ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

ほしおさなえ「言葉の園のお菓子番 見えない花」(だいわ文庫)

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ほしおさん最新作。今回もとっても素敵な物語だった。最近のほしおさんの作品は

どれも外れがないなぁ。連句という、日本ならではの文化をとても大事に伝えて

くれる作品だった。最近はテレビの影響から俳句ブームで、俳句は世間の人にも

馴染み深いものになりつつあると思うけれど、俳句と似て非なるジャンルに連句

というものがあるということを、今回初めて知りました。学校の国語の授業でやった

のかなぁ?全然覚えてないんだけども^^;複数の人物によって創作される俳諧

連歌のことで、前句に後句をつけあいながら一つの詩を作り上げて行くこと、

らしい。そもそも、もともとはこちらが主流で、この連句の第一句にあたる発句が、

独立して俳句と呼ばれるようになったそうな。ふむふむ。連句のルールは非常に

細かく規定があって、覚えるまではかなり大変そう。本書の主人公一葉は、亡くなった

祖母の代わりに連句会に出席することになるのだけれど、初めのうちはかなり、

その独特のルールに戸惑ってました。一度覚えてしまえば面白くなって行くのかも

しれませんが。他の人が作った句に自分の句を重ねて、更にその句に他の人が別の

句を重ねて行って・・・と、複数の詠み人によって、ひとつの物語を作り上げて

行く過程は、なかなかに興味深いものがありましたけれど。ただ、語彙力も発想力も

貧困な自分にはハードルが高そうだよな~、と思いました^^;一葉が思いついた

句はどれも素敵なものばかりでしたね。一葉は、言葉の選び方が上手だなぁと思い

ました。

連句会の他の会員さんたちも、みんな素敵な人ばかりで、連句会での一葉や他の

人々とのやり取りには、ほんわか温かい気持ちになりました。一葉の祖母の治子

さんが、連句会でとても愛されていたからというのも大きいでしょうけれど。

連句会にとって、治子さんの喪失はとても大きく、悲しいものだったのでしょうね

・・・。でも、一葉が入ることによって、治子さんの思い出も蘇ることになって、

他の人々も良かったのではないかなぁ。そして、治子さんがいつも持って来ていた

差し入れのお菓子も、一葉によって復活しましたしね。治子さんが差し入れしていた

お菓子は、どれもとっても美味しそうだった。多分実在するものばかりだろうから、

いつか食べてみたいなぁ。

ただ、ひとつ気になったのは、一葉が毎回持って行っているお菓子代がどうなって

いるのか、という点。お昼をみんなで持ち寄る日はともかく、午後からの時は一葉

だけがお菓子を差し入れする訳で。治子さんはそれを自腹でやっていたのかなぁ。

お菓子代とか徴収する人とは思えないから、多分そうなんだろうけど。でも、

一葉は現在勤めていた書店がなくなって、職を失っている状態ですし、毎回

7~8人分のお菓子代を自腹で払うのって意外と大変なのでは、と思ってしまった。

まぁ、月に一度ではありますけれど・・・。差し入れって形で持って行ってるから、

多分自腹だと思われ。誰もそのことについて言及しないのが不思議でした。一葉が

無職で求職中なのはみんな知っているのにな。私だったら、月に一度とはいえ、

毎回は負担に思うけどな。治子さんから受け継いだものだから、仕方がないと

思ってるのかもしれませんけどね。

でも、連句会に参加したことがきっかけで、一葉も書店員の時に培ったポップ作り

という能力を、別の形で仕事に生かすことが出来たのだから、まぁいいのかな。

一葉のポップ作りの才能は、もっといろんな形で発展出来るといいな、と思いました。

単独で作る俳句とはまた全然違った魅力があって、連句というものにとても興味が

湧きました。日本の大事な文学のひとつとして、もっと広く知られて欲しいですね。

今後シリーズ化されるようなので、次作もとても楽しみです。