長岡さん最新作。今までの作品とはまた全然違ったテーマで来ましたねー。映画制作
現場で記録係(スクリプター)として働く真野韻(まのひびき)が活躍する
連作短編集。スクリプターという職業、恥ずかしながら初めて知りました。映画
監督の片腕的な役割を担うお仕事なのですね。映画のシーンとシーンの間の矛盾点
や違和感を指摘し、前後の繋がりをスムーズに『繋がらせる』お仕事。韻の口癖は
『つながりません』で、どんな現場でも冷静に鋭く前後のつながりを指摘する。
そんな鋭い視線を持つ韻だからこそ、制作現場で何か事件が起きれば、そこに存在
する小さな違和感にいち早く気づくことが出来る。細かい齟齬に気づき、指摘する
韻の慧眼に感心しました。ただ、彼女は事件の犯人や犯行がわかったとしても、
それを警察に告発したりはしない。ただ、事件関係者にそれとなく推理を仄めかす
だけ。しかも、終盤には彼女自身が犯罪を犯したりもする。どちらかといえば、
ダークサイドよりのヒロインですね。本人自身のキャラクターも、陽よりは陰
の面の方が強い感じ。飄々としていて、あまり物事に執着してなさそうだけど、
仕事にだけは異常な執念で取り組んでいるようなところもある。かなり不思議な
キャラクターで、好感が持てるような持てないような、微妙なところ。でも、
個人的には、韻の飄々としているキャラクターは結構好み。終盤、あそこまで
ダークに落ちなくても、とは思いましたけど。続編想定してないのかな。想定
してたらああいうラストにはならない気がする。
一章の女優の死がずっと引っかかったままだったので、ラストでその死の真相が
明らかになって溜飲が下がりました。その辺りの『つながり』に関しては、
さすがにきちんとしてましたね、長岡さん。物語自体も、きちんと最初と最後が
つながっていました。
韻を踏む、の韻でひびき、という名前、かっこいいですね。そいういう読み方
するってのは知らなかったけど(無理矢理読ませた?)。
各作品のミステリ要素は若干いつもよりキレがなかったような感じもしましたけど、
長岡さんの新しい一面を見れた感じがしました。スクリプターというお仕事が
知れたのも良かったです。今度映画を観る時は、前後の繋がりに注意して観て
みようかな。