ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

ほしおさなえ「活版印刷三日月堂 空色の冊子」(ポプラ文庫)

f:id:belarbre820:20200213193922j:plain

シリーズ第5弾。前作が最終巻みたいな終わり方だったので、もう続きないの

かな?と心配していたので嬉しいです。すでに6巻も出ていますし(予約中)。

ただ、本書はシリーズに出て来る様々な人物たちの過去を描いたスピンオフ。

この三日月堂の本編に繋がる、とても重要なお話ばかりです。読めて良かった。

現在の三日月堂の店主、弓子さんの亡くなった母親や父親も語り手となって

登場します。どちらも、素敵な人でした。三日月堂の前店主である、弓子さんの

おじいさんや、その妻であるおばあさんも出て来ます。それぞれに、弓子さんの

ことをとてもとても大事に思っているのが伝わって来て、弓子さんはこんな

素敵な人たちに育てられて来たんだな、と温かい気持ちになりました。

でも、だからこそ、今その人々が誰ひとり弓子さんのそばにいないのが悲しく

なりましたが・・・。特に、お母さんは弓子さんが三歳の時ですからね。

きっと、もっともっと彼女の成長を見守りたかったでしょうね・・・。

彼女が幼い頃から三日月堂の仕事を手伝うのが好きで、活版印刷に興味が

あったのがよくわかりました。小さい頃の弓子さんは、屈託なくて明るい、

元気いっぱいって感じの女の子で、ちょっと意外でした。もうちょっと

子供の頃から物静かな子だったのかなーと思ってたので。きっと、お母さんが

いなくても、父親や祖父母が可愛がって育てたからなのでしょうね。

でも、思慮深くて健気なところはそのままで、幼い頃からいろんなことに

敏い子だったんだろうな、と思いました。

副題になっている、空色の冊子のことを書いたお祖父さんの回が良かったな。

優しいお祖父ちゃんが、孫の弓子さんと作った幼稚園の卒園記念冊子。活版印刷

記念冊子を作るなんて、素敵だな~。これは一生の記念になるでしょうね。

二人で作っている様子がとても微笑ましくて。お祖父さんの子供たちへの

優しい想いにも、胸を打たれました。

最後の話は、弓子さんが三日月堂を継ぐことになった直前の様子を描いたもの。

引っ越しの直前に、こんな出来事があったとは。天涯孤独で身も心もボロボロに

なってしまった弓子さんに寄り添ってくれた唯さん。彼女がいてくれて、本当に

良かった。逆に、唯さんにとっても、この時の弓子さんとの出会いが、人生を変える

転機になったのではないかと思う。いつか二人で、この時の出会いを笑って

話せる日が来るといいな、と思う。唯さんが女優として有名になる日もね。

最後を読んで、また一巻を読み返したくなりました。あの時の弓子さんは、

唯さんとのこういう時間を過ごした後だったんだな。

続きもすでに出ているので、読めるのがとても楽しみ。早く回って来ないかな。