ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

燃え殻「夢に迷って、タクシーを呼んだ」(扶桑社)

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燃え殻さんのエッセイ集、第二弾。先日読んだ一作目が良かったので、続けて

こちらも借りてみました。燃え殻さんのいろんな面が伺えて、今回も面白かった

です。過去の出来事はエキサイティングなものが多くて、いろんな経験している方

だなぁとしみじみ思わされました。前作に続いて、お祖父さんが出て来る回は

切ないけれども温かな気持ちになりましたね。お祖父さんのぶっきらぼうな燃え殻

さんへの愛情みたいなのが感じられて。せっかくはるばる遊びに来たのに、しばらく

いただけで、「で、お前いつ帰るんだ?」なんて言われたら、訪問した方はあまり

いい気持ちにはならないですよねぇ。でも、燃え殻さんはそういうお祖父さんの

性格もちゃんと受け入れて、また遊びに行ってあげる。基本的に、やっぱり優しい

人なんだろうな、と思いました。

ヤフーニュースで知った知人の女優さんの自死に関するエッセイでは、いろいろ

考えさせられてしまいました。三週間前まで次の仕事のことを生き生きと語っていた

人の突然の死。もしかして、昨年衝撃だったあの二人の女優さんのどちらかかな、

とちらっと脳裏をよぎってドキッとしてしまった。いつこのエッセイが書かれた

のかいまいちわからないので、実際のところはよくわからないのだけれど。

何にせよ、親しく話したことがある方の突然の死は、メンタルに来るでしょう

ね・・・。コロナが長引いて、また同じようなニュースが入って来ないことを

願うばかりです。

生きづらさを感じながらも訥々と語られる燃え殻さんの言葉は、すとんと胸に

入って来て、心を温かくしてくれます。変わった過去の体験談を語る時も、

あっけらかんとした筆致ながら、どこかで切なさを感じるんですよね。

高校時代になぜか、誰から何を言われた訳でもないのに、毎日学級新聞を一人で

作ってクラスの掲示板に張っていた、というエピソードも面白かったです。特に

感想を言ってくれる人がいる訳でもないし、昼までには大抵が不良に破かれて

しまっていた、というにも関わらず、毎日懲りずに作っていたらしい。きっと

その頃から文章を書いて表現することが好きだったのでしょうね。でも、自分が

せっかく頑張って書いた文章を破かれて、虚しくならなかったのかな。誰かに

読まれる為に書いていたんじゃなかったみたいだけどさ。それでも、一人だけ

その新聞に注目してくれていた女の子がいたというエピソードに微笑ましい気持ち

になりました。たった一人でも、自分の文章を気にかけてくれていた読者がいた!

って語る燃え殻さんがとてもうれしそうだったので。その時の嬉しさが、今の

文筆業に繋がっているのかな、と思えました。きっとそういうことの積み重ね

なんですよね。

小さな出来事が積み重なって今に繋がっている。今を大事に生きていれば、いつか

振り返った時に、辛いことも懐かしく思い返せる日が来るのかな、と伝えてくれて

いるように思いました。

間に挿入されている写真も、ありふれた日常の風景を撮られているものが多くて、

エッセイとぴたりとはまっていて良かったですね(燃え殻さんが撮られたものかと

思ったら、奥付みたら別の方でした^^;)。前作に続き、長尾謙一郎さんの

イラストも、シュールで世界観にぴったりだと思いました。

話題になった(らしい)小説の方も早く読んでみたいですね。