ミステリ読書録

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万城目学「べらぼうくん」(文藝春秋)

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万城目さんの最新エッセイ。京大受験で失敗して浪人してから、作家になるまで

を時系列で綴った青春エッセイ。

作家として華々しくデビューしてから順調に作家街道を歩む著者が、これほど

作家になるまでに紆余曲折してきたとは驚きました。なんか、著作やエッセイ

やインタビュー記事なんかを読む人柄は、飄々とした感じで、順調に我が道を

突き進んで来たような印象だったので。作風も、文学賞に投稿していた頃は、

全然違う純文学っぽいものを書かれていたのだとか。最初からあんな奇天烈な

作品書いてたわけじゃなかったんですねぇ。でも、方向転換してほんとに

良かったんじゃないかな。多分、同じような時期にモリミーが出て来たことも

大きかったのかも(作中にはまったく触れられてはいないけれど)。

やっぱり、自分が書いていて楽しいものを書くのが大事なのだということは

よくわかりました。そりゃ、そうだよねぇ。自分が読んで楽しくない作品を、

他人が読んで楽しいと思えるはずがないもの。

自分を『べらぼうくん』と名付けて、べらぼうくんの行動を追って行く形が

万城目さんらしいなーと思いました。べらぼうとは、『あまりにひどい』

『馬鹿げている』『筋が通らない』といった意味に加えて、単純に『阿呆だ』

という意味もあるのだとか。確かに、デビューするまでの万城目さんの言動、

かなりべらぼうなところが多いです^^;いやー、ここまで書いちゃって

大丈夫!?ってことも含まれてます。普通の人は絶対やっちゃダメ!って

思いました。特に、大学名簿のくだりは、ヤバいのでは・・・。いつも、一体

誰がああいうことするんだろう、と首を傾げていたのだけれど、まさか

本当にやってる人がこんなところにいたとは・・・(絶句)。

会社を辞めてからデビューするまでの生活にも唖然。管理人業という仕事が

あったのが不幸中の幸いみたいなものですけど・・・。この経験が元で、

『バベル九朔』が出来たのだろうなー。

面白かったのが、大学にむかつく顔をしたいけ好かないやつがいたと思ったら、

ロザンの宇治原だったというくだり。大学時代から不機嫌そうな顔してたんだー

と思ったら可笑しかった(笑)。特に親しく会話をしたことはなかったみたい

ですが。後の活躍にびっくりされたでしょうね(宇治原氏は、万城目さんのことを

知っているのかな?)。

大学在学中は、毎年夏になると一ヶ月海外を放浪して歩いていたというのも、

学生ならではのエピソードですね。典型的なモラトリアム時代って感じですねぇ。

とにかく、思った以上に万城目さんのデビュー前はダメダメ人生でびっくり

でした。基本的には真面目なんでしょうが、自堕落なところもたくさんあるし、

せっかく勤めた会社をあっさり辞めて無職になっても、全く焦ることなく生活

できちゃう図太いところもあるし。よくそれで現在の奥様は愛想つかさなかった

なぁ。ある意味、一番すごい人だと思う。その時支えてくれたからこそ、現在

の作家としての成功があるのでしょうからね。頭が上がらないでしょうね^^;

運がいいとは言えない人生を過ごして来たという万城目さんが、作家デビューに

関してだけは奇跡的な運の良さで賞が獲れたということは、なんだかんだで

運のいい人だってことなんじゃないのかな。いろんな偶然が重なって今の

作家万城目学がある、ということがよくわかりました。

ところで、最近新作が出てませんよねぇ。次はちゃんとした小説の新作を

期待したいところです。