ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

大崎梢「もしかしてひょっとして」(光文社)

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大崎さん新刊。タイトル通り、「もしかして、ひょっとして」と思える出来事を

主人公たちが振り返り、真実に迫る話ばかりを集めた短編集。五作目に収録されて

いる『かもしれない』だけアンソロジーで既読でした。各作品にリンクは全く

ないですが、どのお話も過去に起きた事件を振り返り、推理をめぐらせるという

部分で共通しているので、まとまりのある短編集になっていると思います。

では、各作品の感想を。

 

小暑

ぐずる赤ちゃんと新幹線に乗っている主人公が、優しい老婦人と出会って、婦人の

過去の話を聞くお話。老婦人の話よりも、ラストで明らかになる主人公の正体(?)

の方がびっくりしました。騙されたー。

 

『体育館フォーメーション』

バスケ部内で後輩いじめが起きていると知らされた生徒会役員の主人公が、実情を

知る為調査に乗り出す話。

いじめの真相が後味の悪いものでなくてほっとしました。こんな方法で効果があった

ことの方にびっくりする気もしましたが(苦笑)。

 

『都忘れの理由』

長年勤めてくれていた家政婦に突然暇乞いをされて戸惑う主人公。妻が亡くなって

からも、すべてのことを任せていたので、生活に困ってしまう。家政婦はなぜ突然

辞めるなどと言い出したのだろうか。

双方の誤解が思わぬ事態を引き起こしてしまったいい事例。誤解が解けて良かった

です。これからはもっとお互いに意思の疎通が出来そうですね。

 

『灰色のエルミー』

友人から猫を預かった主人公。仕事を定時で上がり、甲斐甲斐しく世話をしていたが、

ある日、預かった友人が交通事故に遭ったとの知らせが。思い返せば、友人は猫を

預ける時にメールで『猫を預かっていることは誰にも言わないで』と伝えていた。

一体なにが起きているのか?

事件の真相よりも、主人公と友人の仲の方が気になりました(笑)。そのうち恋愛

関係に発展しそうですよね、この二人。

 

『かもしれない』

息子と絵本『りんごかもしれない』について話しているうちに、会社の同僚の

左遷に関して『ひょっとして』と思うことがあったと思い当たる主人公は、当時の

出来事を振り返り始めるが。

これは一番タイトルの『もしかしてひょっとして』に相応しいお話ですね。同僚の

過去のミスが意外な着地点を見せるところがお見事。そして、最後のオチにも

ほっこりしました。

 

『山分けの夜』

入院中の伯母に頼まれて、伯母の家に忍び込んだ主人公は、そこで叔父の死体を

見つけてしまう。このままでは自分が疑われてしまう――困った果てに頼った

のは、同じサークルの先輩・香西だった。

香西の正体には驚かされました。この作品で一番の策士は、伯母なんじゃない

のかなぁ。意外と腹黒い人物なのかも?