ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

近藤史恵「歌舞伎座の紳士」(徳間書店)

f:id:belarbre820:20200319160525j:plain

近藤さん最新作。病気で仕事を退職してから、無職のまま家事手伝いをしながら

実家で暮らす27歳の岩居久澄。キャリアウーマンの母親の代わりに食事を

作ったり、犬の散歩をしながらおこづかいをもらって生活している。今の所

生活に不便はないが、漠然と今後の生活に不安を覚える日々。そんな中、久澄は

眼科医として自立している姉経由で、奇妙なアルバイトを頼まれる。老齢の祖母に

代わって芝居を観に行き、その感想を伝えて欲しいというのだ。芝居を観に行く

だけで一日五千円のバイト料がもらえるという。月収三万円の久澄にとって、

五千円の収入は魅力的だ。了承した久澄の元に最初に祖母から送られて来た

チケットは、歌舞伎の公演のものだった。当日、始めての歌舞伎観劇に戸惑って

いた久澄は、ある一人の老紳士と出会う。紳士は、久澄が公演の幕間休憩中に目撃

した奇妙な出来事を解決に導いてくれた。その後、久澄の元には定期的にオペラや

演劇などのチケットが祖母から送られて来るように。その度に久澄は芝居の魅力に

取り憑かれて行く。しかし、一方で、芝居を観に行く度に、なぜかいつも歌舞伎の

公演で知り合った謎の紳士と顔を合わせることに疑問を覚えて行く。一体彼は

何者なのか――。

芝居を観に行って感想を伝えるだけでお金もらえるなんて、いいバイトだなぁ。

とはいえ、感想を伝えなきゃいけないから、しっかり内容を把握しなきゃ

いけないし、途中で寝ることも出来ないというプレッシャーはあるだろうけど^^;

歌舞伎やオペラは観に行ったことがないけど、私だったら確実に途中で寝ちゃい

そう・・・。久澄は、そこに面白味を見出して、芝居の虜になっていくのだけど。

歌舞伎やオペラでも字幕があったりして、素人でもわかりやすいようになって

いるものなんですね。ストーリーがわかれば久澄のように面白く観れるものなの

かも。

老紳士のキャラクターがとてもいいですね。若い久澄との関係も良かったです。

さすがにこの年齢差じゃ恋愛関係に発展するとかはないだろうな、とは思って

ましたが、老紳士の正体を知って、そういうことだったのか、と腑に落ちました。

久澄が芝居を観に行く度に二人が出会うのは、いくらなんでも何か裏があるだろう

とは思ってましたが。紳士の想いに胸が切なくなりました。でも、最後にこの

二人が再会出来て良かったです。時を経たからこそ、伝わるものもあるでしょう。

お芝居を通じて、久澄がまた就職出来るまでに成長したところも良かったですね。

今後は、久澄は自分でチケットを買って芝居を観に行くことになるのでしょうね。

多くはなくても、安定した収入も得られるようになったわけだし。やっぱり、

自分で稼いだお金で自分の好きなことが出来るっていいですよね。もしかして、

お芝居を通じて新しい出会いもあるかもしれないですしね。堀口さんとの

関係も、お芝居を通してこれからも続いて行くといいなぁと思いました。