ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

アミの会(仮)「初恋 アンソロジー」(実業之日本社文庫)

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女性作家たちが集まるアミの会(仮)によるアンソロジーの新作。今回のテーマは

『初恋』。今回はテーマのせいか、あまりミステリ色がなく、純粋に『初恋』を

描いたものが多かったような気がします。もちろん、ミステリ的な仕掛けのある

作品もありますけれども。甘酸っぱかったり、苦かったり、初めての恋ならではの

物語が多かったですね。はるか彼方に忘れかけていた乙女心(笑)をくすぐられ

つつ、微笑ましい気持ちで読めました。

残念だったのは、毎度恒例のあとがきがなかったこと。確か、交代で担当を勤めて

いたと思うのだけれど、順番の方が辞退されたのかしらん。

 

では、各作品の感想を。

大崎梢『レモネード』

これぞ、ザ・ほろ苦初恋!って感じの作品。主人公の現在の旦那さんは二択

だろうな、と思ってましたが、最後のシーンで料理をしていたので、ああ、

そっちか、とわかりました。人の好みは変わりますからねぇ。友人と再会

した主人公は、多分ほんの少し優越感があったんじゃないのかな。初恋の彼は、

きっと思い出の中で美化される存在であるのが一番いいんだろうな、と思いました。

 

永嶋恵美『アルテリーベ』

『アルテリーベ』って、昔どこかで聞いたことある単語だなぁと思ったのですが、

<昔の恋人>って意味だったんですね。勉強になったわー。これは、ミステリ

短編としての完成度はピカ一じゃないでしょうか。いろんな意味で騙されました。

主人公の初恋の人はまさかの人物でした。純愛度でも、救いのなさでも一番かも

しれません。でも、主人公のしたことは、本当に愛する人にとって幸せなんだろうか。

 

新津きよみ『再燃』

還暦になって同窓会に行くとか、私だったら絶対嫌だなぁ。しかし、再会した

初恋の人に食事に誘われて、ワクワクドキドキして行ったら、まさかの告白。

主人公のがっかり感がなんとも気の毒だった。

 

篠田真由美『触らないで』

いつもの古道具屋さんシリーズ。弟子と師匠の切ない恋。篠田さんらしい作品

だなーと思いました。

 

矢崎存美『最初で最後の初恋』

海外留学する事になった友人の代わりに、一年間友人の祖母と定期的にお出かけ

してあげる、主人公悠矢のキャラがとっても良かったです。祖母の千鶴子さんと

亡くなった旦那さんとのエピソードも素敵でした。ラストは切なかったですけど、

悠矢にとって、千鶴子さんとのデートは忘れられない思い出として、一生大事に

していて欲しいです。

 

光原百合『黄昏旅行 涙の理由』

潮ノ道シリーズ。地元FM局のパーソナリティ真尋が主人公。真尋の明るいキャラが

いいですね。局長とのコンビもなかなか。絵の女性に恋されちゃった(かもしれない)局長のビジュアルがちょっと気になりました。鈍感そうだから、真尋の気持ちに

気づくのもまだまだ先そうですねぇ。幽霊画の特徴が、幽霊の目には瞳孔がない、

というのは知らなかったです。今度美術館で幽霊画観る時気にしてみよう。

 

福田和代『カンジさん』

これはなんか、ちょっとホラーに近い内容ですね。老人ホームに入所している高齢の

女性が、次々と妄想の中の夫『カンジさん』について語った後亡くなってしまう。

主人公まで取り込まれてしまうラストも怖い。

 

柴田よしき『再会』

これはちょっと、構成を理解するのが難しかった。コウちゃんの存在に

混乱してしまって。整理して読めば上手くできているのかもしれないですけど、

一回読んだだけでは意味がよくわからなかった。尊厳死を扱った作品なので、

いろいろと考えさせられる部分もあります。老老介護も現実的な世の中だから、

近い将来、尊厳死が認められる世の中になるかもしれないですよね。

 

松村比呂美『迷子』

これは好きな作品でした。母親から見合いを勧められた主人公の智紗が、

しぶしぶ見合い相手と合ってみると、そこには小さな男の子を連れた

男性がいた。そして、智紗はその子が以前デパートで迷子になった子供だと

気づくが――というお話。

お見合い相手の子供がとっても健気で可愛らしかった。バツイチ結婚にはいろいろ

問題ある場合もあるけど、こういうのなら賛成できます。少年の初恋は実らなく

ても、きっと三人とも幸せになれるんじゃないかな。