ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

畠中恵「いちねんかん」(新潮社)

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年に一度のしゃばけシリーズ最新刊。もう第19弾だそうな。ってことは、19年

以上連載してるってことになるのかな。すごい~。もうライフワーク状態なんで

しょうね。こうやってのんびり続けて行って頂きたいなぁ。

前作で大病を患った若旦那(一太郎)の父親は、妻のおたえを連れて、夫婦水入らず

でゆっくり月日をかけて九州に湯治に行くことに。主夫妻が不在の間、長崎屋を

任された一太郎は、妖と共に、様々な騒動に巻き込まれることに。主がいない

一年間を、一太郎は無事に乗り切ることが出来るのか――というのが大筋。

初めてひとりで大店の長崎屋を任されることになった一太郎が、兄やや妖たちの

力を借りて、奮闘する姿は健気でした。相変わらず病弱で、ちょっとしたことで

すぐ寝込んじゃう辺りはいつもの通りですけれど。

それにしても、あの一太郎に激甘な主夫婦が、一年間も一太郎を置いて旅に出た、

というところに驚きました。旅先でも、心配で湯治どころじゃないんじゃないかと、

私の方が心配になりました(苦笑)。でも、しょっ中心配して文は書いていた

みたいですが、湯治自体は楽しんだらしく、ゆっくり養生出来たみたいで

ほっとしました。

驚いたのは、主夫婦が不在の間に、江戸に疫病が流行るというお話が出て来る所。

作品自体が書かれたのはコロナ禍の前のようですが、今の日本をそのまま表して

いるかのような流行病のお話で、作者には未来を読む力でもあるんじゃないかと

思ってしまいました。江戸の疫病を鎮めた大禍津日神様に、同じように今の

コロナも鎮めてほしいと願わずにはいられませんでした。大禍津日神様じゃなく

ても、どの神様でもいいから、なんとかして収めてくれないかなぁ・・・。日本

には、八百万の神様がいらっしゃる筈なのだから・・・と、ついつい神頼みを

したくなってしまった。このシリーズを読んでいると、妖たちが当たり前のように

日本には存在しているように思えて来るんですよねぇ。京極さんのお話なんかも

そうだけれども。

いろいろ大変なこともありましたが、一太郎や妖たちが奮闘して、なんとか長崎屋

を守り通すことが出来て良かったです。兄やたちや妖たちがついていたとはいえ、

ひとりで商売のことをいろいろと考える機会を持てたことで、一太郎の成長には

大きく役に立ったのではないかな。