ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

遠藤彩見「みんなで一人旅」(集英社文庫)

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コロナ禍で旅行に行けない今、ついつい旅にまつわる作品に手が出てしまいます。

まぁ、この手の本読むと、もっと旅行に行きたい熱が高まって困ってしまうところも

あるのだけれど(苦笑)。先日読んだ秋川滝美さんの『ひとり旅日和』や、加藤

シゲアキ氏のエッセイ『できることならスティードで』なんかもそうでした。

ただ、本書に関しては、そこまで旅行熱は高くならなかったな。というのも、

本書は旅にまつわる7つの物語を収録した短編集なのですが、ほとんどの作品の

主人公が旅先で嫌な目に遭うからです。どうも、旅行に対してマイナスイメージを

持つようなお話ばかりを集めた感じで、途中から若干冷めた気持ちになってしまった。

面白くない訳ではなく、一作だけ読む分にはどの作品も水準以上の面白さはあると

思うのだけど、読む作品読む作品、嫌な登場人物が出て来たり、主人公がトラブル

に遭ってばかりいるので、せっかく旅に出る話なのになぁ・・・と、ちょっと

苦々しい気持ちになってしまって。もちろん、ほろ苦い経験をするのも、旅には

よくあることですし、旅先でそうした嫌な出来事を経験したからこそ、主人公に

気づきがあって、成長して行くって話でもあるのだけれどね。

毎回、読む度にモンスター級の嫌なタイプの人間が出て来たりするところもにも

うんざりしましたしね。

まぁ、ラストでほろっとさせてくれるお話もありましたけどね。でも、全体的には

旅行にマイナスイメージを植え付けるようなお話が多かったような。

 

では、各作品の感想を。

『男二人は聖地を目指す』

有沢と梨本のアリナシコンビ、最後までどっちがどっちだか混乱したまま読んで

いたような。友達がこういうものにはまってしまうと厄介ですねぇ。旅先で、

こんな風に勧誘されたらたまったものじゃない。それをわかった上で有沢が

梨本を見捨てないのは単純にすごいと思いました(私なら付き合いやめると思う)。

 

『みんなで一人旅』

ツアー旅行は、中に一人でも協調性がない人が混じってると大変そうです。私自身は

ツアーの旅行って数えるくらいしか経験してないので、そんなに変な人に出会った

ことはないのですけど。主人公が、壊した時計のことを持ち主に言い出せないで

焦る気持ちは理解出来ました。誰にも見られてなければ、なかなか正直に話せないかも。

それでも、ちゃんと勇気を出して打ち明けられたのは良かったと思う。そのまま

だったら、旅の間中後ろめたい気持ちで旅行どころじゃなかっただろうから。

 

『癒やしのホテル』

これはある意味ホラー小説じゃないでしょうか。元カノかもしれない、得体の

しれない包帯女に付きまとわれる主人公・・・怖すぎる。まぁ、主人公自体の人物像

もひどかったから、全然同情出来なかったけど。どんなにスペックの高い男だろうが、

こんな性格だったら願い下げ。筋トレバカにもほどがあるし。顔がいいだけでなんで

こんなにモテるのか、謎。結局、包帯女の正体は誰だったんでしょうか。

 

『空飛ぶ修行』

ジャニーズの風間俊介君が、ANAのステータスを貯める為に、一日に何本もの

飛行機に乗るロケをテレビで観たことを思い出しました。確かに、それを彼も『修行』

って言っていた気がする。飛行機に乗るだけが目的の旅があるなんて、私には全く

理解不能ではありますけど(出来れば飛行機なんて乗りたくないタイプなんで)。

旅先で連れの人と仲違いすると気まずいですよねぇ。今回の二人はわだかまり

解けて良かったです。

 

『氷上のカウントダウン』

今回の作品集の中で一番のモンスターキャラは、これに出て来る琴里じゃないで

しょうか。『癒やしのホテル』の整形女も怖かったけど、彼女に関しては同情や

共感出来る部分もなくはなかった。でも、この琴里に関しては、全く、一切の

好感も共感も理解もゼロでした。彼女の言動には本当にイライラムカムカさせられた。

自分勝手過ぎて、一緒に旅に来た宇美が気の毒だった。でも、その後の宇美の行動も、

さすがにちょっと無責任ではとも思いましたけど。琴里がこういう性格なのは

わかってて旅行にきたわけで。ここまでひどいとは思わなかったのかもしれない

けどさ。でも、その宇美がいなくなったら、今度は主人公の露子に依存し始めた

琴里には呆れ果てました。露子が拒否しようとすれば、挙句の果てには脅すし。

すべてのことが理解不能だった。それだけに、最後に露子がやったことに快哉を叫び

たくなりました。なんでもかんでも人任せにしてきた琴里には、いい薬になったん

じゃないかな。スカッとしました。

 

『誰も行きたがらない旅』

社員旅行で一人5万の旅館に泊まれるなら、なんとも羨ましいと思ってしまうけど、

やっぱり社長やら上司やらがついて来るとなると、嫌なものなんでしょうね。

社員旅行なんて経験したことないから、どうもピンと来ないところもあったの

だけど。旅行は気心の知れた人と行くから楽しいっていうのは、もちろんわかります

けどね。

今はコロナもあるし、こういう社員旅行に行く会社ってほとんどなくなっちゃってる

のだろうなぁ。社長である主人公は、誰も行きたがらない旅だと思ってたみたい

だけど、なんだかんだで社員たちはそれなりに楽しめたんじゃないかな。

 

『幸せへのフライトマップ』

今後は、こういうバーチャル旅行が流行る世の中になりそうです。掲載されたのが

去年(2020年)の5月~6月と書いてあるので、ちょうどコロナ禍真っ只中で

思いつかれたお話なのかな、と思いました。

主人公が新婚旅行先のハワイで経験した元夫や義父母とのエピソードは、ひどすぎて

ドン引きでした。こんなのやられたら、そりゃ離婚したくなってもおかしくない。

夫がクズ過ぎて。母親と二人のバーチャルでのハワイ旅行は、楽しい思い出ばかり

になって良かったです。お母さんはいつでも娘を思ってくれていたとわかって

ほろり。

今度は、ぜひ、パリ旅行にも連れて行ってあげて欲しいな。