ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

大山誠一郎「ワトソン力」(光文社)

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なぜか、そばにいる人間に飛躍的な探偵能力を与えてしまう能力を持つ警視庁

捜査一課の和戸。彼は密かに自分のその能力を『ワトソン力』と呼んでいた。

和戸の行く先々ではなぜか難事件が起き、その度にその場に居合わせた人物が、

彼のワトソン力を借りて事件の謎を解いてしまう。そんな和戸がある日目を

覚ますと、窓のない部屋に閉じ込められていた。何者かにスタンガンで気絶

させられ、監禁させられたらしい。和戸は、犯人は過去に自分のワトソン力で

解決した七つの事件の関係者の誰かではないかと思い当たり、一つづつ事件を

回想し始めた――。

そばにいる人間の推理力を大幅にアップさせてしまう『ワトソン力』という設定は

なかなか面白いなぁと思いました。主人公の和戸自身は決して探偵役にはなれ

ないのだけど、そばにいる人間を名探偵にしてしまえるので、和戸と一緒にいれば

自然と誰かしらが謎を解いてくれる、という図。とはいえ、全員が全員正解を

導き出せる訳ではなく、それぞれに推理力がアップするだけなので、間違った

推理を導き出す人も出て来る。和戸のそばにいる人は自動的に推理したくなるらしく、

関係者たちが次々と自説を披露し始めて、推理合戦に発展して行くのが面白かった。

結局、その中で一番もともとの探偵力がある人間が最終的に解答に辿り着くように

なっている模様。

結構強引なトリックもありましたけど、なるほど、と思える推理も多く、概ね

楽しく読めました。一話目の『赤い十字架』なんかは、本当にオーソドックスな

古典ミステリのトリックっぽくて、使い古された感はあるのですけれど、嫌いじゃ

なかったですね。わかりやすいし。二話目の『暗黒室の殺人』も、暗闇の中

ならではの犯行で、盲点をつかれた感じ。ただ、犯人の動機の身勝手さには辟易

しましたけれども。三話目の『求婚者と毒殺者』は、和戸のワトソン力を逆手に

取った真相。和戸と月子さんでは合いそうもないよなぁと思ったら、案の定

な結末でした(苦笑)。四話目の『雪の日の魔術』のトリックには唖然。こんなの

成功するのかな?とも思いましたが・・・。図があるから状況はわかりやすかった

ですけど。犯人は意外でしたね。五話目の『雲の上の死』は、推理そのものよりも、

ワトソン力が機長にまで及んだところに慄きました。いや、推理より操縦に専念

して~~~と言いたくなりました(苦笑)。六話目の『探偵台本』は、ちょっと

試みを変えて、火事で一部が消失してしまった推理劇の台本の結末(犯人)を

みんなで推理し合う作品。これだけ実際の事件ではないので、ほっこりした結末

なのも良かったです。七話目の『不運な犯人』は、バスジャックされたバスの中

で起きた殺人事件の犯人を、乗り合わせた乗客たちが推理するもの。バスジャックと

殺人が同時に起きるバス・・・の、乗りたくない^^;まぁ、バスジャックが

起きたことで、いろんな不運が犯人に降り掛かってしまった訳ですけれど。自業自得

なんで、同情は出来ませんでしたけどね。

ラストで、冒頭に出て来た和戸監禁の犯人も明らかになります。その前にちょこちょこ

インタールードとして、犯人に至る伏線は少しづつ明らかにされていたのですけども。

なるほど、この人物だったか、という感じでした。和戸を助けに来た人物もまた、

それまでに登場していた人物だったのですけど、正直、名前聞いても全然ピンと

来なかった・・・前に戻って確認しちゃったもの。なるほど、なるほど、確かに

この職業だった!と溜飲が下がりました。和戸は終盤のこの人物の提案に、どう

答えたのでしょうか。もし続編が出るとしたら、そこで明らかになりますね。

私も和戸の近くで推理小説読んでみたくなりました(犯人が当てられるかも!w)。