ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

友井羊「スープ屋しずくの謎解き朝ごはん 心をつなぐスープカレー」(宝島社文庫)

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シリーズ第6弾。もう6巻目なんですね。早いなー。今回も、麻野さんの美味しそうな

スープと謎解きで癒やされましたー。各作品ともそれぞれに楽しめたのですが、

今回は一冊通して大きな仕掛けも施されていて、ミステリとしても満足出来る

一作でした。麻野さんの料理の師匠についても少し知ることが出来ましたし。

一話目は、理恵の同僚がリモート会議中につぶやいた『人参がワープした』という

謎の言葉の意味とは、またその直後に彼女が同じ会社の恋人に別れを告げたのは

なぜなのか、というお話。人参がワープしたという言葉の意味には、そういう

ことか、という感じ。リモート会議ならではのすれ違いって感じでしたね。

二話目は、露の同級生の奏子が、ナッツアレルギーの友達にナッツ入りの

クッキーを食べさせたという罪を着せられ、不登校になってしまう。露は奏子の

無実だという主張を受け入れ、二人で真実を調べ始める、というお話。きちんと

双方の意見を聞いて、公平に物事を見ようとする露の姿勢がいいですね。確実に

露は麻野さんの遺伝子を受け継いでいると思いました。しかし、あんなに娘の

アレルギー食物に神経使ってる母親が、ハイキングで採れた野生のハーブを娘に

食べさせちゃう、というのは腑に落ちない気持ちになりましたが・・・。

三話目は、理恵の取材先のイタリアンで最近始めたデリバリーでのトラブルを描いた

お話。最近はウー○ーイーツとか出前○とか、デリバリーを頼むお店も増えたから、

こういうトラブルは有り得そうですね。冤罪はちょっと気の毒だと思いましたが。

四話目は、夫が作る朝食がいつも少し苦く感じる妻のお話。私、いつも朝食食べた後

でアレをやる派なので、こういう経験はないのですが、実際こういうことはあるの

でしょうか。この奥さん、食べた後もやるんですかねぇ。食べる前にやりたい気持ちも

わからなくはないけど。二度手間のような。旦那さんいい人だなぁと思いました。

五話目は、理恵のお気に入りの洋食屋『えんとつ軒』の名物、ビーフカレーのレシピ

をめぐる騒動を描いたお話。名店の看板料理のレシピは、閉店と共に失くなってしまう

には惜しく、受け継がれて残って欲しいものです。確か、料理のレシピって著作権

とかないんじゃかったっけ。絶品ビーフカレーが今後も受け継がれて行かれそうで

ほっとしました。理恵が感じた『えんとつ軒』と『スープ屋しずく』の類似点の

理由もわかって、溜飲が下がりました。

しかし、エピローグに判明するある事実には驚きました。完全に騙されてたー。

理恵さん寂しかっただろうなぁ。エンディングの二人の会話、もう、完全に相思相愛

じゃないですか!?いつの間に?

理恵の会社でリモート会議が行われていたり、人気のイタリアンでデリバリーを

始めたりと、確実にコロナ禍の今を意識して書かれているのがわかりました。

コロナ禍だという描写は一切出て来ませんが。コロナを反映させてしまうと、麻野

さんの夜営業の様子とかも書けなくなっちゃいますしね。まぁ、お酒を出すお店じゃ

ないから、あんまり関係ないかもしれませんけど。そこは濁しつつも、今の

変わりつつある世の中を作中に反映させようと苦心されているのかな、と。

どの作家さんも、きっとそこは悩むところなんでしょうね。それでも、今後は

アフターコロナの世界を反映させた作品が増えて行くのかな、と感じました。