ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

青山美智子「鎌倉うずまき案内所」(宝島社)

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奇しくも青山さん二連チャンとなりました。たまたま回って来たタイミングが

重なったってだけなんですけどもね。

鎌倉を舞台に繰り広げられるファンタジっくな作品。面白いのは、一作ごとに

時代が過去に遡って行く点。登場人物もかなり緻密にリンクしているので、

全部読んだ後にもう一度前に戻っておさらいしたくなるのは間違いない。軸に

なっているのは、黒祖ロイドというSF作家でしょうか。一作目では、普段は顔出し

NGの人気SF作家が、珍しく雑誌のインタビューに応じたという設定で登場。

二話目以降、一作ごとに時系列が遡って行くのですが、黒祖もその度に若くなり、

作家としても青くなって行く。最後の作品に至っては、黒祖ロイドという作家が

生まれる瞬間に立ち会える。ここで意外な事実が明らかになります。完全に

騙されてたなー。こんなミステリ的な構成でも書ける人なんですね。基本的には

ファンタジー作品なんだけど。

人生に迷って、自分の行く道にはぐれてしまった人間だけがなぜか行き着ける、

鎌倉うずまき案内所。ぐるぐるの螺旋階段を降りて行き、扉を開けると、そこには

双子のおじいさんと生きているアンモナイトが待ち受けていて――。

何か人生に躓いた時、こういう不思議な案内所で行く道を示唆してもらえたら

いいだろうなぁ。双子の外巻さんと内巻さんのキャラがほのぼのしててとっても

いい。そして、謎の生命体、アンモナイト所長。壁掛け時計のように普段は壁に

かかったままじっとしているのに、突然動き出して透明な水をたたえた甕の中に

入って行ってしまう。なんだか本当に不思議な存在。所長の割にしゃべったりは

しないので、何考えてるのかよくわからなかった^^;でも、なんかいるだけで

和む存在って感じ。

とにかく、人物関係がかなり緻密に設定されていて、それぞれの作品ごとに繋がり

があるので、人物相関図が欲しくなりました(ひとつ前の作品でも同じこと書いてた

ような・・・^^;)。まぁ、一応巻末に年表みたいにまとめてくれてはいるの

ですけれど。時代が遡って行くだけに、この人物が前に出て来たこの人なんだー!

こんな過去があったのかー!みたいな発見は多々ありました。一話目に出て来た

ノギちゃんが、ト音記号の回のあの乃木君だって言うのは、実は途中まで全く

気づかなかった。一話目で、ノギちゃんが主人公に、『言葉にして言うと、本当

のことになってしまう』と言っていたのは、こういう過去があったからだったん

だな、と感慨深いものがありました。いちかとは、現在でも付き合いがあるの

かなぁ。恋愛関係はなさそうだけど、友達関係でも続いていて欲しいと思いました。

花丸の回で、双子のおじいさんと主人公がイカに関するダジャレ合戦をするくだり

は、読んでいて鳥飼否宇さんの作品を思い出してしまった。イカをダジャレで使う

手法って、割といろんな作家さんがやってる気はするけど。東川さんでもあった

ような(苦笑)。おっさんになると、こういうダジャレを言いたくなるものなの

ですかねぇ。TOKIOのリーダーか(笑)。

最初突然出て来るファンタジックな設定に面食らわされたところはありましたが、

うずまき案内所のおかげで、悩める人々の心が癒やされて行く様子は心温まり

ました。困った時のうずまきキャンディは、人によって感じる味が違うみたいで、

それも面白い設定だった。私がなめたらどんな味がするのかな。

鎌倉の雰囲気も良かったです。コロナが落ち着いたら、またゆっくり訪れたい場所の

ひとつですね。