ミステリ読書録

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ほしおさなえ「菓子屋横丁月光荘(3) 文鳥の宿」(ハルキ文庫)

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川越の街を舞台に、家の声が聞こえる青年・守人の成長を描いたシリーズ第三弾。

前作で出て来た、二軒屋が再び登場。同じ造りで二軒隣り合っていた家の片方が

焼けてしまって、一軒屋になってしまった二軒屋の片割れだったが、昭和の生活

を紹介する資料館として改修され、残されることに。片付け作業のボランティア

として参加した守人は、家の声を聞き、天袋に仕舞われていた七段飾りのお雛

さまを発見する。しかし、元の住民に聞いても知らないと言われ、守人たちは途方に

暮れてしまう。持ち主を探す守人は、二軒屋に持ち主について聞いてみると、

『ミコチャン』だという。要領を得ない家の言葉に戸惑う守人だったが――。

二軒屋のお雛さまには、切なくも温かい思い出が隠されていました。守人が家の

声を聞くことができたおかげで、日の目を見ることになれて良かったです。

今回は、院を卒業した後の進路で悩む守人が、今後どう生きていけばいいのかの

ヒントが得られるストーリーだったんじゃないかと思います。他人と距離を置いて

生きてきた守人が、川越の街で月光荘に住み始めてから、いろんな人々と出会い、

新たな人脈を作って、新たな自分と出会って行く。その過程が丁寧に描かれていて、

読んでいて爽やかです。誰にも自分を見せて来なかった守人が、今回は大学の友人に

自分の身の上を打ち明けるまでに至りますし。友人の田辺君もいいキャラですよね。

田辺君の祖父母の家と守人との意外な繋がりには驚きましたけれど。そういう不思議

な縁で、本人同士が知らないうちに繋がっていたというのにも、温かい気持ちに

なりました。田辺君の祖母は、今後の守人にとって心強い存在になりそうです。

三話目では、ついに活版印刷日月堂の弓子さんも登場。いつかニアミスしそうだな、

とは思っていたので、このコラボレーションにはテンション上がりました。やっぱり、

活版印刷と歴史ある川越の街って合いますね。二軒屋も古民家ですし。三話目に

出て来た『庭の宿・新井』も、元料亭をリノベーションして旅館にしたものですし。

伝統ある建物を違う形で残して行くというのは大変だとは思うけれども、すごく

意味のあることで、大事なことだと思います。活版印刷で作られた新井のリーフ

レット、私もすごく見てみたくなりました。二軒屋や新井の立ち上げに関わった

ことで、守人のやりたいことも少し見えて来たのかな、と思えて、嬉しかったです。

守人と月光荘の会話が個人的にはとても好きです。なんか、ほのぼのしてて。

月光荘も、かなり守人に懐いて来た感じがしますし。今回は、守人の特殊能力が

だいぶ、物語に生かされているお話になっているように感じました。

川越の街の雰囲気もほんと素敵ですよね。コロナが落ち着いたら、ぜひ訪れて

みたいなぁと思います。