ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

窪美澄「ははのれんあい」(角川書店)

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窪さん最新作。窪さんは読んだり読まなかったりの作家さんですが、久しぶりに

なんとなく食指が動いて借りてみました。

うーむ。面白くなかった訳では決してないけれども、思っていた作品とはちょっと

違っていたかなぁ。タイトルから想像する内容とはだいぶ離れていたような気が

する。タイトルにするほど、『ははのれんあい』をメインに描いているとは言い難い

ような。タイトルの『はは』は、おそらく前半パートの主人公・由紀子と、後半

パートの主人公で由紀子の息子の智晴、両方を意味しているのだとは思いますが(智春

は、シングルマザーの母親の代わりに、双子の弟たちの面倒をみる「はは」にならざる

を得なかったので)・・・どちらにしても、それほど恋愛描写が中心の物語ではない。

それよりは、時が経つにしたがって変化して行く家族の物語の方がメインだと思う。

私はてっきり、離婚してシングルマザーになった母親の、新しい恋をメインで描いた

作品だと思っていたので、そういう意味では予想を覆されたというか。そういう物語が

読みたいからと手に取ったわけでもないのだけれども。でも、タイトルと内容が

ハマらない作品って、どうも据わりが悪い心地がしてしまって。もちろん、由紀子は

結果としてシングルマザーになって新しい恋を見つけるし、恋愛がよくわからない

と言っていた恋愛下手な智晴も初恋を経験するのだから、全く見当外れのタイトル

とも言い切れないとは思うけど。ただ、タイトルにするのであれば、その部分を

もっと掘り下げるべきだったのではないかと思う。由紀子の新しい恋に至っては、

その人と知り合う経緯も恋愛に至る過程も一切出て来ないし、智晴の初恋に関しても、

幼馴染の相手から告白されたから、意識して好きかも、と思い始める・・・という、

何か流されるままに好きになっちゃったって感じのライトなもの。初恋なんて

そんなものなのかもしれないけどさ。まだ恋愛相手が父親の再婚相手の娘である、

シリラットだったという方が、ドラマチックな展開になったんじゃないかなぁ。

シングルマザーで子供三人を育てる苦労人の母親の代わりに、双子の弟の『はは』

になって奮闘する智晴は本当に良い子だし、彼のキャラクターはとても好感が

持てたのだけど。

でも、私が一番引っかかったのは、不倫して子供三人を捨てて家を出て、不倫

相手と再婚した智久が、一番幸せそうだというところ。智晴だけは離婚理由を

知っているから父親に対するわだかまりがあるけれど、下の双子は二人とも

離婚した後も父親のことが大好きで、父親と暮らしたいなどと言い出すほど。

由紀子の心中を考えると、やりきれなくて胸が痛かったです。

勝手な理由で子供三人を捨てたくせに、月一回の面会日ではいい父親ヅラして

釣りに連れてったり。認知症の父親のことも、別れた妻の由紀子や息子の智晴の

方が面倒見てるって、一体どういうことなの。なんか、智久の言動にはすべて

でイライラさせられました。そもそも、前半部分で、由紀子が妊娠した辺りからの

智久の言動も酷かったですけどね。出産後は、自分の稼ぎが少ないから由紀子が

仕事をせざるを得ないのに、酷い態度取ったり。なんか、モラハラ気質っぽい

なぁと思って、そこから嫌悪感しか覚えなかったです。新しい家庭ではいいパパ

やってる感じが、またなんとも腹立たしかったし。

何か、いろいろともやもやが残る作品だったなぁ。窪さんは、一体何を一番

書きたかったのか、よくわからなかったな。どんな形でも家族は家族、というのが

言いたかったのか。終盤、由紀子をのけものにして、智久の新しい家族と智晴

たちが仲良くするシーンにイラッとしました。ほのぼのとしたいいシーンとも

言えるのかもしれないけど、個人的には女手一つで男の子三人を育てて来た

由紀子をないがしろにして、家族団欒する智久たちが許せなかった。自分が

一つの家庭を壊したことも忘れて、智晴や双子と仲良くする再婚した外国人妻も。

うーん。なんか、読み終えてもやもやしたものが残るお話だった。ラストも

なし崩しな着地点で、え、ここで終わり?って感じだったし。

たくさん苦労してきた由紀子と智晴には幸せになって欲しい。智久を見返して

やるくらいにね。