久々に井上さんの作品が図書館入荷してくれました。なかなか読みたくても
図書館入れてくれないのよね。これは単行本の新刊だったら入りやすかったのかも。
無人島に降り立った5人の音楽大学生たちが、様々な虫に襲いかかられて行く
サバイバル小説。その途中で曰くありげな因習を持つ島民たちに出会い、凶暴化
した虫たちを、彼らが音楽で鎮めていることを知る。虫と音楽に支配された
孤島の知られざる秘密とは――。
私、基本的に虫ダメなんですよ。だから、戦々恐々としながら読んだのだけど、
これは面白かった。いや、確かに、虫の大群が次から次へと登場人物たちに
襲いかかって来たりして、あらゆる虫のオンパレードなんで、もう、何度か
気が遠くなりかけたりはしたんですけどね。うん。インディ・ジョーンズのあの
洞窟の中で虫に囲まれるシーンも、何度観ても吐きそうになりますもん。まさに、
あのシーンが畳み掛けるように何度も出て来るような作品ではあります。虫が
苦手な人は気をつけた方がいいとは思いますが・・・でも、インディ・ジョーンズ
にワクワクする人なら、この作品の面白さも理解してもらえるんじゃないかなぁ。
ああいう、冒険小説っぽいところもあるし、RPGのゲームやってるような気分にも
なれますし。もちろん、洞窟探検も出て来ます(わくわく←洞窟フェチ)。
凶暴化した虫の大群を、音楽で大人しくさせる、という設定なんかは、いかにも
ゲームとかアニメの世界っぽい。リアリティはあんまりないけど、設定としては
面白いな、と思いました。
最初は、5人の音大生たちが孤島内で殺し合うクローズドミステリなのかと思って
読んでいたのだけど、全く違ってました。殺人自体は出て来ますが、え、こんな
ところで殺人が起きてたの?ってぐらいの扱い。このお話最大の謎は、この島に
言い伝えられているおとぎ話や、島民たちが虫を鎮める儀式で使っている手足笛
という楽器の曰くなど、この島の因習自体にあります。ラストで、その謎がきれいに
解き明かされて、スッキリしました。そういうことだったのかー!と目から鱗が
落ちました。もっと陰惨な何かが潜んでいるのかと思っていたのですが、真相は
思いの外、温かいものだったところも良かったです。島の巫女集団の得体の
知れなさにはぞ―っとしましたけど。巫女たちにとっても、謎が明らかになって、
いろんなわだかまりが解けたのは良かったんじゃないのかな。音楽雑誌の取材に
来たメンバーたちには嫌悪しか覚えなかったし、5人の音大生たちのキャラにも
あまり好感持てなかったけど、マネージャーのせいでこの島に漂流する
羽目になってしまった高校生ピアニストの奏のキャラだけは気に入りました。
この子は、他の作品にも出て来る子だったりするのかな?年齢に似合わず老練した
雰囲気や、名探偵さながらの推理力など、主役を張るに相応しいキャラクターに
思えるのだけど。この子主体の物語も読んでみたいなぁ。
ラスト、憂いを抱えた5人の音大生たちが、この虫の島で過酷な体験をしたことで、
それぞれに少しづつ一皮むけて成長したことが伺えて良かったです。始めは、
この島に行きたいと言い出した美亜のことを、何か裏があるんじゃないかと
勘ぐったりもしていたのですけどね。純粋に、自分の音楽を何とかしたくて神頼み
したかっただけだったんでしょうね。まぁ、その思いつきに巻き込まれて、
とんでもない目に遭った他の四人はいろいろ気の毒ではありましたけど^^;
終わりよければすべてよし、というわけで。
それにしても、虫、虫、虫、の描写は読むのがホントにキツかった。それが物語の
キモとは云え。読んでて感心したのは、昆虫じゃなくても、漢字で書くと虫へんが
つく生き物っていっぱいいるんだなぁということ。海の生物しかり。爬虫類しかり。
この世は、かくもムシに溢れている、ということね。