ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

竹内真「図書室のバシラドール」(双葉社)

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直原高校の図書室で雇われ司書として働く高良詩織の活躍を描いたシリーズ三作目。

運良く二年目も事務職扱いとして図書室で働けることになったものの、一年契約

の身ではいつ契約を切られるかわからない。詩織は、将来を見据えて司書の資格を

取るべく大学の通信教育を受けることに。通信教育とはいえ、実際大学に赴いて

スクーリングの授業も受けなければならない。土日の休みを利用して、意気揚々と

授業を受け始めた詩織は、同じ授業を取っているノノちゃんこと乃平果乃と

知り合う。ノノちゃんは、フリーターから司書を目指す二十代の明るい女の子

だった。ノノちゃんと切磋琢磨しながら資格習得を目指す詩織だったが、ある日

いつものように学校の事務室に出勤すると、図書室常連の男子生徒が家出を

したかもしれないと生徒の父親が面会に来て――。

始めは成り行きで始めた図書室の仕事だったのに、詩織は、かなり図書室の仕事に

愛着が芽生えて来ているようですね。資格もちゃんと取りましたし。ただ、資格が

あったからといって、長く続けられるとは限らないのが司書という仕事の困った

ところでしょうか。そりゃ、ないよりはあった方がいいのでしょうけど・・・

そもそも正職として司書の仕事に就ける人ってのが本当に一握りの世界ですから。

詩織は一年契約だから、焦る気持ちもよくわかります。それでも、少しでも

将来のことに備えて取れる資格を取ろうと奮闘する姿には、応援してあげたくなり

ました。

図書室常連の大隈君がいなくなり、その行方をみんながそれぞれに推理するくだりは、図書のレファレンスの過程と重なるものがあって面白かったのですが、さすがに

父親が目的地に先回りするところはご都合主義的なものを感じてしまいました。

目的地を推理するところまでは納得出来るものの、実際その場で会える確率って

天文学的数字に近い気がするんですが・・・。まぁフィクションなんだから

あまりツッコむところでもないのかもしれませんけど^^;

ちなみに、バシラドールというのは、目的地を定めずに、旅そのものを楽しむ為に

旅をするような人のことを指すスタインベックの造語だそう。元はバシランド

というスペイン語から派生しているそうです。なんだかいい旅の仕方ですよね。

後半はビブリオバトルがテーマ。高校のビブリオバトルものといえば、先日読んだ

山本弘さんの作品という先行作品がありますが、こちらはこちらで興味深かった

です。みんなそれぞれに個性的な本を紹介していて、自分がその場にいたら

チャンプ本選ぶの難しそうだなぁと思いました。ただ、不思議だったのは、普通に

現代小説を紹介する人間がほとんどいなかったところ。私、たまに新聞なんかで

各地で行われたビブリオバトルの結果の記事を読むことがあるのだけど、普通に

エンタメとかファンタジーとか、小説を紹介する人の方が大多数だったと思うん

ですが。直原高校で行われるビブリオバトルでは、みんな奇をてらうのか、小説

以外のジャンルを選ぶ人ばかり。本好きが集まっている割に、これってどうなん

だろう、とちょっと首を傾げてしまった。いや、いろんな本をオススメする方が

面白いバトルになるとは思うんですけどね。漫画やエッセイならまだしも、

国語辞典とか紹介されても・・・。なんか、もうちょっと普通の小説が出て来る

バトルなんかも読んでみたかったなーと思ってしまった。唯一純粋に小説って

云えるのがソフィーの世界だけど、これも哲学がテーマとも云える作品

らしいしね。でも、生徒の紹介読んでて、すごく面白そうだと思いました。

私がその回のチャンプ本を選ぶとしたら、『ソフィーの世界』を選んだかも。

ただ、分厚そうなので、実際読んでみるにはかなり気力が要りそうな感じは

しますが・・・^^;

終盤に出て来た、ネットリテラシーの問題に関しては、いろいろと考えさせられる

ところもありましたね。ただ、表面上の言葉を信じるだけじゃなくて、ちゃんと

自分で考えて判断することが大事なんだろうなと思わされました。

そういえば、途中でさらっと本の残留思念が読める詩織の能力が出て来ましたが、

そんな設定すっかり忘れてました。この設定がこのシリーズに必要かどうかは

かなり微妙な気がするんですが・・・。でも、そのシーンに出て来た氷室冴子

『なぎさボーイ』『多恵子ガール』クララ白書』『アグネス白書といった

タイトルに、涙が出そうなくらい懐かしい気持ちになりました。『なぎさボーイ』

大大大っすきだったんですよねぇ。なぎさ君が可愛らしくてねぇ。氷室先生を

はじめとするコバルト文庫の作品は、今で言うライトノベルの先駆け的な存在

だったと思うんですよね。この作品で久々にタイトル見て、読み返したくなっ

ちゃったな。

残念だったのは、詩織と市立図書館の司書である山村さんとの仲があんまり進展

していないこと。お互い憎からず思っているはずなのに、付き合うところまで

行かないのはなぜなんだ・・・。詩織と大隈君が一緒にいるところを見て山村

さんが嫉妬するような場面も出て来たし、それが原因でケンカしたりもしたのに。

しばらくは付かず離れずの距離感で行くんでしょうかね。まぁ、詩織自身が今は

恋愛よりも司書の仕事の方に比重を置いているから、仕方がないのかな。次巻では

もう少し進展があって欲しいものです。