ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

三沢ケイ「これより良い物件はございません! 東京広尾・イルマディール不動産の営業日誌」(宝島社文庫)

f:id:belarbre820:20200821190059j:plain

はじめましての作家さん。特に何の予備知識もなかったのですけど、タイトル見て

面白そうだったので予約してみました。不動産ものって結構好きなんですよね。

新築物件とか見るの大好きですし。別に買わなくても、チラシとかの間取り見てる

だけでも楽しい。

本書は、失恋して仕事を辞めた藤堂美雪が、たまたま訪れた広尾の不動産屋で

社員として働くことになり、優しく仕事の出来る同僚や、様々なお客様と触れ合う

うちに成長して行くお仕事小説。

さくさく気軽に読めてよかったのですが、不動産小説としてはちょっと食い足り

なかったかなぁ。とにかく、いろんなことが都合良く上手く行き過ぎ。失業中の

美雪がたまたま広尾を訪れたら、不動産屋さんで仕事が見つかって、同僚が

みんな親切でいい人で(まぁ、これは普通にあり得るかもしれないですけど)、

宅建の試験に数ヶ月の勉強で一発合格し、最後はイケメンで超仕事が出来る

先輩社員との恋が成就。普通だったら慣れない仕事で四苦八苦して、いろんな

壁にぶち当たって、それを乗り越えて成長するものだと思うんだけど・・・そういう

要素はほぼゼロ。試練らしい試練といえば、少々嫌な顧客が出て来るくらい。

一番最初に前の不動産会社でめちゃくちゃ嫌な目に遭ってるから、新しい生活では

いいこと尽くしにしてあげたのかもしれませんが。ま、その方が読む側も楽しい

しね。ただ、少なくとも、宅建って付け焼き刃でちょこっと数ヶ月勉強したくらい

で、一発合格出来るものじゃないと思うんだよね。いくら美雪が前の会社も不動産

関係だったからって。もともとすごく頭の良い子で、ものすごーく効率的に

勉強したのかもしれないけど・・・。

あまり考えずにさらっと読むべき作品なんだろうなぁとは思いますけど。この

作品自体、ネット小説大賞という賞を受賞した作品だそうで。なんか、納得。

全体的に、もう一歩づつ踏み込みが足りないって感じなんだよね。軽いというか。

でも、ネット小説だったら、これくらいが丁度いいのかも。文庫だしね。深みは

ないけど、読んでて不快にもならないし、コロナで鬱屈した状態だったら、

こういうさらっと読める作品の方が世の中のニーズにはあっているのかも。

ラストも爽やかでしたし。美雪と営業のエース桜木の恋愛は、距離的にも相当

離れた遠恋になってしまったのでこれから大変だと思うけど、離れていても

お互いを想い合って続いて行くといいなーと思いました。