ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

本多孝好「アフター・サイレンス」(集英社)

f:id:belarbre820:20211014202633j:plain

久しぶりの本多作品。タイトルから内容が想像しにくかったですが(これは氏の

作品では珍しくないけど)、とても良かったです。警察内にある、犯罪被害者

やその家族のアフターケアを専門に請け負う、心理カウンセラーの高階唯子の

活躍を描いた連作集です。警察内部にこういう部署があるというのは、実際に

あることなんでしょうか。今まで、こういう切り口の作品を読んだことがなかった

ので、とても新鮮でしたし、確かに必要な仕事なのは間違いないなと気付かされ

ました。もちろん、一般の病院に通う人もいるのでしょうけど、アフターケア

としてこういうフォロー部署が警察内にあるというのは、いかにもリアリティが

ありますね。学校だってスクールカウンセラーを常駐させなきゃいけない世の中

なんですから。犯罪被害に遭った人々のフォローは絶対に必要なことだと思います。

今回、唯子が担当するのは、不倫相手に夫を殺された妻、兄をトラックに轢き殺

されたペルー人青年、娘を強姦し惨殺された余命僅かの老人、家出の間、匿って

くれた誘拐犯を庇うような発言をする女子高生、姉を殺した元交際相手の犯人を

憎み、七年後、自らの手で復讐しようと企む青年――どのお話でも、やりきれない

思いを抱えたクライエントたちと寄り添い、少しでも彼らの心の負担を軽くしようと

奔走する唯子の姿に心を打たれました。そうした唯子自身も、自らの父親が起こした

事件によって、心に大きな闇を抱えています。父親のせいで被害を受けた被害者

家族に対して、常に後ろめたい気持ちを抱え、自分は幸せになる資格がないと

殻に閉じこもる彼女の言動が切なく、やるせなかったです。好きな男性とも別れ、

被害者遺族の男性と傷を舐め合うような同居生活を始めた辺りも、そこまでする

必要あるのかな、ともやもやした気持ちになってしまった。カウンセラーという

特殊な仕事に就いているが故に、余計に重責を負ってしまったのでしょうね・・・。

心の中で葛藤を抱えながらも、被害者遺族の心を癒そうと必死になる唯子の姿は、

好ましいと同時にとても痛々しかった。唯子自身が誰かにカウンセリングを受ける

べきなのでは、と思ったくらい。せめて、元彼で刑事の仲上が近くにいてくれて

良かったなぁと思いました。フラレても何事もなかったかのように唯子と接し、

彼女を変わらず想う仲上にキュンとしちゃいました。二人が最後どうなるのか、

すごくドキドキしましたが、最後は少し希望の持てる方向に進んだのでほっと

しました。しかし、仲上は唯子の父親の事件のことを知っているのかな?刑事

何だから、知ってて当然なのかな?(作中にその辺りの説明描写が出て来てなかった

ような覚えがあるんだけど、読み逃しただけなのかも?^^;)そうだとしたら、

唯子は、仲上にきちんといろんなことを打ち明けるべきだと思うんですけど。

何も知らせず、いきなり別れを切り出したのは、ちょっとひどいと思いましたねぇ。

まぁ、事情が事情だから、仕方がなかったとはいえ。雅弘とのことに決着がついた

後は、ちゃんと彼との関係も説明するべきですね。一人、何も知らない仲上が

ただただ、可哀想だと思いました。これから、友達として一から始めるんだったら、

まずはその辺りのフォローからでしょうね。唯子自身は、もう仲上への気持ちを

認めているんだから、その先は明るい未来が待っていると信じたい。

大事なひとを殺された人々が、その後で何を思い、悩むのか。いろんなタイプの

症例があって、考えさせられました。どんなにアフターフォローとしてカウンセリング

をしたところで、所詮、亡くなった人は帰って来ない。その喪失感をどう向き合う

べきなのか。周りは、どうフォローしていけばいいのか。深く、重いテーマと

まっすぐ向き合った良作だと思いました。