ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

森晶麿「黒猫と歩む白日のラビリンス」(ハヤカワ文庫JA)

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黒猫シリーズ第8弾になるようです。文庫描き下ろしの新刊。現代アートに纏わる

5つの謎に纏わる短編集。

確か、前作かその前の作品で二人の距離がかなり近づいたと思ったのですが・・・

近づき過ぎてなのか、もう長年連れ添った夫婦みたいな距離感になっているよう

な・・・。お互い忙しいせいか、一緒にいる時間も少ないし。もうちょっとラブラブ

な二人が見れるのかな~と期待していただけに、ちょっと拍子抜けな感じ。まぁ、

この二人の性格なら仕方がないような気もしますけど(苦笑)。黒猫の言動も、

なんとなく付き人ちゃんとの距離があるような感じがしたからあれ?と思っていたの

だけど、ラストでその理由がわかってすっきり。黒猫は黒猫で、ちゃんと付き人の

ことを想っていたのですね(当たり前か)。

相変わらず、ポーの作品の考察部分はさっぱり頭に入って来なくて、さらっとスルー

しながら読んでました(苦笑)。なんか、最初の頃より更に作品に理屈っぽさが

増したような。理解出来ない私がアホなだけか。

ただ、各作品のミステリ部分もツッコミ所満載。

一話目の『本が降る』に関しては、本の雨を目撃した人物は、なぜすぐに窓から

下を確認しなかったのか、そこが疑問でした。普通、そういうのを見たら、窓に

近づいて外を確かめないかなぁ?そこで地面を観てたら、その後の展開も違って

いたように思うのだけど。

あと、有村乱暮はすごい天才詩人って設定だけど、作中に出て来る彼の詩が

あまりにもダサいので、ずっこけました。この詩を読んで才能があるってなぜ

思えるのか・・・。前にも思ったけど、森さんって詩の才能は皆無だと思うな・・・。

『だが油断はきんもつんもつん』『さあ 書物の雨だ こんぐらちゅれーしょん』

・・・だ、だ、ダサい・・・ッ。もう、読んでてこっちが恥ずかしくてしょうが

なかったです。よくこれで天才詩人なんて設定にしたよなぁ。ある意味勇気あると

思うな。

二話目の『鋏と皮膚』は、黒猫の実姉・冷花が主人公。黒猫が、冷花のことを

『おまえ』と呼ぶのにすごい違和感がありました。なんぜ実の姉に向かって『おまえ』

呼びなの?なんか、黒猫には似合わない。特に二人の仲が悪いわけでもないし、

むしろいいくらいなのに。アレを皮膚と呼ぶのもちょっと無理があるような感じが

したなぁ。

三話目の『群衆と猥褻』は、パフォーマンスアートを題材にした作品。アートと

政治の問題は根が深いですね。政治が絡むと、芸術だろうが何だろうがきな臭く

なってしまうのは致し方ないところだと思う。私は、あまり芸術とか音楽とかに

政治を絡めてほしくない。もちろんスポーツなんかもそう。政治が絡んだ途端に、

なにか興ざめに感じてしまうところはあるかも。

四話目の『シュラカを探せ』は、完全にバンクシーがモデルでしょうね。東京でも

ネズミの絵が真筆かどうかで話題になりましたね。いまだに謎の画家として世界中で

作品を残されていますけれど。付き人ちゃんと灰島さんのコンビはなかなか相性

良さそうでした。灰島さんの付き人ちゃんへの丸投げっぷりには最初イラっと

しましたけどね。

五話目の『贋と偽』は、贋作蒐集家の家で催された<贋作展示会>の片隅で起きた

失踪事件の顛末が描かれた作品。贋物と偽物。なかなか判断の難しい問題だなーと

思いました。まぁ、観る側がアートだと思えば、それが例え贋物だとしても、

その人にとっては本物になるんじゃないかなぁ。世間的な評価や価値とは切り離して

考えなきゃいけないとは思うけども。

ラストは、黒猫と付き人、ふたりのほのぼのとしたシーンで終わったのでほっと

しました。なんだかんだいって、やっぱりお互いに信頼しあってる二人なんだなぁと

思えて嬉しかったです。

ところで、タイトルの体裁が今までと代わりました(今までは『黒猫の○○(二字

熟語)あるいは〇〇○○(四字熟語)』だった)。

今回からシリーズ第二章らしいので、今後はこの形が踏襲されていくのかな。