ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

燃え殻「これはただの夏」(新潮社)

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最近お気に入りの燃え殻さんの新作小説。小説は二作目に当たるそうなのですが、

実は一作目をまだ読めていない^^;エッセイしか読んでいないので、小説を

読むのは初めてでしたが、エッセイ同様、心にずしりと来る一作でした。とても

薄くて、多分二時間もあれば読めちゃう作品ではありますが。

テレビ制作の仕事に携わり、なんとなく日々を消費し続ける主人公のボク。一緒に

仕事をする太ったディレクター大関と共に、営業がてら取引先の広告代理店の社員の

結婚披露宴に潜り込み、そこで一人の女性と知り合いになる。その後、その女性

と思わぬ場所で再会したボクは動揺する。一方、ディレクターの大関はステージ4

のガンが見つかり、入院することに。大関を見舞う傍ら、なぜかボクは同じマンション

の同じ階に住む小学生の女の子の面倒まで見る羽目になってしまい――。ひとりで

生きて来たボクが、あの夏、いっときだけ過ごした特別な、ただのひと夏の出来事。

ただ、だらだらと日々を過ごして来た主人公が、なぜか小学生の女の子とフーゾク業

の美女とひと夏を過ごすことになる。それぞれに事情を抱えて、生きづらい世の中で

たったひとときの、平和な夏が訪れる。三人で過ごす場面がとても好きでした。

主人公の部屋で女の子が作るチャーハンを食べるシーンや、三人でプールに行く

シーン。夢の中みたいにその時間だけがキラキラしているように思えました。

それだけに、その後それぞれの人物とあっけなく訪れる別れが切なかったな。どちら

の事情も、はっきりと明かされていないし。一体何だったの!?って感じで

あっけに取られてしまった。そして、大関ディレクターのパートは一番心に

ずしっときました。冒頭のスーツが、最後になってこういう使われ方をするとは。

伏線の使い方が上手いな、と思いました。やりきれない気持ちでいっぱいでは

ありましたけどね。タクシーのラジオから流れるリクエストの言葉と曲が切なくて

悲しかった。マネタイズには、もう少し早くこのリクエストに答えてもらいたかった

なぁ。きっと、主人公も、『遅いよ!』ってツッコんでたんじゃないかな。

なんだかんだで、主人公は大関さんのことが大好きだったと思うから。

短い作品ですが、私には結構刺さりました。アマゾンレビューの中にはかなり酷評

してるものを見られましたけど。確かに主人公と明菜と優香とのエピソードはもう

一歩踏み込んで書いて欲しい食い足りなさはありましたけどね。でも、燃え殻さん

の文章、私はやっぱり好きだな。話題になった一作目も早く読まなければ。