ミステリ読書録

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東川篤哉「谷根千ミステリ散歩 中途半端な逆さま問題」(角川書店)

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東川さん最新作。なんか、次から次へと新しいシリーズを立ち上げているような。

それとも、シリーズ化するつもりはないのかしらん。今回は、下町の谷中を中心

にした、谷根千谷中・根津・千駄木エリアをこう言うらしい。東京出身だが

知らんかった^^;)界隈が舞台。私はほとんど行ったことないなぁ。下町情緒

溢れる谷根千界隈の雰囲気はなかなか良いなぁと思いました。女子大生の岩篠つみれ

は、大学の先輩・沙織さんから奇妙な相談を受ける。サークルのBBQに行った沙織

先輩は、憧れの先輩に嫌われてしまったかもしれないという。事の次第を聞くと、

双方に不可思議な行き違いがある様子。落ち込む先輩を励ましたいと思い、つみれは

鰯料理専門の居酒屋を営む兄のなめ郎から紹介された開運グッズを求めて、『開運堂』

という雑貨屋を目指すことに。しかし、行ってみるとそこはカイウンはカイウンでも、

『怪運堂』という字を当てることが判明。しかも店主は怪しげな作務衣を来た長身の

男――しかし、つみれが沙織の件を話すと、男――竹田津は出かけると言い出して

――。

相変わらずのゆるミス。探偵役の武田津と女子大生のつみれのデコボココンビが

いい味出してます。二人がのんびり谷根千界隈を散歩しながら、事件の謎を

解いて行く、というゆるさがいいですね。謎の提示も、東川さんならではの

着眼点って感じで面白かった。

第1話の『足を踏まれた男』は、女性が男性の足を踏んだ、踏まないって謎が、

ああいう風にミステリーに発展してしまうのだから、びっくりでした。傍からみると、

どうでもいい出来事なんですけどね。男が履いていた靴の出どころを推理する辺りも

お見事だったと思います。

第2話目の『中途半端な逆さま問題』も、真相を読んでなるほど、と思わされました。

いろんなものを逆さまにして行ったにも関わらず、何も盗らずに去って行った犯人。

犯人の真の目的を知れば、たしかにそういう目的しか考えられない、とも思えます。

上手いですね。ただ、犯人の目的まで推理しておきながら、肝心の犯人を間違える

という致命的なミスを犯すところにズッコケましたが。おい!とツッコミを入れ

たくなるところではあるけど^^;その辺りのゆるさがこのシリーズの醍醐味

なのかもしれないけれども。

第3話の『風呂場で死んだ男』は、庭に咲いた薔薇の花が、最後にああいう風に

推理に効いてくるとは思いませんでした。しかし、日当たりを好む薔薇を北側に

植えるなよ、と腹は立ちましたけど(苦笑)。つみれが、タピオカミルクティー

売っている珈琲店店主の谷岡を、タピ岡と呼んで、竹田津を翻弄するくだりに

吹き出してしまいました。二人のこういうゆるい会話のやり取りが楽しかった。

第4話の『夏のコソ泥にご用心』は、コソ泥に入られたつみれの友達・梓が、

泥棒が逃げた時の証言に嘘を加えていた理由に唖然。それは確かに、嘘を吐かざるを

得ないかもですよね・・・。ちょっと苦しい気もするけど、その些細な嘘のせいで

犯人推理に混乱が生じた訳で・・・。ただ、犯人自体は割とわかりやすかったですね。

最初から怪しいなぁと思ってた人でした。

それにしても、岩篠なめ郎につみれって、親もすごい名前をつけたもんですねぇ。

絶対いじめられるやつですよね^^;どんだけ鰯が好きなんだか。でも、二人とも

あっけらかんと明るい性格だから、いじられても気にしてなかったのかも?

それより、なめ郎と竹田津は過去に一体何があったんでしょう?二人の温度差が

すごいんですけど。竹田津はなんであんなになめ郎を嫌がっているのかなぁ。

なんか、お兄ちゃんが可哀想になりました^^;次巻が出るならその辺りも

明らかされるのかな。