ミステリ読書録

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古内一絵「お誕生会クロニクル」(光文社)

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マカン・マランシリーズが大好きだった古内さんの新作。お誕生会にまつわる

七編の短編集。各作品の主人公は違いますが、微妙に人物関係がリンクしています。

どんな人にも誕生会の思い出があって、それぞれに共感出来たり、反感を覚えたり、

いろいろと考えさせられる作品集になっていると思います。それと同時に、お誕生会

っていうのは、家族との思い出が必ずついて来るので、家族の物語でもあるんだなぁ

と思わされました。

私自身は、小学生の頃、友達を読んでお誕生会とかをやった覚えは一度もないんです

よねぇ。もちろん、家族間ではプレゼントもらったりして祝ってもらいましたし、

友達同士で誕生日にプレゼント交換なんかをやったりはしましたけど。だから、

本書に出て来るお誕生会のトラブルとか経験したことはないです。友達の誕生会

に招待された覚えもあんまりない。覚えてないだけで、何度かはあったのかもしれ

ないけど・・・うーん?世代が違うのかなぁ。

私の誕生日が8月で、夏休み真っ最中というのも関係あるかも。わざわざ夏休み中

に友達呼んで誕生会って感じにもならないし。そもそも、両親が共働きでそんな会

を開くこと自体が無理ってのも大きかったと思う。かといって、それを不満に思う

こともなかったけど。誕生日なんて、家族が祝ってくれればそれで十分だもの。

本書に出て来るように、今の小中学生は、自宅に大勢の友達呼んで派手に祝ったり

してるんですかねぇ。本人たちが楽しければいいけど、その規模や招待客の人数

なんかをマウンティングし合うようになったりすると、トラブルに発展しそう

ですよね。本書では、そうしたトラブルによって、小学校でお誕生会禁止令が

出されてしまいます。そこからまた、第二のトラブルに発展して行ったりする訳

ですけど。なんか、面倒くさい世の中になったなぁとも思う。ちょっとしたことで

保護者が出て来て、教師にクレームつけて。先生も大変だなぁと気の毒になりました。

他には、姪っ子の誕生会の為にサプライズを仕掛ける青年の話、母親が地味な

料理しか作ってくれずに恥をかいたトラウマを持つヤンママの話、誕生会好きの

会社の上司がいる雑誌編集者の話、反抗期の娘の友達の中国人の誕生会の話を聞いて、

過去の経験を思い出す編集者の話、3.11に生まれた双子の息子たちの誕生会

について、母親と意見が合わない専業主婦の話、認知症の母親がかつて誕生会で

作ってくれた桜のケーキが忘れられない女教師の話などが収録されています。

どの作品の主人公も、最初は考え方とか他人への態度とか、好感持てるとは言い難い

人物ばかりでしたが、物語の終わりには、誕生会を通して気づきがあって、

それぞれが少し、人間として成長していると感じられました。

最終話は、まさにコロナの時代を描いた物語になっているところもリアルです。

作者自身も、コロナ渦にあっていろいろ思うところがあったのでしょうね。震災の

話に関しては、私は主人公の母親の方に共感しました。もし、自分に子供がいたら、

主人公の気持ちにもっと寄り添えたのかもしれませんが。やっぱり、震災で亡く

なった人々の記憶を消すことは出来ないし、東京にいるのと東北にいるのとでも

全然周りの環境が違うでしょうし。身近な人を亡くした人が周りにたくさんいる

母親が、手放しに3月11日の娘の子供の誕生を祝えない気持ちも十分理解出来ます。

そういう母親の気持ちに寄り添えない主人公の自分本位な考え方は、私にはあまり

共感出来なかった。でも、最終的にはお互いに思い合える関係に戻れて良かったです。

これからはコロナのこともあって、自宅に他人を呼んで誕生会、というのも難しい

時代になるのかもしれませんね。誕生会は家族の思い出、という人がより増えて行く

のかもしれません。