『金曜日の本屋さん』シリーズが気に入った成田さんの最新作(多分)。夫の
浮気で突然離婚を突きつけられた涼子は、茫然自失のまま一人娘を連れて実家に
出戻る羽目に。両親は表面上は温かく迎えてくれているが、同居している兄嫁に
気兼ねしているのは丸わかりで、肩身の狭い思いを余儀なくされていた。子供
二人を育てながらバリバリのキャリアウーマンとして働く兄嫁自身も、出戻り
で働きもしない涼子を疎ましく感じているようで、涼子は実家の家事を手伝い
ながらも、この同居の行く末を案じていた。そんな中、父親から住み込みの
家政婦の仕事をやらないかと持ちかけられる。父の古い知り合いが、家事の
得意な女性を探しているのだという。専業主婦として家事全般を得意としていた
涼子は、戸惑いながらも雇い主との面接に臨むことに。しかし、雇い主は
とんでもなく気難しい小説家だった。紆余曲折を経て、住み込みではなく
通いで家政婦として雇われることになった涼子だったが、偏屈な小説家の言動
に振り回され、前途多難の日々を過ごすことに――。
専業主婦で家事しかしてこなかった女性が、得意の家事を生かして家政婦として
有名な小説家の家に雇われることになり、いろんな試練を乗り越えて行くお話。
初めはお互いにぎくしゃくしていて、上手く噛み合わない二人でしたが、涼子の
家事能力のおかげで、少しづつ偏屈な小説家の心がほぐれて行き、心を通わせて
行く過程が爽やかでした。
妻を亡くして自暴自棄になり、ゴミ屋敷化した小説家の自宅を、涼子が持ち前の
掃除能力できれいにしていくところもスカッとしました。私自身も掃除はあんまり
得意じゃないけど、やっぱり汚いものをきれいにした後って、すごくすっきり
するし気持ちいい。掃除は家をきれいにするだけじゃなく、心もきれいにしてくれる
ものだという涼子の考え方は、至極真っ当なことだと思う。
最近は共働き家庭が主流になって専業主婦は叩かれる風潮があるけれど、
やっぱり家事ってちゃんとやるとかなり労力を使うものだし、それをバカにする
人間の意見には全く賛同出来ません。専業主婦なのに家事もしないでぐーたらして、
旦那が稼ぐお金を浪費するような人間には腹立ちを覚えますけども。掃除も料理も、
きちんと効率よくやる為にはかなり頭を使う。私は基本的にズボラな人間なので、
そこの辺りがなかなか上手くやれないのが痛いところなのですが・・・。だから、
涼子の家事能力がすごく羨ましいし、憧れます。私が嫁(あるいは家政婦)に
ほしいくらいだ(笑)。
涼子の別れた旦那は、そこのところを全く理解しておらず、専業主婦の涼子
をバカにしているのが許せなかった。今まで快適に暮らせていたのは誰のおかげ
だったのか、考えたこともなかったのでしょうね。夫婦って、やっぱりお互いに
感謝の気持ちを忘れてはいけないと思うのですが。いろんな言動を鑑みるに、
人間性に大いに問題があると思いました。こんな男と結婚した涼子に見る目が
なかったとも言えるかもしれませんが。結果として、離婚して良かったのでは
ないかな。こんな父親から生まれて、娘の美空ちゃんがあんなにいい子に育った
のは、ひとえに涼子の子育てが良かったからじゃないでしょうか。まぁ、娘には
優しい父親だったのかもしれませんが。とにかく、感動的なまでに美空ちゃんが
いい子で、実家でも腫れ物扱いの涼子に、この子の存在がいて本当に良かった、と
思えました。偏屈な小説家とも打ち解けられる、驚異的な対人能力も持ち合わせて
ますしね。
小説家の山丘周三郎のキャラクターも良かったですね。モデルはやっぱり山本周五郎
ですかねぇ。気難しい山丘が、猫のコヨーテにだけは惜しみない愛情を注いで、
可愛がっているところも微笑ましかったです。
年の離れた涼子と山丘が今後恋愛関係になるのかは気になるところ。今のところ、
そういう感情は芽生えてなさそうな感じもしますけど。そうなって行くといいな、
と思う。お互いに心の隙間を埋める存在になれそうな気がするんで。
続きが出るかはわからないけど、そういう未来の話が読めたらいいな。