ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

有川ひろ「みとりねこ」(講談社)

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有川さん最新刊。猫好きさん(有川さん)による、猫好きさんの為の短編集、

という感じ。猫が出てくる作品ばかり七篇が収録されています。うち二篇が

旅猫リポート外伝、うち一篇が『アンマーとぼくら』外伝。両作品のファンは必読

じゃないでしょうかね。どの作品も、有川さんの猫愛を深く感じました。私自身は

猫派犬派でいえば、どちらかといえば犬派ではありますけど(どっちも飼ったことは

ないけど^^;)、もちろん猫さんも見ている分には愛らしいと思いますし好きです。

ただ、自宅の庭にちょいちょいうん○をされるので、反面、憎らしいと思っていたりも

するのですけれど・・・(お庭がある家の人あるあるだと思います。ヤツら、必ず

真夜中にやってきて、人の見ていないところでブツをぶっ放して行きます。正直、

殺意が芽生える時もあります・・・猫好きの方はそれくらい見逃してやって欲しいと

思われるでしょうが、実際やられる方はたまったものではないのです。臭いとか

酷いし、後処理大変だし、迷惑千万なのです、まじでほんとに(涙))。

でもまぁ、今回出て来たいろんな猫さんたちの愛らしく、いじましい姿には、こんな

邪なワタクシめでも、やっぱりその都度ノックアウトされてしまったのでした。

 

では、各作品の感想を。

『ハチジカン~旅猫リポート外伝』

ナナを飼う前にサトルが飼っていたハチという猫との出会いと、別れを描いた作品。

本編でもハチのことは確か触れられていましたよね。両親の事故がきっかけで、

ハチと辛い別れを経験せねばならなかったサトルの心情を思うと、辛くやりきれ

なかったです。せめて、ハチが素敵な家族の元に引き取られてよかったですが。

でも、新しい飼い主の元にもらわれていったハチが、少しづつサトルのことを忘れて

しまうのが切なかった。終盤せっかく思い出したというのに、あんな運命を迎えて

しまうなんて。運命というのは、なんて残酷なんだろうと思いました。せめて、

ひと目でいいから、サトルと再会させてあげたかったな・・・。

 

『こぼれたび~旅猫リポート外伝』

こちらは語り手が本編と同じナナに戻って、ナナの飼い主候補を巡る二人旅の

こぼれ話。

今回の候補は、サトルの大学時代の恩師。その恩師とは、ある出来事を巡って

仲違いしていて、大学以来全く連絡を取り合っていなかった。サトルが恩師を

怒らせたというのが意外だったのですが、理由を知って納得しました。サトルは、

ただ、恩師の子供に自分のように後悔してほしくなかっただけだった。恩師も

サトルも、少しづつ言葉が足りなくて、誤解を生んでしまったのが悲しかった。

こんな形でも、再会出来て、過去のことを謝ることが出来て、二人とも嬉しかった

んじゃないかな。恩師は、この後で、再び辛い思いをすることになるでしょうけれど。

 

『猫の島』

『アンマーとぼくら』外伝。これは猫にまつわるアンソロジー(『ニャンニャン

にゃんそろじー』)で既読。片目がつぶれたおばあさんの正体は大抵の人が

見当がついてしまうと思うけど、リョウとの会話の場面が好きでした。リョウの

父親はロクでもない人間ではあるけど、溺れた猫を身を挺して助ける優しさも

持ち合わせていた人だったんですよね。晴子さんはそういう所に惹かれたのかな。

 

『トムめ』

猫との日常を日記風に描いた掌編。これこそ、猫好きさんあるあるでしょうね。

 

シュレーディンガーの猫』

生活力と人間力皆無の漫画家の妻が妊娠した。彼女が、里帰り出産を終え

我が子と家に帰ると、漫画家の夫は黙って子猫を拾って飼っていた――。

子猫を育てることで、人として成長して行き、子供の父親としても成長して行く

夫の姿が軽妙に描かれていて、とても楽しい作品でした。気の強い奥さんのキャラも

良かったな。子猫の育て方をY知恵袋で聞きまくるシーンにウケました。リアル~。

今はこうやってインターネットで何でも検索したり聞いたり出来るから、本当に

便利な世の中だよね。ありがたや。鳴かず飛ばずの漫画家が、ジャンル違いの

猫と子育て日記漫画でブレイクするっていうのも、なんだか今どき。

 

粉飾決算

亡くなった父親の思い出を語るお話。特別猫好きとも思えない父親になぜか懐いて

いた家の猫。父親も、表面では無頓着でさほど可愛がっていなかったように見えて

いたのだが、実は――。

当の飼い猫が父親に一番懐いていたのだから、真相は推して知るべし、ですね。

動物って、家の中の序列を見抜くって言いますしね。これも猫あるあるなのかな。

 

『みとりねこ』

猫又になったら死なないでずっと家族といられると知った猫の浩太。弟分のこの家の

次男坊・浩美の為にも、なんとかして猫又になれないものかと考えあぐねる。家猫

仲間のダイアナと出した答えは――判子。浩太は、来たるべく未来の為に、判子を押す

練習をすることに。

終盤の展開が見えているだけに、これは終盤読むのが辛かったなぁ。こういうのは

反則だと思うよ・・・ほんとに。動物飼うのは可愛いし楽しいけど、やっぱり最後は

絶対こういう場面に出会わなきゃいけない訳で。めだかだって辛いけど、犬や猫と

比べるのはやっぱり違うと思うし。浩太がいじらしくて、泣けて来ました。猫又に

なってほしかったな。そんなの無理だってわかっていても。最後、浩美と会えて

良かった。

 

付録として、初回だけ『シュレーディンガーの猫』に出て来たツクダケイスケ

の短編漫画が別冊で付いているようです。図書館の本にも付属として付いていた

ので、読めて良かったです。まぁ、あってもなくても・・・って内容だったけど^^;