が混じっていると

選曲に悩むし、あまりたくさん歌いたいとは思えない)、微妙な知人とばったり

出会った時の対応などなど、身に覚えのあるものばかり。まぁ、私は藤村く

んみたいなコミュ障まで行かないけれど、人見知りで初対面の人が苦手なのは

間違いないし、基本的に相当な小心者なので、知らない人が相手だと緊張

して内心びくびくしてしまいます。

アパレルショップで店員さんに話しかけられたりすると、すぐにお店を出て

しまうし、なにか目的のものを買いに行った時に、売り場が見つからなくても、

ギリギリまで店員さんに聞いたりしません。絶対聞いた方が早いんですが。

なんか恥ずかしいし緊張するんですよね・・・。電話も苦手だし、試食は

絶対買うって時しかほとんどしませんし(試食したら買わないといけない気が

する・・・)。美容院でも、ちょっと思ってたのと違うなぁと思っても、

やり直してもらったりしたこともないし(まぁ、いいやと諦める)。

だから、藤村くんがいろいろ考え過ぎて、人と上手く会話出来なくなってしまう

ところは、すごく共感出来るなぁと思いました。言いたいことがはっきり言える

人ってほんとすごいと思うし、憧れてしまいます。

私も、言いたいことがあっても、その場では何も言えず、後で家に帰ってああ

言えば良かった、こう言えば良かったと後悔するタイプなので。

しかし、藤村くん、コミュ障なのに弁護士志望って。人と話すのが仕事の

弁護士が、コミュ障でも勤まるものなのだろうか・・・、と冒頭でツッコミを

入れていたのですけれど、事件を解決していく度に人間関係も広がって、

人としても成長していく過程を見ていたら、藤村くんはきっといい弁護士に

なれるだろうな、と思えました。

最終話での彼のキャラ変っぷりにはちょっとびっくりしたのですけど、醜悪な

態度の犯人たちに対して毅然とした態度で理路整然と犯行を指摘する姿は、

とてもかっこよかったです。怒らせると怖いタイプなんだろうなぁ。

同級生の加越さんや皆木さんのキャラも良かったし、幼馴染の里中くんが

同じ大学にいてくれたことも良かったですね。里中くんが藤村くんを

リスペクトしている感じがすごく好感持てました。加越さんの叔父さんの

加越教授のキャラもダンディで素敵だったなー。ラストの話では一番いい

場面で登場して活躍してくれたしね。

まぁ、何よりも、人と目を見て話せないコミュ障探偵の藤村くんのキャラが

とても気に入りました。

いろいろツッコミたいところもあったのだけど、藤村くんのコミュ障的

内面描写がとても的を得ていて、面白かった。最終話の途中に出て来た、

小学生時代に結成した少年探偵団まがいのチーム・サトのくだりはまんまと

作者のミスリードにひっかかってしまったし。普通に読めば良かったのだけど。

似鳥さんの文章って、改行が少なくて一見読みにくそうなのに、ついつい

引き込まれて読みふけってしまうんですよね。個人的には、改行の少ない

文章って苦手なんですが。

加越さんと藤村くんの今後の関係も気になるし、また続編読みたいなぁ、コレ。

似鳥作品の中でも、かなりお気に入りに入るかも。面白かった。