久々下村さん。割とコンスタントに新刊が出ていて、最初の頃はきちんと
追いかけられていたのですが、途中からぽつぽつ読み逃しが出て来るように
なりました。でも、これはどっかで取り上げられていて面白そうだったので、
借りてみました。
八人の女性を猟奇的に殺害した連続殺人犯、浅沼聖悟の裁判の判決が
言い渡された。判決は、死刑――浅沼は概ね犯行を認めたが、唯一その中の
一人、水本優香殺しだけは否定した。浅沼によると、犯人『たち』は別にいて、
浅沼はそのうちの一人を殺し、遺体をどこかへ隠したらしい。隠し場所は
浅沼の思い出の場所だという。かねてから優香殺しに疑問を抱刑事の折笠望美は、
同僚や上司の反対を押し切って、浅沼の言葉を信じ、独自に捜査を始める。
一方、中学生ユーチューバーの福本宗太は、アップした動画の再生回数が
増えず、悩んでいた。すると、尊敬する人気ユーチューバーのにしやんから、
夏休みに遺体捜しをしないかと持ちかけられて――。
なかなかに、上手い構成の作品だな、と思いました。女刑事の望美と中学生
ユーチューバー宗太、二人の視点からそれぞれに物語が進んで行く形ですが、
最後に両者が出会った時、事件の真相が一気に明らかになります。
いやー、絶対ミステリ好きならわかりそうな騙しに、私はまんまと引っかかって
しまいました。完全にやられました。アホだな~~^^;宗太がユーチューバー
って設定なところが、この仕掛けの巧いところですね。これ以上書くとネタバレ
になっちゃいそうだから止めておくけど。
宗太たち三人のユーチューバーの遺体捜しパートは、さながら日本版『スタンド・
バイ・ミー』という体で、ザ・青春!って感じがワクワクしました。とはいえ、
最後は苦い結末で、宗太にとっては一生忘れられない黒歴史となってしまい
ましたが。クールなセイのキャラクターはなかなか掴みどころがなく、何か裏が
ありそうだとは思っていたのですが、終盤のキャラ変にはゾッとするものが
ありました。でも、ネット上とリアルで性格が違うなんてケースは現実にも
いくらでもあるでしょうし、実際、こういうタイプの人ってネットで人気の人には
多いのかもしれないですね。
にしやんとの関係が良かっただけに、あのラストはやりきれなかったです・・・。
にしやんに関しては、もうちょっとラストで何らかのどんでん返し的なものが
あるかな、と期待してたんですけど・・・そのままでしたね。そこはもうひと
ひねり欲しかったかな。
浅沼の犯行理由はあまりにも身勝手で、腹が立ちました。彼の生い立ちや背景に
どんな理不尽な闇があったとしても、全く関係のない女性たちをああいう最悪の形で
屈辱的に殺したことは許しがたいことであり、死刑は妥当だと思いました。
優香殺しの真相は、ちょっとあっさり明かされ過ぎて拍子抜けしたところは
ありましたが、この作品のミステリー要素のキモは、やっぱり望美パートと
宗太パートがどう繋がって行くのか、浅沼の思い出の場所とはどこなのか、
その辺りだと思うので、そこに関しては文句なく良く出来ていると思いました。
エピローグ部分はちょっと蛇足にも思いましたけど、宗太が抱えるわだかまりを
少しでも減らす為には必要なことだったのかな、とも思えました。ただ、ちょっと
きれいごとにまとめ過ぎた感もあって、賛否両論あるかもしれないな。