ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

道尾秀介「雷神」(新潮社)

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久々のミッチー最新刊。結構なボリュームがあると思ったけど、ページ数的には

400ページもいかないくらいなんですね。読み応えたっぷりだから、もっと

あったかと思ったけど。

小料理屋を営む藤原幸人は、19歳になる娘の夕見には絶対に言えない秘密を

抱えていた。それは、15年前の母親の交通事故死に関することだ。母親の死は、

娘のある行動がきっかけだったこと――幸人は、この秘密を墓場まで持って行く

つもりでいた。しかし、ある日お店の電話に一本の脅迫電話がかかってきた。

金を無心するその電話の主は、金を都合できなければ娘にすべてを話すと言う。

あの出来事をなぜ電話の主は知っているのか。脅迫電話を受けた幸人はショックの

あまりその場で意識を失ってしまう。倒れた幸人と、心配してかけつけた幸人の姉・

亜沙実に、娘の夕見は、療養も兼ねて二人の故郷、新潟県羽田上村に行こうと

提案する。夕見は、幸人や亜沙実が頑なに口を閉ざす彼らの故郷について、

かねてから興味を持っていた。31年前の幸人の母親の不審死と、その一年後に

起きた村のしんしょ持ちたちの食中毒事件には一体どんな繋がりがあるのか。

幸人の父親は本当に食中毒事件の犯人だったのか――いくつもの謎が交差する

長編ミステリー。

現代の事件と過去の事件がどう繋がるのか、その謎が解けた時は、まさに目から

ウロコの思いがしました。過去の事件の犯人自体は、ああやっぱりあの人だった、

というのが正直な感想ではありました。それに至るにはいくつも腑に落ちないことが

あったりしたのだけれど、謎が解けてみれば、そうか、そういうことだったのかー!

と思いました。冒頭での脅迫電話に関しても、どうやってあの出来事を当該人物が

知り得ることが出来たのかがすごく疑問だったんですよね。あんな蓋然性の高い

事件を誰が目撃出来たんだろう、と。でも、あの電話の真の意図を知って、溜飲が

下がりました。伏線の張り方がえぐいぞ、ミッチー!細かい部分まで、実に良く

練り込んで書かれているのがわかります。うーむ。すごい。

羽田上村の雷の中の殺人の描写に関しても、あの部分だけ読むと何が何やらさっぱり

状況がわからなくて、めちゃくちゃ混乱しました。でも、真相部分を読んだら、

疑問がすべて解けてすっきりました。いや、謎が解けたこと自体はすっきりした

ものの、その時に起きた出来事に関しては、やりきれなさしか残らなかったけれど

もね・・・。

同じ言葉でも、角度を変えてみると、180度違った意味を持って来る、というのは

ミッチー作品では常套手段ですね。今回も、多いに騙されてしまいました。真相

そのものはそれほど複雑でもないし、動機自体もシンプルなもの。でも、冒頭の

現代部分と過去の事件との絡ませ方が抜群にうまい。雷神やキノコ(コケ)汁

といった、その土地ならではの信仰や伝統行事という、本格ミステリ好きには

たまらないガジェットもてんこ盛り。道尾さん的には、龍神の雨』『風神の手』

と並ぶ神シリーズ三部作のラスト、という位置づけなのだそう。なんか、雰囲気

似てると思ったんだよね。それに、彩根のキャラが出て来た時、あれ?と思ったし。

前にも、真備みたいな、三津田さんの刀城言耶みたいなキャラが出て来たよな、と

思って、自分の記事確認したら、やっぱり『風神~』に出て来たキャラでした

(『龍神~』に出てたかは未確認ですが^^;)。掴みどころがなくて、飄々と

していて、不思議な人ですよねぇ。やってることは、ほぼ刀城言耶に近い気が

しますが(日本の各地を巡って、不思議な事件の情報を集めているとかいう。

言耶は怪談とかだけど)。

ラスト二行で明らかになる皮肉な事実には、更に打ちのめされてしまった。今までの

道尾さんとは明らかに違う終わり方ですね。こんなに突き落とされる終わり方は

珍しいのでは。道尾さんといえば、いつもラストに救いを持たせて、光を感じさせる

ものがほとんどだったから。まぁ、この事実を知ったのが、幸人だけだったのが

まだ救いなのかな。それを教えた人はもちろん、教えられた当人も、きっと一生

知らないままなのだろうから。

良かれと思ってしたことが、思わぬ悲劇を招いてしまう、典型的な例じゃないかと

思いました。余韻は残るけど、どうにも出来ないやりきれなさだけが苦く残り

ました。

道尾さんらしい、緻密に計算された読み応えのあるミステリーでした。

重かったけど、面白かったです。やっぱり道尾さんはすごい作家だな。