ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

青山美智子「お探し物は図書室まで」(ポプラ社)

f:id:belarbre820:20201224204223j:plain

王様のブランチで紹介されていた本。図書室が舞台ってだけでも読みたくなる

のだけれど、内容もとても面白そうだったので予約してみました。はじめましての

作家さんだったのだけど、この方、話題になっていた『木曜日にはココアを』

作家さんなのですね。タイトルは新聞広告で何度も見かけて気になっていたの

ですが、予約が多そうだからスルーしちゃった作品なんですよね。予約しとけば

良かったかな。

さて、本書。とっても良かったです。気に入りました。小学校の隣に併設された

コミュニティハウスの中にある小さな図書室が舞台。人生に悩んだ人々が、

この図書室を訪れ、司書の小町さんにお薦め図書を聞くと、なぜか本と共に

付録として小町さんが作った羊毛フェルトの小物ももらえて、最終的には

人生の指標も教えてもらえる、というお話。小町さんのビジュアルは、マツコ

デラックスにしか思えなかったなぁ。ものすごく大きくて、色白で、首と顎の

境目がなくて、年齢は47歳らしい(確かマツコもそのくらい)。性別は違う

けどさ。アマゾンのレビューでも同じような感想の方がいたし、同じように

思う人は多そう。ただ、小町さんは既婚で、旦那さんとの馴れ初めとか結構

乙女なエピソードも多そう。職場での小町さんとプライベートでは、かなり

ギャップがありそうで、その辺りも含めて、とてもいいキャラだと思いました。

本をお薦めする時も、羊毛フェルトのおまけを渡す時も、淡々としていて、

押し付けがましくないところがいいんですよね。それでいて、その人にとって

すごく核心をついたものを提供している。すごい人だなぁと思いました。

小町さんが作るその羊毛フェルトの付録がまた、物語にいいアクセントを与えて

いていいですね。図書室のレファレンスコーナーでお薦め本を教えてもらえて、

羊毛フェルトの小物までもらえるなんて、なんていい図書室なんでしょうか。

しかも、そのお薦め本も、本人の本質を見据えて絶妙なチョイスで選んでもらえる

し。養護教諭からどういう経緯で司書になったのか、その辺りの小町さんの人生

エピソードだけでも一冊の本になりそう。謎の多い人なので、小町さんメインの

物語もいつか書いて欲しいなぁ。旦那さんとの馴れ初め話もちゃんと知りたいし。

一話から五話まで、登場人物も微妙にリンクしてるところもいいですね。途中

まで全然わからなかったけど、終盤の二話くらいで全部の主人公がどこかで

繋がっているのがわかって、嬉しくなりました。

と、ここまで書いてアマゾンレビューを何気なく読んでいたら、小町さんの独身

時代のお話はすでに書かれているらしい。そ、そうだったのか。それは読まねば。

本書は5話収録されていますが、どのお話も良かったです。一話目の婦人服

販売員の朋香のお話は、羊毛フェルトの小物がフライパンで、本はぐりとぐら

ぐりとぐらのカステラ(私もパンケーキだと思ってました)は、私も作り方検索して

作ってみたことあります。朋香みたいな失敗はしなかったけど、朋香が最終的に

成功したみたいにふっくら膨らんだって覚えもないから、全然違う味と作り方

なんだろうなぁ。朋香のレシピで作ってみたいと思いました。

二話目の家具メーカー経理部の諒のお話は、小物はキジトラ柄の猫で、本は

『植物のふしぎ』。個人でアンティークショップを始めるのはなかなか勇気がいる

ことだけれど、比奈という可愛いパートナーもいるので、二人で協力して軌道に

乗せて欲しいですね。

三話目の出版社勤務の夏美の話は、小物は小さな地球で、本は『月のとびら』

夏美へのお薦め本が占いの本というのは意外でした。ミラ先生との絆に、温かい

気持ちになりました。最終的に夏美は正しい選択をしたのだと思います。ちょっと

上手く行き過ぎな感じもしましたけどね。

四話目のニートの浩弥の話は、小物が白と緑の飛行機で、本は『進化の記録

ダーウィンたちの見た世界』。30歳でニート生活はやばいよなぁと思いましたが、

コミュニティハウスの雑用係をやることでお金を稼ぐことの尊さを学べたのは

良かったです。再び絵を描く楽しさも思い出せたし。小町さんが浩弥に言い放った

『お前は今、生きている』のセリフにしびれました。かっこいい。

五話目の定年退職した正雄は、小物がカニで、本は草野心平の詩集『げんげと蛙』

正雄の妻が、一話目の朋香のパソコン講師の権野先生だったのは驚きました。

こうやって繋がっていたんだなぁ。そして、権野夫婦のマンションの管理人が、

二話目の諒がかつて通っていた骨董屋の夜逃げした店主だったとは。夜逃げの

理由もわかって、伏線がきちんと回収されてすっきりしました。五作がきちんと

繋がっていて、きれいな円環小説になっているところはなかなかニクイな、と

思いました。

コミュニティハウスに併設された小さな図書室に、小町さんみたいなレファレンス

専門の司書がいるって、なかなか現実的にはあり得ない気もしますが、こんな

素敵な司書さんがいる図書室なら通いたくなるだろうなぁと思いました。

ほんわか心が温まる、冬に読むにはぴったりな一作でした。