ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

今村昌弘「兇人邸の殺人」(東京創元社)

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シリーズ第三弾。神紅大学ミステリ愛好会の二人、葉村譲と剣崎比留子は、斑目

機関の研究材料を集める製薬関連企業・成島グループの子会社社長・成島陶次

から依頼を受けて、生ける廃墟と呼ばれる廃墟テーマパーク『馬越ドリームシティ』

に赴くことに。園内に併設されている洋館『兇人邸』に、斑目機関の研究成果が

隠されているという。現地に向かった二人は、そこでおぞましき殺戮者と対峙

することに――。

著者の真価が問われ始めるシリーズ三作目ですが、今回もなかなかにぶっ飛んだ設定

で、しっかり本格テイストも盛り込んで、読み応えたっぷりの一作になっております。

今回の舞台は廃墟テーマパーク内にそびえ立つ洋館『兇人邸』。その名の通り、

兇人が潜む、おぞましき館でございます。兇人の設定に関しては、いろいろとツッコミ

所もあるとは思いますが。イメージは完全に○ランケンシュタイン・・・。

細かい伏線の妙にはただただ感心させられるばかりでしたが、いかんせん、館の

構造がわかりづらくて。見取り図は挿入されているものの、なかなか文章だけでは

彼らのいる場所のイメージが湧かず、現況が把握しづらかった。本館と別館の区別

すらよくわかってないまま読んでいたという・・・(ダメじゃん^^;)。

いくら何でも、こんなトンデモない存在を隠したまま、敷地内にテーマパークを

作って一般人に公開するなんて出来るわけなかろう、というツッコミは必至。その上、

その異形のモノとテーマパークのオーナーは一緒に暮らしてたっていうのだから。

しかもしかも、従業員が何人も失踪してる。失踪した従業員の家族とかが

騒ぎ立てたりしなかったのかな、とか。例え、天涯孤独の人物ばかりを選んだと

しても、知人友人や恋人の一人はいたでしょうし。このSNS時代、どっかから

情報も漏れるだろう、とかね。

と、突っ込みどころは満載ではあります。ただ、その辺りは一作目も同じだった訳

でして。その辺りは目をつぶって、こういう世界なんだ、と思って読みすすめる

べき作品なのはわかっているのですけれどね(それでも、ついついツッコミたく

なってしまう^^;)。

ただ、その辺りに目をつぶれば、本格ミステリとしては、非常に緻密に構成されて

いて、良くできていると思いました。いろんな仕掛けが施されてますし。読者を

スリードさせる手腕はさすがだと思います。初登場から胡散臭さ満載の剛力さん

(ついつい彩芽さんをイメージしてしまいましたがw)もそうですし、意味深に

挿入される追憶パートに出て来る三人の人物の中の生き残りに関しても。それに、

巨人の正体にも驚かされたなー。エゴにまみれた人体実験の結果がこれかと思う

と・・・犠牲になった子供たちが哀れで仕方がなかった。巨人が、なぜ手当たり

次第に殺戮を繰り返すのか、その理由を知って、やりきれない気持ちになりました。

そして、兇人邸の雑賀殺しの犯人の犯行動機にも。身勝手な理由なのは間違いない。

そんな理由で、人を殺していい訳もない。でも、ある人物への強い想いに胸が苦しく

なりました。

でも、今回一番衝撃的だったのは、何といっても、ラストで比留子さんが例の鍵を

手に入れた方法ですね。まさかの方法に唖然としました。その光景を思い浮かべる

と、おぞましさに背筋が凍るようですが・・・淡々とその方法を葉村くんに告げた

比留子さんにも、ちょっとぞっとしてしまった。若い女性が経験するにはあまりにも

ハードすぎやしないか・・・。普通はトラウマになるよ^^;

それにしても、今回は主役の二人以外の脇役のキャラ造形はみんなロクでもないヤツ

ばかりだったなぁ。成島は自分のことしか考えないクソ野郎だし、使用人の

雑賀や阿波根は私利私欲に走って館の骨董品を盗む盗人だし。記者の剛力は裏が

ありそうな言動繰り返して好感ゼロだったし。傭兵たちはまだましだったけど、

女性のマリア以外はいまいち誰が誰やら区別がつかなかったし(これは多分私の

読み取り不足なだけですが)。

でも、今回の事件で、比留子さんが思った以上にずっと葉村君の存在を大事に思って

いるのがわかって嬉しかったです。巨人のいる別館に一人取り残されてしまっても、

常に心配していたのは葉村君のことなんだもの。そこに恋愛感情が入っているかは

よくわからないですが・・・今は大事なワトソンって感じなのかな。

葉村君自身も、自分が比留子さんにとって必要な存在なのか悩むところだったと

思いますが、この事件で吹っ切れた感じがありますね。次作以降では、より二人の

結びつきが強くなって、良いコンビになりそうな予感。

次はどんな隠し玉で来るかな。まだまだいろんな引き出しが残っていそう。

っていうか、ラストに出て来た人物、誰?って思った人絶対多いと思う。私も、

全然覚えがなかったので、いろいろネット検索しちゃったよ。一応わかったけど、

ここで出て来た意味がさっぱりわからん。次作への引きなんでしょうけど。

次が出る前に、一作目をおさらいしておかなきゃダメかもなぁ。